第28話 違いを知って 1

(僕は今日……違いを知る男になるんだ……)


 迎えた日曜日の午前。

 沙希の来訪に備えて、愛斗はキッチンで亜鉛サプリを飲み込んでいた。


 今日はいよいよ、沙希の後ろを味わう日である。

 前と後ろの違いを知ることで、男としてパワーアップ出来るこの日を待ち望んでいたのは言うまでもない。


(……でも姉ちゃんが家に居るから気を付けないとな……)


 そう、遙香が部屋に居る。

 本来であればマオが外に誘ってくれる予定だったものの、


 ――暑いからウチで遊べばいいじゃん。


 と言われたそうで、外への連れ出しに失敗しているのだ。

 マオが陽動係としてすでに遙香の部屋を訪れているので、それだけはプラス材料と言えるが、遙香が家に居ること自体は決してプラスではない。


 だったら愛斗と沙希が外で目的を成せばいいのかもしれないが、高校生の懐事情的に自宅でする方が色々と助かるため、自宅にて強行することを決めたのだ。沙希の家は男子の連れ込み禁止とのことで、菱川家で頑張るしかないのである。


【着いたわ】


 やがて――LINEに沙希からのメッセージが届いた。

 これはマオもチェック可能なグループへのメッセージである。

 沙希が玄関に着いたらこのメッセージが届くことになっている。

 なので愛斗は早速玄関に向かい、こっそりとドアを開けた。


「おはよう、愛斗くん」

「おはようございます沙希さん。どうぞ中へ」

「ええ、お邪魔するわね」


 軒先に佇んでいた沙希をサクッと招き入れ、靴もろとも愛斗の部屋へご案内。


「――さて♡」


 そして早速と言わんばかりに、沙希がぎゅっと抱きついてきた。


「……私ね、この日を待ち望み過ぎてもう辛抱ならないの……♡ 今もプラグを仕込んでいてとっくに準備万端だから、いきなりだけれどお願いしちゃってもいいかしら?♡」


 とのことで。

 愛斗はもちろん――それを拒否するはずがなかった。



   ~side:マオ~



(沙希ちん来たっぽいけど……もうヤってんのかな?)


 沙希のメッセージを確認してから数分後、マオは遙香の部屋でホラー映画を鑑賞しながら隣室の気配を気に掛けていた。

 ちなみにこのホラー映画鑑賞会は、マオが提案した陽動作戦の一環である。遙香は怖いモノが苦手なので、ホラー映画で彼女の思考を掻き乱して隣室への注意を散漫にさせるのがこの鑑賞会の目的と言える。


『あー……』

「――ひいっ!!」


 今観ているのはゾンビの映画だ。

 遙香はゾンビが呻いただけでビビり散らかしている。

 隣室を気にする余裕はなさそうだ。

 なので今のところ、ホラー映画による撹乱作戦は成功中と言えた。


(ほな……この隙に2人がどうなってんのか確認してこよっと)


 すでに仲良しなことをしているのか否か。

 その様子を把握するのも、陽動する上では重要なことである。


「ねえ遙香、あたしちょっとトイレ行ってくるから」

「え、あ、うん……は、早く戻ってきてよね……」


 完全におびえた表情の遙香を置いて、マオは廊下に出た。


(さてと……部屋に突撃するのは自重するとして、とりあえずドアに耳を押し当てて内部状況を確認してみよう)


 ということで、マオは早速ドア越しに聞き耳を立ててみた。

 すると――


「(沙希さん……もっと力を抜いてもらってもいいですか?)」

「(こ、こうかしら……?)」

「(そ、そうです――あ、入っていきますよ……)」

「(……んんぅっ……あ♡ すごいわ……♡)」


 というやり取りから察するに、どうやらちょうどアレがアレしたところらしい。


(マーくん、ついに違いを知る男になったかぁ……)


 と、マオは無駄にしみじみしてしまう。

 どうせなら前も後ろも自分が教えてあげたかった、という思いがマオにはあるものの、愛斗が成長してくれるのなら、別に誰であろうと構わないのである。


「(……んんぅっ♡ あふ♡ んほぉ……♡)」


 引き続き聞こえてくる沙希の声には、蕩けた雰囲気が混ざり始めていた。

 愛斗が本格的に始動し始めた影響だろうか。


「(んほっ♡ ふぎぃ……♡ す、すごいわ愛斗くん……♡)」

「(じゃ、じゃあもっと……こういう感じの動きはどうですか?)」

「(んほおおおおおおおおお♡)」


(んー……なんか微妙に沙希ちんの声デカいなぁ……)


 壁を貫通して遙香の部屋に聞こえている可能性がなくもない。

 一応戻って確認してみることにした。

 すると――


「(――んほおおおおおおおおお♡)」


(アカン)


 あきらかに……沙希の声が届いてしまっていた。

 しかしながら――


「あぎゃああああ!! このホラー映画急に喘ぎ声みたいな音声ぶち込んでくるのやめろや! ビビるじゃん!!」


 と、遙香は映画の音響だと思い込んでくれたようで、その後もなんとかバレないまま事なきを得――るわけがなく、


「……ん? なんかよく聞いたらこの喘ぎ、隣の部屋からじゃない?」

「!?」


 当たり前のように、ピンチが到来したのである。

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