第12話 女の子の正体


「リン?」

 女の子が目を覚ました。

 女の子は僕のこと知ってるんだ……。


 僕はそっと女の子を見た。

 あれ? 見たことある。女の子のシアンだ。

「シアン?」

「リンどうしたの?」

 シアンだ。よかった。知らない女の子を連れ込んでやらかしたのかと思った。

 ふぅ。


 いや、裸ってことは、まさかシアンと……。

 いくら記憶を辿っても、宿に戻ってベッドの上でキスしたところまでしか思い出せない。

「シアン、昨日の夜のこと覚えてる?」

「覚えてるぞ」

「僕、宿に戻ってキスしたところまでしか覚えてないんだけど。その後、何した?」

「暑いと言って服を全て脱いだ」

「そっか。その後は?」

「我の服も脱がした」

「そ、そう。ごめん。その後は?」

「我と繁殖行動に及んだ」

 やっぱりやらかしてた……。

 まさか人型とはいえ神獣と。


「は……繁殖。ごめんね」

「なぜ謝る?」

「えっと、シアン嫌じゃなかった?」

「リンがたくさん好きだと言って、愛していると言ってくれたから、嬉しかった」

「そっか。もうしないから。ごめんね」

「なぜもうしないんだ? リンは我のことを好きではなくなったのか? 好きと言ったのは嘘だったのか?」

「違うよ。シアンのこと好きだよ。でも、僕は人間で、シアンは神獣だから」

「我はリンが好き。リンの全てが欲しい。たくさん抱きしめて、たくさんキスして、たくさん好きだと言ってほしい。

 我は、神獣ではなくリンと同じ人間になりたかった」


「シアン……。

 ごめん。人間だとか神獣だとか、そんな線引きしてごめんね。僕もシアンが好きだよ。

 シアンが人間じゃなくても僕はシアンが好きだよ。

 シアンと、その……行為に及んだって聞いて、動揺しちゃっただけ」

「なぜだ?なぜ動揺したんだ?好きな相手との子を望むことはおかしなことではないだろう?」

「そうだけど、子を望む……。

 シアン、僕とシアンの間に子供なんてできるの?」

「分からん。我が人型で あれば繁殖行動ができるということは分かったが、子ができるかは分からん。できたとして、どのような姿の子供が産まれるのかも分からん。

 リンは我との子を望むか?」


「分からない。まだ僕は結婚とか子供とか、考えたことなかったから。シアンは?」

「我は……どのような姿で産まれるのか分からないから無責任なことはできないと思うが、それでもリンとの間に子ができれば嬉しい」

「そっか」

「それと、我は不安なんだ。

 人間は短命だから、リンと一緒にいられる時間が短いのではないかと不安になる。また1人になるのではないかと思うと、怖い」


「シアンは何年生きてるの?」

「我はただの熊として60年、魔物になって1700年ほど、神獣になって数日だ。リンは? まさかもう寿命じゃないよな?」

「1700年。そっか。確かに人間は長くても100年だから短命に思えるよね。

 僕は21歳だよ。

 きっとシアンは神獣になったから、もっとずっと長く生きるんだろうね。この先千年とか生きるのかも。それを考えると、僕と過ごす時間なんてほんの一瞬なんだね」

「リン、死なないで。ずっと我と一緒にいて欲しい」

 シアンは裸で女の子の姿のまま涙を流した。


「シアン……

 僕が人間でごめんね。シアンが僕と同じ人間になりたいって言ったように、僕もシアンと同じ神獣になりたい。神獣じゃなくても、もっと長く生きられる種族になりたい」

 僕は涙を流すシアンを抱きしめた。

 僕の目からも涙が流れた。


「リン、好き。キスして。いっぱい抱きしめて」

 可愛い女の子に裸でそんなこと言われたら、僕だって男だからその気になっちゃう。それに可愛いだけじゃない。大好きなシアンから言われたら僕はシアンが欲しくなる。

 僕は、酔った勢いじゃなくシアンを抱いた。

 僕は幸せだったけど、シアンは幸せなのかな?


「リン、好き」

「僕もシアンのことが好きだよ」

 そのまま僕たちはしばらく眠った。

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