第3話 魔法と食事


 シアンは僕を抱えたまま歩いていく。

 僕にとってはずっと同じ景色に見えるけど、シアンは方向とか分かるんだろうか?

 ずっと歩いてると日が暮れてきた。

 途中で何度か怪物が出てきたけど、シアンがサッと倒してくれた。僕はシアンがくれる魔石ってのをトランクに入れていった。

 色んな色があって、大きさも色々で、これは凄く綺麗。

 こんなにたくさん入れたらいっぱいになりそうだけど、なぜかまだ入る。不思議。



「シアン、夜がきちゃうよ。どうするの? 夜の森なんて怖い……」

「大丈夫。我は前より強くなったから。リン疲れたか?お腹すいた?」


「もしかして、ここで寝るの?森で……」

「そうだ。この辺でいいか」


 本気なの? キャンプ? いや、テントも寝袋もない。しかもいつ魔物という怪物が来るか分からない。

 寝るならメイクを落としたいな。本当は服が皺になるから着替えたいけど、着替えなんて無いし。


「シアン、メイク落としたいんだけど」

「メイク?」


 木の根元に腰を下ろして僕を腿に座らせたシアンを見上げて言うと、シアンは首を傾げた。

 でかい熊が首を傾げる姿は可愛い。

 そういえば、シアンは初めに出会った時と違って目は光ってないし、ぬいぐるみのように可愛い顔になった気がする。

 進化とかいうので変わったのかな?


「水なんてないよね?」


 クレンジングはある。洗顔は無いけど、紙石鹸でいいや。化粧水もあるし乳液もある。旅行用の小さいやつだけど。

 でも水がない。


「我が出すけど、飲むの?」

「顔を洗いたい。あと、カラコンも外したい」


「顔か」

 シアンは手を伸ばして大きな葉を千切った。

 そして器用に折りたたむと器のようにして、そこに水を入れた。手から水が出ているように見えた。

 もしかして、もしかしなくても魔法なの?

 薄々気付いてたよ。氷飛ばしたり、火も出てたよね。


「シアンありがとう」


 僕はクレンジングをメイクに馴染ませて、顔を洗い、ミニタオルで拭いて化粧水と乳液をつけた。

 そしてカラコンも外して洗った。

 化粧水も乳液も、街に行ったら買いたいけど、海外どころか異世界のって不安だな。


「リン、顔に何をつけた? 目から何を取った?」

「顔につけたのは肌を乾燥から守るものだよ。目のは視力を良くするのと、目の色を変えるやつ」


「あれ?リンの顔がさっきと違う」

「うん。メイク落としたから」


「でも可愛い」

「シアンありがとう」


「リンは魔物の肉を食べないから、木の実を取ってくる」

「うん。え?僕、1人で留守番するの?」


「大丈夫。結界張っておくから」

「結界……。分かった。早く帰ってきてね」


 怖いけど、すごく怖いけど、シアンが大丈夫って言うなら大丈夫なんだと思う。


 暗い森に1人。風が吹いて葉がザワザワと音を立てるだけで怖い。

 なんか遠くで狼みたいなの鳴いてるし。

 怖すぎる。シアン、早く帰ってきて……


 泣きそうになりながら待っていると、シアンは帰ってきた。

 なんか最初に会った豚の怪物が少し小さくなったような魔物を担いで。


「シアン、帰ってきてくれて嬉しい。怖かったよ・・・」

 安心したら少し涙が出た。


「ごめん。もう大丈夫だから。」

 シアンは僕をそっと掴むと、胸のところまで持ち上げて大切そうに抱えた。


 シアンがいてくれてよかった。

 僕1人なら、もうとっくに死んでたかも。


「リンのために木の実をとってきたよ」

「うん。ありがとう」


 シアンが差し出してくれた木の実は、マンゴーみたいな見た目の果物だった。

 匂いもマンゴー。


 恐る恐る一口食べてみると、やっぱりそれはマンゴーで、僕が今まで食べてきたどれより美味しかった。


「甘くて美味しい」

 僕がそう言うと、シアンは豚の怪物に齧り付いた。

 ウッ……グロい。

 分かってる。熊なんだからそうやって食べるのが普通なんだろう。


「リン、どうした?」

 そう言いながらこちらを向いたシアンの口の周りは血だらけだった。


「シアンが肉を生のまま食べていたから」

「変か?」


「変じゃないけど、僕は焼いたり煮たり生では食べないから」

「リンも肉食べるのか? 焼いたら食べるか?」


 焼いたら、食べれるかな? さっき豚肉みたいな匂いしてたし。


「じゃあ少しだけ」

 そう言うと、シアンは豚の怪物を丸焼きにした。

 そして、僕が食べやすいように爪でサクサクと切ってサイコロステーキみたいにして葉の上に乗せてくれた。

 シアンの爪ってそんなに切れ味いいんだ。ちょっと力入れたら僕なんて一瞬で死んじゃうんだろうな。


 見た目は豚肉に見える。匂いも豚肉。

 一つつまんで口に入れる。

 え? 味ついてる? 味は豚肉に塩を振って焼いた感じだった。パサパサしてないし煮込んだみたいに柔らかい。


「シアン、これ美味しい」

 僕はシアンを見上げてそう言った。


「リン可愛い。好き」

 なぜか抱きしめられて、僕はシアンの胸のところで肉を食べることになった。

 しかもシアンが食べさせてくれる。


 僕が暗くて怖いと言うと、シアンは光の玉をいくつも浮かべてくれた。


「綺麗」

「リンが喜ぶと我も嬉しい」



 ふぁー

「シアン、寝てもいい? 僕、眠くなっちゃった」

「いいよ」


 パニエは脱ごう。こんなのを履いては寝れない。ジャンスカも脱ぐか。ドロワーズとブラウスで寝よう。熊しか見てないんだし。

 パニエを脱いで、ジャンスカも脱いで、ヘッドドレスも外した。

 櫛で丁寧に髪を梳かして、草の上に寝転ぼうとしたら、シアンに抱き上げられた。


「リンはここで寝ればいい」

 仰向けになったシアンの胸の上に乗せられた。

 温かい。毛もフワフワしてるし。


「うん。ありがとう。おやすみ」


 僕は疲れてたから、すぐに眠ってしまったみたい。

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