28話:付喪神

「グッジョブ杞憂きゆうっち。穢れ憑きけがれつきを清めてくれたおかげで、天水公園の水まで綺麗になったよ」


 拍手パチパチパチ

 薬屋:貞明ていめいが心の籠った――かどうかは定かではない拍手を送り、狐の美少年:琥珀こはく杞憂きゆうの背中をバシッと叩く。


「よくやった。このボクが褒めてやる」


「うん、ありがとう」と一応返事はするものの。


 杞憂きゆうとしては素直に喜べないというか、それよりも非常に気になることがある。


(穢れを払えたのは良かったけど、まさか穢れ憑きけがれつきの中身が人形だったとは……)


 気になることは他でもない。

 穢れ憑きけがれつきの中から出てきた『おかっぱ頭の日本人形』だ。

 ヘドロの消えた綺麗な水辺、そこに落ちた日本人形を拾い上げ、遊歩道に腰掛けてから杞憂きゆうはマジマジと人形を観察。


 前述の通りおかっぱ頭の日本人形で、全長は約30センチ程。

 顔が大きく4頭身ほどのデフォルメされた見た目で、水に濡れてこそいるが、模様も鮮やかな桃色の振袖を着ている。

 人形の命とも言える顔、その瞳はまぶたが開閉するタイプの様で、今は落ちた際の衝撃なのか目を瞑っている状態だ。


「それ、杞憂きゆうの人形か?」


「まさか、俺に人形遊びの趣味は無いよ。日本人形の収集もしてないし」


 後ろから、肩越しにズイッと覗き込んで来た狐の美少年:琥珀こはくに「NO」の答えを返し。

 それから杞憂きゆうは本来の美しさを――ヘドロが消えて綺麗な湿地帯となった天水公園を見渡す。


「誰かがここに残して行ったのか? だとしても、穢れ憑きけがれつきの中身が人形っていうのはどういうことだ? 穢れは『あやかし』に憑くもんだとばかり思ってたけど……」


杞憂きゆう、目を開いたぞ」


「ん? ……何が?」


「人形が、目を開いた」


「え?」


 まさかと思い、視線を手元の人形に落とすと――瞬きパチパチ


「わっ!?」


 驚き、危うく湿地へ落としそうになるも、寸でのところでキャッチに成功。

 落とさないように両手でギュッと握り締めると、手元から甲高い声が響く。



「ちょっとッ、乱暴に扱わないでよ!!」



「……へ?」


 一瞬、肩に顎を乗せる琥珀こはくを見るも、彼は「ボクじゃないだろ」とすぐさま否定。

 ならば薬屋:貞明ていめいが発した裏声……な訳も無く、彼は改めて手元の日本人形に視線を落とす。

 既に「答え」は決まっている様なものだが、それでも彼は念の為に尋ねた。


「さっき喋ったのは“お前”か?」


「まぁ!! お前なんて失礼な人ね。ちょっと自分が美男子だからって、調子に乗ってると呪うわよ?」


「………………」


 案の定、おかっぱ頭の日本人形が喋った。

 瞼と違って口は開閉していないのに、不思議と声が聞こえてくるが、「まさか」という言葉は流石に言い飽きた感もある。

 この写し世うつしよに来て以来、杞憂きゆうの時間は「非日常」の連続。

 流石に“驚き”には慣れてきた感もあるけれど、それでも身構えていた結果と違うのは事実な訳で――。


「ちょっとアンタ、何黙ってるのよ。呪うわよ?」


「いや、呪うのは辞めてくれ。ようやくお前……じゃなくて、キミに憑いていた穢れを払ったところなんだから」


「はぁ? 何よそれ。まるで私が穢れに憑りつかれていた様な言い方じゃない」


「あぁ、うん。だからそう言ってるんだけど」


「あはははっ。この私が穢れに憑かれる訳ないでしょう? 冗談もほどほどになさい。ほら、そこの二人も何をボーっとしてんのよ。この素っ頓狂な男に何か言ってやりなさいよ」


 絶対に認めたくないというか、あり得ない話だと思っているらしい。

 日本人形が二人に同意を求めるも、求められた貞明ていめい琥珀こはくは彼女の意に反する言葉を、すなわち「事実」を返す他ない。


「お前、穢れ憑きけがれつきになってたぞ」とは琥珀こはくの言葉。


 それに対し。


「はいはい、子供はすぐに嘘吐くんだから」と日本人形は聞く耳を持たず、その瞳を少し離れた貞明ていめいに向ける。

「ほら、アンタが真実を告げなさい。この私が穢れ憑きけがれつきになる訳ないんだから。そうでしょ?」


「あ~、何かそのスタンスで来られると非常に言い辛いんだけどさ、残念ながら二人の言う通りだよ」


「……はい?」


「キミは穢れ憑きけがれつきとなって、この天水公園をヘドロの溜まり場にしてたんだ。そこで僕等3人が一肌脱いで、キミに憑りついていた穢れを払ったって訳。その証拠に、キミは穢れ憑きけがれつきとなっていた“ここ最近の記憶が無い”んじゃないかな?」


「はぁ? そんな訳ないでしょう。ここ最近の記憶なら確かに……あれ?」


 この疑問符が決定打。

 日本人形は遂に負け(?)を認め、意気消沈ズーンと大人しくなったのだった。



 ■



 “付喪神つくもがみ”。

 長年人に使われた道具が、捨てられたり忘れ去られた時に妖力を得て『あやかし』となったモノ。

 有名どころでは「唐傘おばけ」などが付喪神の部類に入るが、取り分け人の形を模した「人形」は妖力が宿り易いとされている――というのが貞明ていめいの説明。


 つまり、言わずもがな。


「この日本人形が付喪神つくもがみ?」


「そうよ。アンタなんかよりよっぽど長生きしてるんだから、これからは私をうやまいなさい」


 偉そうにそう告げた日本人形は、今現在“宙に浮いている”。

 ジッとしていられない性分なのか、左右にユラユラと揺れたり、空中で一回転したり、その度におかっぱの黒髪と桃色の振袖がユラユラと揺れる。

 まるで本当に生きているかのような動きに思えた杞憂きゆうだが、そもそも付喪神つくもがみの「生死」を人間の天秤で測ることが相応しくないのだろう。


「随分と自由に動けるんだな。これも“妖力”とやらのおかげなのか?」


「そうよ。何アンタ、そんなことも知らないの?」


「俺は写し世うつしよに来たばかりなんだ。大目に見てくれ」


「ふ~ん? まぁアンタは私の穢れを払ってくれたみたいだし、今回は大目に見てあげるわ。ちなみに私は櫻子さくらこよ。アンタは?」


杞憂きゆう朝霧あさぎり杞憂きゆうだ」


 名乗った――ただ普通に名乗った、それだけのハズなのに。

 日本人形の櫻子さくらこは「へ?」と呆気に取られた声を出す。


朝霧あさぎり? アンタ、朝霧あさぎりの人間なの?」


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)」も是非。

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