プリシラの魔法
マージはプリシラとタップを、物置部屋に案内してくれた。そこにはたくさんの物が置かれていた。マージはすまなそうに言った。
「ごめんね?ごちゃごちゃしてて。このガラクタを外に出して、貴女たちの部屋にしましょう」
プリシラは、マージが手近の荷物を持ち上げようとするのを手で止めて、抱っこしているタップをマージに預けた。
プリシラは意識を集中して、風魔法を発動させた。部屋の中にひしめいていた荷物たちがフワリと浮き上がり、部屋から出て行った。それを見たマージは、驚きの表情で言った。
「すごいもんだねぇ、魔法って」
「いいえ。私は風魔法しか使えないから、ちっともすごくなんかないんです」
「そうかい?魔法がちっとも使えない私からしたら、トビーの魔法もプリシラの魔法もすごいと思うけどねぇ」
マージの賞賛に、プリシラはあいまいにうなずいた。
荷物を出した後、軽く掃除をし、ベッドにシーツと毛布をいれて、プリシラとタップの部屋が完成した。
ちょうどその頃、トビーが配達の仕事から帰って来た。マージはプリシラとタップの歓迎会だといって、腕によりをかけて夕食を作ってくれた。
トマトがたっぷり入ったミネストローネと焼きたてのパン。タップにはニンジンを食べさせてくれた。
和やかな食事の後、トビーはしきりにプリシラの魔法をほめた。
「でな。すごいんだぜ、おばちゃん。プリシラが風魔法を使ったら、大男が吹っ飛んじまったんだ!」
「へぇ、それはすごいねぇ」
マージは楽しそうに話す甥を嬉しそうにながめた。その姿はまるで本当の親子のようだった。
マージはプリシラに向き直り、あらたまって頭をさげた。
「プリシラはトビーを助けてくれたんだね?本当にありがとう」
プリシラは恐縮しながら自分も頭を下げた。プリシラとタップは、結果的にトビーに助けられたからだ。
トビーは目をキラキラさせながらプリシラに言った。
「ねぇ、プリシラ。俺ぜったい悪い事に魔法を使わないからさぁ、風魔法を教えてよ!」
プリシラはため息をつきながら考えた。どうやらトビーは、配達のためかなり離れた街に行く事もあるそうだ。そのため時には野宿をする事もあるらしい。それならば自衛のために、攻撃の風魔法を知っておいてもいいのかもしれない。
プリシラは少し怖い顔をして言った。
「わかったわ、トビー。貴方に風魔法の使い方を教えてあげる。だけどこれだけは約束して?魔法は自分の身を守るためと、困っている誰かのためにしか使わないって」
トビーは頬をピンク色にして、元気よくうなずいた。
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