第25話 見せられないよ 2 ~side:沙希~

 遙香の部屋での勉強会が始まっている。

 陽動係の沙希は、遙香の動向に注意しながら勉強中だ。もしなんらかの理由で遙香が愛斗の部屋に行こうとしたら、即座に引き留めなければならない。

 なんせ隣の部屋では今、愛斗とマオが合体中だからである。


「――あ、シャーペンの芯切れちゃった。愛斗から奪ってこよっかな」

「ちょっと待ちなさい遙香! シャーペンの芯なんて私のを使ってくれていいから!」

「あ、ホントに? サンキュー」


 愛斗の部屋に行こうとしていた遙香が、スッと腰を下ろしたのを見てホッとする。


 しかしそんな中――ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ……。


 と、先ほどからベッドの軋みがかすかに聞こえてくる。

 それは間違いなく、愛斗の部屋からだった。

 恐らく、2人が行為に耽っている証である……。


(……2人とも激しいわね……もう少し静かに出来ないのかしら……)


 遙香にもこの音は聞こえているはずだ。

 もし遙香の気に障ったらあまりよろしくない気がする。


「なんかさ……さっきからベッドの軋みっぽい音してるよね?」


(――ほらマズいわ話題に出されてしまったわ……)

 

「愛斗のヤツ、ベッドで何かしてるわけ? うっさいなぁ……オナホ相手に腰でも振ってんのか、っての」


(……オナホどころか、極上の本物相手に腰を振っているのよ……)


「はあ、ちょっと注意してこよっかな。沙希もウザいっしょ?」

「え、あ、いや、このくらいなら好きにさせてあげたらいいじゃないかしら……?」

「は? マジで言ってる? 結構耳障りだと思うんだけど……」


 ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、と鳴り続けているのは確かにうるさい。

 しかし遙香をその注意に行かせるわけにはいかないのだ。


「ちょ、直接注意に出向かなくても壁を叩いたらいいんじゃないの?」

「あー、じゃあそうしよっか。――おいクソ童貞! うっさいから黙れ!」


 どんっ!! と遙香が勢いよく壁を叩いていた。

 するとベッドの音が明らかに弱まり始める。


「ったく……あ、そういえばさ、マオって今日何してんだろうね?」


 気を取り直した遙香が、ふとそんなことを言ってきた。


「マオもこの勉強会に誘ったんだけどさ、なんか用事があるから無理、って断られたんだよね。沙希ってマオの用事が何か知ってる?」


(言えない……すぐ隣でおせっせ中だなんて言えない……)


「し、知らないわ……」

「そっかぁ。じゃあちょっと通話掛けてみよっかな」

「えっ」

「とりあえずさぐり入れてみるw」


 そう言って遙香がスマホをイジり始めていた。


(まぁ……これに関してはマオが通話に出なければ問題無しよね)


「あ、マオ? やっほー」


(――出ちゃったの!? マオったら通話に出ちゃったの!?)


 どうやら出てしまったらしい。

 おせっせ中だというのに、一体どういうつもりなのか。

 ひょっとしたら、スリルを追い求めた結果かもしれない。

 そう考える沙希をよそに、遙香は通話をスピーカーに切り替えていた。

 なのでマオの声が沙希にも届き始めている。

 

『うん、やっほー遙香……んんぅっ♡ なんか用?w』

「な、何今のちょっとえっちな声は? 今何してんのか気になって通話したんだけど……何してんの?」

『今はねぇ……んっ♡ ……気持ちいーことしてるよw』

「え。き、気持ちいーことってなにっ?」

『えーw だからまぁ……男子と合体中w』


(――マオったら攻めるわね……)


 合体中であることを明かしてしまうのはアグレッシブ過ぎる。

 しかし相手が愛斗であることさえバレなければ、問題はないのかもしれない。


「え? ま、マジで合体してんの?」

『してるよw んっ♡ 相手はナイショね……w』

「ちょっ、え? ガチなの?」

『ガチだよ……w あんっ♡ んぅっ……♡』


 マオの喘ぎは演技ではないのだろう。

 今隣の部屋で実際に愛斗が引き起こしていることに違いない。


「ま、まさかマオがそこまで進んでいたとは……」

『えへへ……w』

「ち、ちなみに相手のアレにはきちんとアレを被せてるんだよね?」

『んっ♡ してないよw』

「マ?」

『うん、大丈夫な日なもんでw ――あっ、んんぅっ♡ ほらまた……奥に押し付けながらぁ……っ♡』


 なまめかしい吐息が漏れ伝わってくる。

 想像力が掻き立てられ、遙香はもとより、沙希もなんだか照れてしまっていた。


 そこからはもう、マオが通話どころではなくなったようで、喘ぎ声が連続するだけとなってしまった。

 なので、


「じゃ、じゃあねマオ……」


 そう言って遙香が通話を終わらせていた。


「なんか……すごかったね……」

「そ、そうね……」


 沙希はただひたすらに同意することしか出来なかった。

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