第8話 街と身分証


 草原のようなところを1日歩いて、満天の星空を2人で眺めながら手を繋いで寝た。

 翌日になって少し歩くと、舗装はされてないけど道みたいなところが見えた。

 その道を進んでいくと、塀に囲まれた街っぽいのが見える。

 門の前には人が並んでて、きっとそこに並んで入るんだと思う。


 僕はイケメンのシアンと手を繋いでその列に並んだ。



「身分証は?」

「ない」


「じゃあ1人銅貨2枚ずつだ」

「銅貨……シアン、銅貨っての持ってる?」

「あったかもしれん」


 シアンは毛の間から茶色のおもちゃのお金みたいなのを出した。


「これで足りるか?」

「ああ。身分証を作った方がいいぞ。街の出入りに金がかかるからな」

「どこで作れるの?」


「冒険者ギルドか商人ギルドだな。職人ではなさそうだからな」

「お兄さんありがとう」


 僕はシアンと街に入った。


「シアン、お金持ってたんだね。どっから出したの?」

「まだ魔物だった頃に人間と戦ったことがある。その時のを取っておいた。

 ずっと忘れていたが毛の間に絡めていたんだ」


 戦ったって、取っておいたってことは殺っちゃったんだよね? たぶん。

 魔物だったんだし、襲いかかってきたのなら仕方ないか。

 毛の間から取り出したように見えたのは本当だったんだ。毛の間ってポケットみたいなものなの? 他に何が入ってるんだろう?


「そっか。冒険者ギルドってところ行ってみる? 商人ギルドなんて行っても何も売るものないし」

「そうだな。魔石は売ってもいいんだぞ」


「そっか。じゃあお金に困ったら売ろうかな。でもシアンが僕にくれた魔石は売りたくない。僕が倒したやつだけ売る」

「リン……我は嬉しい。リンは見た目だけじゃなく中身も可愛い」


「ありがとう」


 嬉しそうに僕に微笑むイケメンに、周りを歩いていた人が立ち止まる。

 分かるよ、その気持ち。



 僕たちは手を繋いで冒険者ギルドを目指した。


「ここかな」

「ここだな」


 入ってみたら、汚ったない男がたくさんいた。

 運動部のロッカーみたいだ。汗臭い感じもする。そして少し酒の匂いもする。

 僕に向けられる舐めるようにまとわりつく目も気持ち悪い。

 シアンが手を繋いでいてくれるから誰も近づいてはこないけど。


 だいたい冒険者ギルドってなんなの?

 とりあえず受付みたいなところに行ってみよう。


「ここで身分証が作れるって聞いたんだけど、作れますか?」

「作れますよ。冒険者として登録していただくと、ギルドカードが発行されます。それが身分証となります」


「そうなんだ。登録って何をすればいいの?」

「登録自体は、登録書類を記入いただくだけですが、低ランクの場合はしばらく活動をしないと登録が取り消しになります」


「活動って何をすればいいの?」

「そこに依頼掲示板があるので、その中から自分のランクに合った仕事を探して仕事をしていただきます。依頼を達成したらこのカウンターに来ていただければ報酬をお支払いします」


 なるほど。登録制のバイトみたいなものか。

「どんな仕事があるの?」

「低ランクのものは荷運びや農家の手伝い、掃除や薬草採集があります。

 高ランクになると、魔物や野盗の討伐、護衛などがあります」


「教えてくれてありがとう。シアン、登録する?」

「リンがいいならいいぞ」


「じゃあ2人とも登録します」

「この紙に必要事項を書いて下さい。分かるところだけでいいですよ。代筆はいりますか?」


「いらない」


 名前:リン

 武器:なし

 魔法:水、風、氷、火


「シアンのも書いてあげるね」

「頼む」


 名前:シアン

 武器:なし

 魔法:水、風、氷、火


「お願いします」

「え? 4属性?」


「何? 変?」

「いえ、お二人とも優秀なんですね。

 貴族などに目をつけられるといけないので、公にはしない方がいいですよ」


 受付のお姉さんが小声で話してきた。


「どういうこと?」

「だいたい使えるのは普通2〜3属性なんですよ。4属性使える人はとても貴重なんです。登録も3属性に変えますか?」


「そうします。どちらからも水を消してもらえますか? ちなみに5属性や6属性、それ以上使える人もいるんですか?」

「登録の件はかしこまりました。5属性の人は確か宮廷魔導士団に1人か2人いたと思います。6属性は分かりませんが、賢者と呼ばれた大昔にいた人が7属性だったという伝説が残っていますが、その存在自体が創作だとも言われているので眉唾かと」


「そうですか」


 そうなんだ。シアンは神獣だから当然として、僕もそうなんだ。本当は雷と空間も持ってるけど、まだ使ったことがないから書かなかった。書かなくてよかった。

 とんでもないことになるところだった。


「こちらに手を触れてほんの少し魔力を流して下さい」

「はい」


 丸い水晶玉みたいなのに手を触れると、カードが出てきた。

 シアンは神獣だけど大丈夫かな?

 少し不安だったけど、カードはちゃんと出てきた。


「街の出入りの際には門番にこのカードを見せて下さい」

「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る