設定捕捉:第1章・世界

□世界情勢□

 断絶領域の発生によって混乱はあるものの、日本をはじめ、アメリカ、ロシア、EU、イギリス、中国など各国は健在。ただし、政治中枢が断絶領域の中に消えたため再編された国もある。中東、アフリカなどは元々の情勢の不安定さも影響して、今なお混乱のさなかにある国も多い。

 多くの危機を経験してなお、世界情勢は大きく西側と東側に分かれた状態を維持している。しかし放置すると断絶領域が拡大するという特性が判明して以降、各国は自国の領域対処に追われており、政治的な対立は表面上弱まりつつある。

 領域発生から十と余年が経っており、貿易・経済協力は以前のレベルに戻りつつある。ただし迷宮の産物、いわゆる【遺物】に当たる物品の取引は全くと言っていいほど行われておらず、産出物は秘匿されている。ただし探索者のコントロールが出来ていない国がそれなりにあり、ネット上には結構な情報が漏出している状態。

 西側、東側それぞれで協力して遺物の研究を行う国際機関が設立されている。


□日本の事情□

 国会閉会期間中に断絶領域が発生したため、政治的空白期間は発生しなかった。ただ新宿を中心として発生した断絶領域で山手線内を含めた都心が断絶領域の中に消えたため、霞ヶ関の各省庁・官僚も消えたため直後は大きな混乱を招き、非常事態宣言も発令された。ほとんどの省庁の官僚が刷新されている関係で、過去の政府方針とは違う施策が取られている事案がそれなりに存在する。自衛隊、警察機構を始めとした公務員の権限強化や、日本国内での武器製造の増産などもこれに当たる。また、当時公務で地方に行っていた皇女一人を除き、皇室の血は絶えている。

 断絶領域発生直後は自衛隊、警察特殊部隊が迷宮の探索を行っていたが、拡張を経て公務員だけでの対応は困難と判断。民間からの要求もあり、8年前に民間探索者の導入に踏み切った。


□民間探索者共同組合□

 通称は“ギルド”。日本の国家機関であるが、形式上は官民協業の第三セクター。民間探索者の教育・管理、迷宮探索に必要な装備の貸し出しやメンテナンス、迷宮出入り口の管理などを行っている。横浜――現政治中心――に本部があり、迷宮毎に支部がある。


□民間探索者になるために□

 採用条件は18歳以上の健康な男女。概ね警察官・自衛官の採用条件を踏襲。身体能力、認識能力が一定以上であれば55歳まで採用される。概ね65歳で引退。ただし“若返りの妙薬”の発見により、実年齢での制限は実質的に存在しないものとなっている。

 国家試験――高校卒業資格程度の学力、および倫理感・道徳観を判定するテスト――に合格すると、ギルドによる講習受講が可能に成り、最短3カ月の講習を経て民間探索者となる。


□民間探索者の地位□

 規定はギルド所属のみなし公務員扱いだが副業可。給与性では無く出来高制。年1回の講習受講義務、能力判定試験の受講義務がある。個人事業主に近いが義務が多く、従来の職とは区別されている。

 社会的な立場は不安定。適性があれば大きな収益を上げることが可能であり、若者からはあこがれの職業となっているが、断絶領域の発生が無かった地域では荒事を生業とする犯罪者予備軍と呼ぶものもいる。ギルドが災害時の復興支援などにも対応すているため、表だって侮蔑的な扱いを受けることは少ない。


□民間探索者による迷宮探索:準備編□

 ギルドへの登録が実施された民間探索者は、迷宮端末メイズデバイスを支給され晴れて探索者となる。

 探索者は一人から十人でチーム――俗称としてパーティーと呼ばれる――を組み、ギルド支部に登録の上、迷宮探索計画書を作成する。計画書にしたがって持ち込み品の準備をしたのち、迷宮探索に挑む。最大人数が十人なのは、現在日本で同じフロアに入場できる最大人数が十人であるため。迷宮探索計画書は登山計画書をベースにして作られた探索日程を示す書類である。


 探索者は迷宮内に二つの方法で物を持ち込むことができる。

 一つは手荷物。着衣もこれに含まれる。理由は不明だが持ち上げて歩けることが最低条件と言われており、持てない重さのキャリーケースなどは持ち込みが出来ない。

 もう一つは迷宮端末メイズデバイスの地上欄に情報化した状態で持ち込む方法。ギルド本部は物品を迷宮端末メイズデバイス収納欄インベントリに物品を登録する魔法機器を有しており、これにより地上で物品を情報化する事が可能。動産であれば情報化可能であり、キャンピングカーの様なものも情報化可能。ただし魔法道具を動かすには魔石が必要であり、大きなもの、重い物である程コストが高くなるため、作業費用も高価となる。


 探索者は自分の所有品とした武器防具を建屋内に保管する事が出来る。逆に建屋が居に持ち出すことは出来ず、他の迷宮に移動する場合はギルド経由の送付手続きを行う必要がある。

 迷宮出入り口建屋内でギルドが準備した整備済み装備を借用リースすることが可能。借用できる剣や槍といった近接装備のほか、ハンドガンやアサルトライフルなどの遠距離装備、プロテクターや防刃・防弾ウェアなどの防具、地上で量産されるようになった回復薬、コピー品の特殊効果を持ったアクセサリ類、同じくコピー品の魔法のスクロールなど様々。すべて貸し出しであり、迷宮探索終了後に返却する。ただし工数削減のため一部は自己管理として、自己保管するモノもある。


 探索者は迷宮探索に当たって、ギルドから【脱出のスクロール】が必ず一つ無料で支給される。これは原則コピー品である。このため20個ある地上で使える収納欄インベントリの内、実際に自由に使えるのは19個となる。

 

□民間探索者による迷宮探索:探索終了後□

 迷宮を脱出した探索者は、デバイスをギルドに預け、手荷物の検査を受ける。チェックはギルドから独立した税関職員が実施する。当初は空港相当の調査に加えて抜き打ちでのX線検査――違法品を体内に隠して持ち出すケースが海外で存在したため――があったが、現在は調査魔道具が普及し、金属探知と同程度で検査が行えるようになっている。

 迷宮端末メイズデバイス内のドロップ品は一律で国に買い上げられ、税金を引いた金額が登録された口座に振り込まれる。それとは別に持ち込まなかった全ての物品もドロップ品として買い上げられる。買い上げ金額が高価な物はオークションに掛けられ、後日支払いとなる。


 オークションにかからないような物品は、買い上げ金額を支払うことで買い戻すことが可能。他の探索者が入手し、国が買い取った物も購入可能だが、自分が入手した物は安く買える。ここで購入しても、武器、防具など地上で持ち歩くことが出来ないものは、迷宮建屋から持ち出すことはできない。特殊な効果の掛かった一部のアクセサリー類も同様。


 一部の物品のオークションは探索者なら参加可能。条件は日本国籍を有しており、6カ月以上日本に居住していること。ただし遺物の内、魔法薬や特殊な魔法機器、生物などは入札権限がない。


 生物(断絶領域に呑まれた人)を救助した探索者は表彰される。褒章は出ないが、探索者ランクが上がりやすくなる為、リース品の費用が安くなるなどのメリットがある。


□探索者ランク□

 探索回数、到達最大レベル、到達最深階層、討伐魔物数、表彰回数などから、本部・迷宮支部ごとに探索者ランクを定めている。本部はA~Dの4段階、支部は0~9の10段階であり、探索者ランクはD0(初心者)からA9(最上級者)のように表現される。支部のランクはその迷宮の理解度を表す為、初めて挑戦する迷宮ではA0の様な探索者も存在する。探索者ランクは民間探索者の指標であり、自衛隊、警察の部隊には適用されない。探索深度が歴代最深と同階層まで到達すると、おおむね支部ランク9となる。本部ランクは素行も含めて評価。

 探索者ランクが高いほど、一部のリース装備の貸し出し価格が下がる(主に武器や希少なアクセサリなど)。代わりに遭難者(迷宮内で負傷し帰還不能になった者)が出た場合、救助依頼が発行されるようになる。

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