悪夢

 とても息苦しかった。プリシラは大きく呼吸をしようとしたが、叶わなかった。目の前には大好きな両親が立っていた。


 二人はそれまでに見た事がないほど怖い顔をしていた。父親はプリシラに言った。


 お前はベルニ家の恥さらしだ。


 優しかった母親は、汚いものを見るような目でプリシラに言った。


 お前なんて産むんじゃなかった。


 プリシラは泣きながら両親に慈悲をこうた。


 ごめんなさい、ごめんなさい。お父さま、お母さま。きっと魔法使いになるから、だから私を見捨てないで。


 プリシラは泣きながら母親のドレスのすそをつかんだ。母親はピシャリとプリシラの小さな手を引っ叩いた。


 プリシラは手の痛みと、心がズキズキする痛みで、ひたすら泣き続けた。


『プリシラ、プリシラ。なぁ、起きろよ』


 ハッと目を覚ますと、プリシラの契約霊獣のタップが、心配そうにプリシラの顔を覗きこんでいた。どうやら小さな頃の夢を見てうなされていたようだ。


『プリシラ、うなされてたぜ?怖い夢でも見たのか?』

「うん。起こしてくれてありがとう、タップ」


 プリシラはタップのフワフワの毛並みを撫でた。タップを撫でるたびに、ささくれた神経がおだやかになっていく。


 プリシラはベッドで仰向けになったまま、フウッと深呼吸をした。ベッドが変わったためだろうか。久しぶりに小さな頃の夢を見た。


 タップは心配そうに、どんな夢だったのか質問した。プリシラは苦しげに微笑んで答えた。


「私が小さい頃、エレメント契約をした時の夢よ」

『エレメント契約?ああ、人間が魔法を使う時にする契約だな?』

「うん。両親は、私に火、水、風、土すべてのエレメント契約をしてほしかったの。だけど私が契約できたのは風のエレメントだけだった」

『そんな事だけでプリシラをいじめたのか?お前の両親やっぱりムカつく。俺は風魔法の霊獣だ。風魔法で何だってできるぜ?プリシラは風魔法を使う、立派なエレメント使いだ』

「ありがとう、タップ」


 プリシラはベルニ子爵家という、優秀な魔法使いを輩出する貴族の家に次女として生まれた。長女のエスメラルダは、幼い頃からすべてのエレメントと契約して、魔女として将来を有望視されていた。


 プリシラにも大きな期待がかけられていた。プリシラも当然すべてのエレメント契約をするはずたった。いや、しなければいけなかった。だがプリシラは風のエレメントしか契約できなかった。


 両親はプリシラに失望した。プリシラは両親に見放されたのだ。

 

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