第2話 熊の名前


「僕のこと運んでくれるの? ありがとう。僕の名前はリン。熊さんの名前は?」

「リン。ワレ、ナマエナイ」


「そっか。それはちょっと不便だね。いつまでも熊さんって呼ぶのもよくないし、毛の色が青っぽいから、シアンとかどう?」

「ナマエ、シアン」


 そう言うと、熊さんが突然光った。

 え? 何?


 さっきまで、黒のちょっと青を重ねたような色だった毛が、銀と水色に変わった。そして毛の質がフワフワになった。柔らかい。


「シアン、大丈夫? 毛が変わったんだけど、生え変わったわけじゃないよね?なんだろう?」

「リン名前ありがとう」


「え? なんか流暢な話し方になってない?」

「リンが名前をくれたから進化したみたいだ」


「進化?なんか分かんないけど、それって凄いことだよね?おめでとう」

「リンは我の主人になったんだよ」


「んん?どういうこと?」

「リンは我に名前をくれた。我はリンが好きだから契約した。そしたら、神獣に進化した」


「神獣って神の獣の神獣だよね?

 それって実在するの? でもシアンの毛の色は普通じゃないよね。

 僕、もしかして夢でも見てるのかな?」

「リン、これは夢じゃない。神獣に進化することは珍しいけど、この世界ではたまに起こる。

 我はリンを守る力を手に入れられて嬉しい」


「それって、まさかとは思うけどここって、地球じゃない?」

「チキュってのは分からない。ここは魔の森。もう少し奥に行くと魔力溜まりがあって、この辺りは強い魔物がたくさんいて危険だ。

 リンは何でここにいたんだ?」


「マノモリって、魔の森?魔力溜まり……。

 やっぱりここは地球じゃないみたい。

 異世界? なのかな?

 なんかアニメで見たことあるかも。僕、帰れないのかな? 怖い。不安だよ。魔物なんていたら、僕、すぐに死んじゃうんじゃない?」

「大丈夫。怖がらないで。我がリンを守るから。我もさっきまで魔物だった。我のことも怖いか?」


「シアンは怖くない。でも、この世界で生きていけるのか分からないから不安だよ。

 シアン、信じてもらえるか分からないけど、僕は違う世界から来たんだ。魔物なんていない世界だった」

「我はリンのことを信じる。リンは可愛いし、我に力をくれたから」


「シアン、ありがとう」

「ここは危険だから、人間がいる場所に行ってみるか? さっき行きたいって。そこならここよりは安全」


「うん」


 異世界転生とか転移とか、そんなアニメと同じ世界だとしたら、王様とか横柄な貴族とかいるのかな? あんまり見たことないから分かんない。

 言葉、通じるのかな?

 人間でもないシアンと話せてるんだから大丈夫なのかな?

 持ち物はこのトランク1つ。メイク道具と、基礎化粧品、スマホと、財布、ミニタオルとティッシュとアルコールスプレー、コンタクトケースと、まだたぶん色々入ってる。

 色々入ってるけど、食べ物はグミぐらいしか入ってない。

 財布なんて持ってても、円なんて使えないよね?カードもスマホ決済も使えないと思う。それにこの格好……。

 なぜよりにもよってゴスロリの服着てる時にこんなことに……。




「リン、敵が来る。掴まってて」

「え? 敵?」


 ん? 赤い目の豚? いや豚人間?

 顔がめちゃくちゃ怖い豚みたいな、黒いオーラを纏った怪物が来た。

 またしても死の危機?

 と思ったら、シアンが尖った氷の塊をいくつか飛ばして、それが敵に刺さった。

 豚の怪物は血を流しながら倒れていった。

 グロい……。


「リン、もう大丈夫。倒したから。あれ食べる?」

「え? あんな豚の怪物食べない」


 シアンは熊だから、あんなのも食べるのか……。


「じゃあ燃やすね。魔石はいる?」

「魔石?」


 シアンは豚の怪物を足で転がして、グチャっと胸の辺りに鋭い爪を立てて何かを取り出した。

 グロいグロい……。

 そして、血だらけの塊を僕に差し出した。


「血だらけ……」

「ごめん。汚かった」

 そう言うと、シアンの血だらけだった手とその塊についた血が消えた。

 シアンの手に乗った塊は僕の手のひらからはみ出すくらい大きい赤いルビーみたいな宝石に見えた。


「綺麗」

「じゃあリンにあげる」

「いいの?」

「これは魔石。たぶん人間が好き。この森に来る人間は魔物を倒してこの魔石を持って帰る。肉とか皮とか骨も持って帰るけど」


「さっきのも魔物?」

「そうだ。グランドオークって種類のやつだ。燃やすよ」

「うん」


 シアンはグランドオークと呼ばれた豚の怪物にどこからともなく火を放って一気に燃やした。

 ん? 豚肉を焼く匂い? 姿はヤバイけど、肉は豚だったの? 食べてみればよかったかな?

 いや、あんなの食べれない。

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