あざと可愛いリンの異類婚姻譚〜異世界行ったらチート授かったけど僕は無双より恋がしたい〜

たけ てん

シアン編

第1話 異世界と熊さん


 僕は可愛い。名前もリンって可愛い名前だし、男にしては背は低めだと思う。童顔だし、目はぱっちり二重。ちゃんと肌の手入れも欠かさないから、ツルツルお肌だし。お菓子作りだって好きだし、可愛いキャラクターも好き。

 あざと可愛い男の娘を目指してる。まだ20歳だしOKだよね?

 基本、オーバーサイズを萌え袖にして着てる。そんな冬が好き。

 歳を取ったらできなくなるから、歳はとりたくないな。


 僕が可愛いから、女の子はすごく優しくてくれる。特にちょっと年上のお姉さんたち。お兄さんも大抵優しくしてくれる。


 街を歩けばナンパもされるよ。主に男にだけど。でも僕の恋愛対象は女の子だと思う。たぶん。断言はできない。


 ハロウィンっていいよね。どんな格好しても許されるから。僕はいつも可愛い格好をする。

 今年は気合を入れてドールメイクをしたゴスロリだよ。黒ロリの服って白と黒のコントラストがいいよね。

 僕は髪を伸ばしてるから、この髪だってカツラじゃなくて自前。

 艶々で真っ黒な髪に少しブルーを重ねてる。

 ヘッドドレスはレースが幾重にも重ねられて、スパンコールもついてる豪華なやつ。


 膝上のフワフワなスカートは、パニエでしっかりボリュームを持たせて、ウエストは背中で編み上げてキュッと絞る。

 ハイソにロッキンホースを合わせれば完璧。


 さぁ、今日は誰もが主役になれる日。

 ちゃんと盛った写真をSNSにアップして、僕は家を出た。


 公園を抜けた方が駅に早く着けるんだよね〜

 公園を抜けるために階段を降りていくと、空が眩しく光った。

 何? 雷?


 気がつくと、森の中だった。

 いや、何これ? 意味が分かんないし。

 どうなってるの?

 睡眠薬でも盛られて森に捨てられた?

 だとしたら誰に?

 ここどこ?


 方向分かんない。このままじゃ遭難して死んじゃうじゃん。

 太陽の方角から…って、地図無いのに東西南北が分かっても進む方角分かんないじゃん。


 あ、GPS

 動揺しすぎてスマホの存在忘れてた。

 危なかったー

 スマホを起動させて地図アプリを立ち上げて僕は膝から崩れ落ちた。

 圏外。GPSも拾えない。

 詰んだ…


 必死に耳を澄ましてみても、車や人の声は聞こえない。

 木に登ってみる?

 いけるの? 無理じゃない? こんな服だし。

 ロッキンホースじゃ森の中を歩くのも辛い。足首捻りそう。


 どうしよう。こんなところで日が暮れるなんて怖すぎる。


 山なら下っていけば良さそうだけど、ここは高低差が無いように見える。

 少し歩いてみる?

 どうせ移動はしなきゃいけないし。不安。


 富士の樹海とかだと嫌だな……

 樹海ってGPS届かないの? そんなことないと思うけどな…

 5Gは来てなくても4Gは日本国内なら大体来てるんじゃないの?


 心細いけど僕は森を歩き続けた。

 靴がロッキンホースだから、かなりゆっくりだけど。

 熊とか出てきたらどうしよう。


 って自分でフラグ立てちゃった。

 怖い怖い。




 ガアァァァァァア


 嘘だよね? 嘘って言って。

 本当に熊が出た。

 しかも、僕が動物園で見たことある熊より全然大きい。5メートルくらい? もっと大きいかも。しかもなんか変な色。青? 紺?

 ヤダ。死んじゃう。


 僕は逃げようとして一歩後ろに下がると、小枝を踏んでバランスを崩した。怖い時って、声も出ないんだ……。

 助けを呼ぶこともできなくて、って言ってもこんなところ、声が出たとしても誰もいないよね。


 僕、死ぬのかな?

 尻餅をついた状態のまま、僕は襲ってくる熊を眺めた。


「僕、あんまり肉ないから、美味しくないよ。食べないで。お願い」

 熊になんて通用するわけないと分かってるけど、僕は涙ウルウルの上目遣いで指を組んで熊にお願いした。



 …………。


 え?


 熊の動きが止まった。

 そして大きな手で爪を立てないようにそっと僕を掴んで胸に抱いた。

 ぬいぐるみと違って毛は硬いけど、食べる気は無くなったみたい。


「熊さん、食べないでいてくれてありがとう。僕の言葉が分かるの?」

「カワイイ」


「え? 話せるの?」

「スコシ」


 話せる熊なんているんだ?凄い。


「僕、迷子になっちゃったみたいで、ここどこか分かる? 東京はどっち?」

「トキョ? ココ、マノモリ」


「まのもり? どこだろう? 何県かも分かんない。とりあえず人がいるところに行きたいんだけど」

「オマエスキ。ココイル。ワレマモル」


「好き? ありがとう。でも僕は人間だから人間が住むところに住みたいの」

「イヤダ。ワレヒトリサミシイ」


「そっか。こんなに優しくて言葉も分かる熊さんなら、人がいるところに行っても大丈夫かな? 僕と一緒に行く?」

「イッショ」


「うん。分かった」


 熊さんは僕のことを抱えたまま歩き出した。

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