第17話
□府中迷宮・古代遺跡□
引っ越しを終えて数日後、準備を整えた俺は府中迷宮の探索に挑戦した。
府中迷宮の1~3階層は、南米に存在する遺跡跡らしい。観光地化されていただめ見通しは良く、足元は石畳。壁となっているのは生い茂った木々か、敷地を隔てるフェンス。それなりに有名な遺跡らしいが、残念ながら俺に分かるだけの知識は無い。空間が歪んでいるから、元の観光地の面影はない。雰囲気だけ遺跡だ。
時間帯は朝なのだろうが、明るいが気温は比較的低い。どうやら少し標高が高いらしい。森の中にあるのも原因の一つだろう。
出現する魔物は
モノスは70センチほどの大型の猿。地上にいる種類とは特徴が一致しない為、UMAの名であったモノスの愛称が付けられた。ひっかき、噛みつきがメインの攻撃方法。
府中迷宮のこの階層は、どの敵も似たような攻撃をしてくる。対処法も同じだ。人っぽいから相手をしやすいのは確かだ。
今回持ち込んだメイン武器は前回の探索で入手した【鉄の槍】。サブウェポンで【十手】。防具は変わらずで、【衝撃吸収のローブ】を着こんでいる。デバイス内には前回の残りの食料など探索備蓄10個に、【打刀】、【リカーブボウ】、【識別のスクロール】、【非物質化のスクロール】を持ち込んだ。その他のアイテムは自宅で解凍して保管してある。
セラミックソードやハンドガンを持ち込まなかったのは、5階層で正規探索者と遭遇するリスクを考えて。違法探索者が正規装備を持っていると知られると、ちょっと面倒毎が起こる可能性がある。持ち込んだ今回は本格攻略を目的にしていないので、そんなタイミングで査察のリスクを上げる理由はない。
また、【状態不変化の腕輪】も置いてきた。レベルがもったいないが、脱出時に1レベルに戻ることが出来れば、正規探索者としても迷宮に潜ることが出来る。
「入場した部屋に敵は無し……論文は正しいのかねぇ」
美玖が調べてきた話だと、1階層に入場した部屋には魔物が居ない事が多いらしい。いることがある迷宮と、必ずいない迷宮に分けられて、府中迷宮は必ずいないと言われている迷宮だとか。断絶領域が出来て十数年経つが、まだまだ分かっていない事は多い。
今回の目的は脱出のスクロールを複数入手する事なので、さっさと探索を開始しよう。1階層の罠は転倒する結び草と、一定時間足が動かなくなる影ぬい罠の2種類。比較的軽めの罠なので、魔物さえ倒してしまえば素早く探索できる。
最初の部屋を経てば約探索して――ドロップは言うまでも無く――二部屋目に進むと、さっそくゴブリンとスケルトンがお出ましだ。
「この組み合わせは楽だな」
ゴブリンに比べて、スケルトンは動きが遅い。通路を後退しつつ、ゴブリンを素早く倒す。槍でひと突きすると簡単に身体を貫いた。そこに蹴りを入れて押し倒し、踏みつぶす。レベルが高いおかげでパワーが段違いだ。
その後スケルトンを軽くいなす。力を籠めて槍を振るえば、むき出しの骨は簡単に砕けた。スケルトンはハンドガンで倒しづらい魔物なので不人気だが、レベルがあって近接武器ならこうも簡単に倒せるのか。的が大きいから川越迷宮の角兎や大狸より楽だ。
「……ちょっと正面切って戦ってみたくなるな」
罠の調査を終えた部屋に呼び込んで、正面切って戦ってみてもいいかもしれない。ちまちまと安全策で戦うのもいいが、花が無い。誰に見せるわけでも無いけど。
まあ、モノスだけは戦ったことが無いから慎重に行こう。
次の部屋の魔物は4匹、その次は3匹。さらに通路で一匹遭遇。情報通り数が多い。
動きの速度はモノス、ゴブリン、藁人形、スケルトンの順で早い。ただモノスの知能は動物と変わらない様だ。ゴブリンの方が攻撃をしっかり避けるし連携もしてくる。モノスは反射神経は良いが、こちらの動きの予想まではして無い感じだな。
何にしても、どの魔物もステータス差で圧倒できる。こんなに楽な探索は、正規の装備だった時を含めても過去にない。
素早く一階層を探索し、得られたドロップは【スクロール】一つ、【食料品】一つ、【遠距離武器】一つ。他にも雑貨や弾など出たが迷わず解凍だ。そして目ぼしい物は無い。
ぐるっと探索を終えたら、少しだけ休んで2階層に進む。出る魔物は変わらないから、ガンガン進む。
レベル10はやばいな。ゴブリンやモノスが刺さったままの槍を振り回して、他の魔物にぶつけるなんて芸当ができる。あまり力任せに戦うと武器の方が先にダメになりそうだ。
2階層では【スクロール】一つ、【防具】一つ、【食料品】二つを拾う。魔物が多いから魔石も多い。優先的にスクロールを解析に回す。いざとなれば識別のスクロールもあるが、まだもったいない。
3階層では【防具】と【近接武器】をそれぞれ入手。【雑貨】、【弾】に加え、【薬品】を解凍破棄するようにしたのでデバイスの空きが多い。
4階層から6階層が炭鉱領域で、一時的に魔物が減る。ドロップの入手頻度も低下することを見越して、2階層で得た防具を解析にセット。これで【スクロール】二つと【防具】が解析中。
3階層をぐるっと一周し終えたところで、迷宮探索開始からまだ2時間も経っていない。魔物を倒すのに時間がかからないし、疲労も感じない。これだけ実感があると、ちょっとレベル10が惜しく思えてきたな。正規入場したら異常なのがバレるし、正規の方の探索をしないとライセンスが剥奪されるから、レベルリセットされないと困るのだが……。
「さて、4階層は川越と変わらずっと」
迷宮の
交差点は5階層のはずだが、ずれることもあるらしいから一応注意は必要。この辺の階層ではめったにない……というか、公式に確認された情報が無いので眉唾。階層がどこかに書かれているわけでも無いので数え間違えた可能性もあるし、一部の迷宮だけ変動する可能性もある。不思議のダンジョンだから、地形に関してはあまり信用できない。
洞窟蜘蛛、大蝙蝠は余裕で倒せる。敏捷性が上がっている為か、飛び掛かってきたのに合わせて叩き潰す、くらいの芸当は御茶の子さいさいだ。
鉄杭やたまにツルハシを持っているゴブリン・マイナーも、手間取る相手ではない。もともと鉈槍でも対処出来たので、今の装備でも余裕がある。
問題はロンリー・アントことはぐれ大蟻。
間合い取りを誤らなければ、相手の速度は問題無い。鉄槍だと足を一撃で落とすのはちょっとキツイ。触覚は上手く当てられれば行ける。1匹はセオリー通り動きを封じて倒した。時間は……早いな。一分もかかってない。
動かなくなった蟻を持ち上げてみようとすると、持てなくはないがちょっと辛い。50キロくらいか?槍を挿して振り回すのはちょっと無理な重さだな。
2匹目は余裕があったので戦い方を変えてみる……というか、力押しに切り替える。向かってくる蟻に槍を突き刺すと、眉間を貫いて槍が深々と刺さる。しかし蟻の動きは止まらない。壊れたおもちゃのように足をばたつかせ、槍がさらに深く刺さるのも気にせず前に進もうとする。
「大人しく死んどけ!」
槍を起点に宙返りして蟻を飛び越え、腹部に向けて両足蹴りを放つと、推定数百キロの衝撃を受けて足の付け根が捥げ、腹が音を立てて潰れた。ぴくぴくと痙攣して、徐々に動かなくなっていく。
この戦い方は早いけど、槍が汚れるしキモイしあまり好みでは無いな。昆虫系は脳を補助する神経節が体中にあるせいで、頭が死んでもしばらく動くのが厄介だ。素早く倒すならバラバラにするのが良いが、それだと剣とか斧とかの方が向いているな。
今日の所は手早く倒せるのが分かっただけ良いとしよう。
1時間ほどかけて4階層を探索し、運よく3つ目の【スクロール】を入手。魔物からのドロップで運よく【遺物】が2つ、【近接武器】と【遠距離武器】が一つづつ出た。
1階層、2階層で手に入れた【スクロール】が並品なのは判明している。事前情報から言えば、3つの内一つくらいは【脱出のスクロール】でも良いはず。【遺物】が二つ出た悪運からすると、また脱出のスクロールが出ない、他の探索者がロクな目に合わない、などの不幸を呼び寄せそうなのが嫌だなぁ。
府中迷宮の構成だと、仮眠が取れるかは部屋の構造の運しだい。4から6階層は期待できないので、速足で7階層まで駆け抜けよう。
出口を抜けて5階層に。
ここが
魔物の残骸、トラップ用マーカーを横目に部屋を進む。今の所、デバイスに反応は無い。このまま出口を引き当てて……。
そう思った所で、腕に付けたデバイスが明滅する。反応は二人……非正規探索者?情報が偽装されている。ユーザー名がウォッカとシェリーに成ってる。この階層は日本からの入国者しかいないはずだし、名前はネタだろう。
この先に出口があるか不明。とりあえず戻って別の分岐を探索しよう。
素早く道を引き返そうとしたところで、坑道内に声が響いた。
「出口はこっちよ。沢渡久遠、くん?」
想定外は、いつも向こうからやって来る。
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明日は12時と18時に合計2話更新予定です。応援よろしくお願いします。
下記連載中の作品も含めて、応援のほどよろしくお願いいたします。
俺は地球に帰りたい~努力はチートに入りますか?~
https://kakuyomu.jp/works/16816927861365800225
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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