第24話

□府中迷宮・古代遺跡□


「さて、事件発生から既に45分。階層主狙いなら、すでに2階層に進んでますかね。急ぎましょうか」


「それは良いが……歩きながらで構わない、少し全容を教えてくれ」


 急ぐ必要があるのは理解しているが、それはそれとして分からない事も多い。


「そうですね。では、移動しながら。ああ、そう言えばお願いが。魔物は私にとどめを刺させてください。レベル10の沢渡君と僕では、実力に天と地の差があります。5階層までに4から5レベルくらいには上げておきたいので」


「構わないが……そんなに急いで大丈夫か?」


 班目の歩みに迷いがない。罠は?


「問題ありません。入ってすぐ、ゴーグルに【罠可視化】のスクロールを使いました」


「……一時的に罠が見えるようになるっていう?」


 便利そうな効果だが、一定時間で効果が消え、地上では意味が無く、しかも効果が出るアイテムが限られるという劣品質のスクロール。劣品質の所為で並品より出ずらく、逆にレアとか言われている一品だったはずだ。


「ええ。短時間攻略には必須アイテムです。さぁ、行きますよ」


 班目を先頭に迷宮を進む。

 次の部屋に進むと、運がいいのか悪いのかいきなり魔物が四匹だ。


「入り口の近くには罠はありません。ですが猿二匹とゴブリン、藁人形は運が悪いですね」


「猿を引き受けるからゴブリンを」


 前回の探索で、モノス程度なら余裕であることが分かっている。

 盾を構え、警棒を引き抜いて部屋に侵入すると、即座にモノスが飛び掛かってきた。


「右には入ってこないでくださいね!」


 班目の声と共に発砲音が響く。一発二発当たった程度じゃゴブリンも止まらない。しかも避ける。それを行動不能にするまでの間、動きの速いモノスの相手をするのが俺の仕事。


 飛び掛かってきたモノスにシールドを叩きつけて弾き飛ばす。もう一匹を警棒で殴打すると、地面に落ちた所を蹴り飛ばす。シールドで弾いた奴が再度飛び掛かってきたので、今度は警棒で撃出来。突きを放つとのたうち回った。


「ゴブリンクリア!前に出ます!」


 班目が真横にでてモノスに銃弾を撃ち込む。その間に藁人形に向き直ると、こちらに向けて走り出していた。体当たりをしてくるつもりだろう。


「人形を迎撃する!」


 ストロードールのメイン攻撃は体当たり。走り込んでくるそいつのボディに向かってアッパー気味の拳を叩き込む。レベルのおかげで敵が軽い。藁人形の渾身の体当たりも、力業でねじ伏せることが出来る。


「モノス2匹クリアです!」


「任せた」


 班目は素早く剣を抜き、藁人形を切り捨てる。その後倒れたモノス、ゴブリンにそれぞれ剣を突き立てて念押しの止めを刺す。早いな。部屋に入ってから魔物を殲滅するまで30秒もかかっていない。使った球数も10に足らない。


「見込み通りですね、素晴らしい」


「……いや……班目さんの動きが良いからです」


 俺の邪魔にならない位置で、的確に射撃を当てている。ハンドガンが必中になるのは精々5メートル程度。レベル1だと反動もあり連射で全弾当てるのは技術がいる。きっと俺なんかよりずっと腕がいい。


「次に行きましょう。赤字は辛いですし魔物のドロップくらいは回収しましょうか」


「……そうですね」


「今まで通りの話し方でいいですよ」


「……すまない」


 探索者になってからそう言う話し方を意識していたせいで、急に抜くことが出来ない。完全に状況の所為だが、ラプラス関係者も含め悪い人ではなさそうだ。無駄に威嚇する必要は無さそうなのだが、なかなかうまく行かないな。


 素早くドロップを集めて次の部屋に。


「運が良いんですかね?」


「悪い方だろ」


 また四匹。経験値は手に入るが、足が止まるのは事実だ。

 進んでは魔物を倒し、また進む。一階層は5部屋目で、2階層は4部屋目で出口を見つけた。3階層は運悪く7部屋目だ。

 魔物の数が多いので、3階層で班目が4レベルに上がる。能力が上がって射撃の精度が安定した。ただそれなりに球数を使っているが大丈夫だろうか。そんな心配をしてしまうのは、道中に聞いた話からだった。


「今回の任務は救助となっておりますが、助けられる側が、それを望んでいるとは限りません」


 班目は眉間にしわを寄せて話す。


「どういうことだ?」


「迷宮に潜ろうなんて考えるのは、大抵ワケアリの人物です。大方、望みのアイテムが出たら提供する、とか口車に乗せられているのでしょう。作戦の詳細を聞かされず、協力させられていると思います。リーミンは表立って……まぁ、犯罪行為ですけど、探索者に寄り添った組織、という立場を取っていました」


「ああ、俺もリーミンから最初の拡張カードを買ったからな」


「そうやって下準備をしてきたのでしょう。イージス……迷宮品で地上の民間人に被害が出るのを防ぐ……被害者の会の強硬派集団ですね。そこの調査を掻いくぐり切れなくなったから、拠点を捨てて作戦を決行したと言うところでしょうが……かなり入念に、準備をしていたのは間違いないでしょう。救助対象も言いくるめられていると思った方が良い」


「つまり……救助対象も敵対してくると」


「はい。我々が銃や剣で武装できるように、迷宮に潜る彼らも似たような装備でしょう。どれだけ潤沢かは不明ですが、遭遇すれば撃たれる、くらいは覚悟しないといけません」


「……ハードモードすぎないか?」


「秘密結社ですから。もちろん、対策はしていますよ。そのためにあなたに脱出のスクロールをたくさん持っていただきました。私の方は防御や制圧用のスクロールを多く用意してあります」


「……銃とスピード勝負して勝てるのかよ」


「私なら銃口を向けられた瞬間に防御と攻撃のスクロールを2つ同時に使うくらいできます。後から出てるだろう本条さん達はもちろん、先に入った神谷さん達も防御くらいならできますよ。モーションセンスと言う軍用品の機能です。便利ですから、ご購入を検討されてはいかがでしょう?」


「営業かけんな。金が溜まったらな」


「さて、相手のデバイスは6個、つまりチームいて、ラプラスの拠点から出撃できそうなのは4チームが精々。最低ツーマンセルが基本ですからね。他が間に合ってくれればいいですが、情報元のイージスは難しそうだから我々に投げたのでしょう。最低でも1チーム、出来れば2チームは回収したいですね」


「交差点でも弾かれる人数じゃないか?」


「部屋拡張のスクロールを使います。それで1チームは確実。急いで送還すれば、迷宮攻略速度の差で2チーム目も回収できます」


「2つのデバイスがパーティーだった場合は?」


 府中迷宮の同じエリアの最大人数は10人。1デバイス5人ならパーティーを組める。それだと交差点で合流する空きが無い。


「【邂逅】の効果はデバイスのリンクより強力なので、その場合優先度が高い方を引きはがせます」


「むっちゃ悪用出来る機能だな」


 交差点の許容量を残り一人にした上で【邂逅】の効果を使えば、パーティーから引きはがした上、最大9人で一人を襲撃できる。


「はい。なので門外不出です。裏切者は問答無用で消す、くらいできる組織じゃないと、こんなもの管理できません。もちろん、我々が正しく使い続けられる保証もありませんが……できなくなった組織は、他から滅ぼされるだけですね」


 修羅の国だなぁ。

 探索者になった時点で命の危険は織り込んでるし、非正規探索者になった時点で罪を犯す覚悟はしているが……人を殺すつもりも、人に殺されるつもりも無い。そういうのは他所でやってもらいたい。


「それで、リストに俺の遠因がある人が居るとかって話は?」


「ああ、それはですね、リストに天道総一郎さんの義理の妹さんの名前がありました」


「天道?」


 最近よく聞く名前だが……えっと?


「あなたが5階層で救助した人物ですよ。天道さんは元自衛官。今はフリーの迷宮インストラクターで、我々の勧誘対象です。第二拡張の際、出産間際で妊娠中だった奥様、御両親、義理の御両親が病院ごと領域に呑まれたようです。ご本人は災害派遣で迷宮とは関係の無いお仕事をされていたので免れています。義理の妹さん……3人姉妹らしいですが、残った二人も学校や保育園に通園していて無事。残された天道さんはそのお二人を引き取って面倒を見ていたそうです」


「個人情報保護とかどうなってるの。あと、技術営業担当って言ってなかったか?」


 なぜそんなに詳しい。


「犯罪組織に何を仰います。表面的にわかることくらい、調査しますよ。それに、お話した通り私は見聞きしたことはほぼ忘れないのが特技ですので」


 あまり隠し事は出来なさそうだ。

 【衝撃吸収のローブ】や【状態不変化の腕輪】はバレていないだろうか? 気づいて居ても言ってこない、くらいはしそうだ。余計な情報は与えない様に気を付けよう。


「しかし、あの時の男……しかも第二拡張で家族をね。そして妹が無茶をしてると」


 なんか親近感を覚えるな。


 最初の拡大から5年後に起きたのが第一期拡大。その後、民間探索者の誕生の決め手となったのが約9年前に起きた第二拡大、もしくは第二期拡大。


 第一期拡大の際、核断絶領域の各超幅に差異が観測された。領域調査の進度から、調査の進んでいる領域、もしくは倒された魔物が多い領域の方が拡大が小さくなると予想された。


 そこで政府は迷宮探索に自衛隊、警察の投入を推進し、各断絶領域の拡大の抑制を目指した。これは何処の国も同じ。その甲斐あって、次の予測された時期に拡大は発生しなかった。


 そこに……油断があったのだろう。


 翌年に発生した拡大の内いくつかは、想定よりも大きく広がり、人々を飲み込んだ。それが第二期拡大。俺の父さんと母さんが領域に呑まれたのも第二期拡大だ。


 迷宮の拡大範囲は領域の探索、そして魔物の撃退量に反比例するという当初の見立ては今も変わっていない。そしてそれは拡大タイミングにも影響を与え、拡大までの期間が長いほど、範囲抑制に必要なコストは大きくなると付け加えられた。そして、その検証の機会である第三拡大は発生せず、今日まで時が過ぎている。


「お兄さんを助けていますし、説得にも応じてくれそうでしょう?」


「どうだろうな。自分の妹を見てると、むしろ難敵としか思えん」


「ほうほう」


「間違っても美玖に言うなよ」


 何を言われるか分かったもんじゃない。


「さて、いよいよ5階層ですね」


 一通り話を聞き終えたところで、4階層の出口を見つけた。班目のレベルはまだ4だ。5にあげたいところだが、先に5階層に入るのが先決。事件発生からの経過時間は1時間57分。さすがに追い越したと思いたいね。


「では、行きましょう。先回りできたことを祈って」


「ついでに素直に投降してくれることも祈ってな」


 俺達は顔を見合わせると、その白い扉へと飛び込んだ。


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1話で大間違いを犯していたので、過去の話も含めて時系列を修正しました。


断絶領域発生から5年:第一期拡大

主人公の両親が領域に消えたの:第二期拡大 約9年前

探索者組合発足:8年前


です。


本日は21時にもう一話更新予定です。応援よろしくお願いします。


下記連載中の作品も含めて、応援のほどよろしくお願いいたします。


俺は地球に帰りたい~努力はチートに入りますか?~

https://kakuyomu.jp/works/16816927861365800225


アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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