第9話 初仕事


 受け取ったカードには名前と『G』と書かれていた。


「Gというのは?」

「ランクです。依頼を達成したりギルドに貢献するとランクが上がり、ランクが上がるとより難しく高額な依頼を受けることができるようになります。お二人は登録されたばかりなので、Gランクの依頼しか受けることができませんが、依頼を多く受けて、強い魔物を倒しているとランクが上がります。

 依頼を受けてみますか? 依頼は朝に貼り出すので、この時間ではいい依頼がないかもしれませんが」


「シアン、やってみる?」

「いいぞ」

「いいのがあるか見てみようか」

「依頼を受けるときは、掲示板から依頼書を剥がして受付まで持ってきて下さい」

 僕とシアンは掲示板を見に行った。



「そういえばシアンって読み書きできるの?」

「したことない」

「だよね。だと思った」

「でも読める」

「スキルかな?」

「そうだな」

 シアンの口数が少ない。なんだか機嫌も良くない気がする。



「シアンどうした? 嫌なことがあった?」

「リンのことを変な目で見ている奴が大勢いる」

「あぁ。あんなの気にしなくていいよ。手を出してきたわけじゃないんだから」

「我の大切なリンなのに」

「大丈夫。僕は意外と強いみたいだし。シアンが守ってくれるんでしょ?」

「もちろんだ」


 僕は繋いでいたシアンの手をギュッと握った。

 そしたら、シアンもギュッと握り返してくれた。


「シアン、掃除って浄化でできる?」

「できるんじゃないか?やったことはないが」

 そうだよね。ちょっと前まで魔物だったのに、掃除なんてしたことないよね。


「これ、受けてみようよ」

「いいぞ」

 僕は水路の掃除の依頼書を持って受付に行った。


「これ受けます」

「かしこまりました」

「これ、掃除が終わったらどうすればいいの?」

「水路管理の事務所に行ってここにサインをもらってきて下さい」

「うん分かった」


 水路管理の事務所ってところに行ってみよう。

 水路ってってもどこからどこまでやればいいのか分からないし。勝手に始めていいのかも分からない。


「シアン、事務所に行ってどこからどこまでやればいいのか聞いてみようよ」

「そうだな」


 ギルドを出て街を進んでいく。

 ここの街はヨーロッパの街並みみたいだな。

 石を積み上げた家や木でできたログハウスのような家が立ち並んでいて、露店のような簡易的な店もたくさんある。

 バイトしてちゃんとしたご飯を食べたいな。

 きっと料理ってものを食べたことがないシアンにも食べさせてあげたい。


「こんにちは。水路の清掃に仕事に来たんですが、どこを掃除すればいいですか?」

「お嬢ちゃん、そんな綺麗な格好で水路の掃除なんかできねぇよ」

「大丈夫。で、どこ掃除すればいいの?」

「どこでもいい。範囲は街全部だが、冒険者の奴らはだいたい4時間ほど真面目に掃除したら依頼達成にしてやってるよ」

 全部か。手作業ならそれでもなかなかキツイ仕事なんだろうな。


「そうなんだ」

「お嬢ちゃんとそこの綺麗な男は初めてなのか?」

「そうなの。依頼を受けるのも初めてなの。だから分からなくて」

 いつもの上目遣いであざと可愛いを発動しながらおじさんに話しかける。


「しょうがないな。2時間でいいよ。2時間頑張ったら依頼達成にしてやろう」

「ありがとう。頑張るね」



「リン、我は嫉妬する。可愛い顔をあんな男に見せて」

「シアン、これも仕事のやり方だよ。大丈夫。好きなのはシアンだけだから」

「そうか。ならいい」

 嫉妬か。シアンは可愛いな。

 それにしても範囲は街全部か。どうやってやろうかな。


「シアン、どうやってやろう?」

「水路だけ綺麗にするんだろ? それなら我がサッと終わらせる」

「え?」

 その瞬間にシアンは水路に向かって魔力を流した。


「終わった」

「もう?」

 確かにさっきまで漂っていた水路からの悪臭はもう無い。

 街に入った時から、この水路のドブみたいな匂い気になってたんだよね。なんで蓋しないんだろうって。


「どうやってやったの?」

「リン、キスしたい」

 キスしないと教えないってことか。

 最近それ多いな。シアンのキスの虜って称号を見てから、シアンは前よりキスをしたがる。


「こっち来て」

 僕はシアンの手を引いて建物の影に入った。


「人間は、人前ではあんまりキスしないんだよ。覚えておいて」

「分かった」

 重なる唇。シアンの愛情が流れてきて、浄化のやり方も流れてきた。

 シアンは水路全体に魔力を行き渡らせて、そこで浄化を使った。ただそれだけだったけど、MPが多いシアンじゃないとできなさそう。

 僕だったら何日かに分けないとMPが無くなっちゃうと思う。

 心がシアンの愛情で満たされる。


 唇が離れるとシアンは僕を抱きしめた。

「リン、好き」

「僕もシアンが好きだよ」


 しばらく抱き合うと、水路管理の事務所に向かった。

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