第17話 お泊まり 前編

「――ねえマーくん、ちょっとスリルを求めてもいい?w」


 あくる日の放課後。

 姉の遙香は部活が休みで、この時間のマオは遙香の客人として菱川家を訪れている。しかし遙香が学校に忘れ物を取りに行ったため、マオがこうして愛斗の部屋に顔を出してくれていた。ちなみに沙希は塾ゆえに不在である。


「スリルなら……今の状況がまさにそれじゃないですか」


 2人は今、先日風邪を治すためにやった『雪山遭難式体温アゲアゲ行為』を堪能し終えたところだった。今日やる意味は特にないが、マオがやりたいと言い出したので……やった。

 遙香が戻ってこないうちに、お互いすでに服を着始めている。マオは夏服をきちんと身に着ける前に、ウェットティッシュでお腹を拭いていた。

 

「まぁそうなんだけどさ、もっとスリルが欲しいなって思って」

「……って言うと、何がしたいんですか?」


 なんだかろくでもないことを考えていそうだが、一応耳を傾けてみる。


「あのね、今日あたし遙香との勉強会でこの家に泊まる予定でさ」

「え」


 さらりと凄いことを言われた。


「ま、待ってくださいよ……マオさんって門限のせいで外泊出来ないんじゃなかったでしたっけ?」

「そこはまあなんとか親を説得して許しを得てきたわけよ」

「なるほど……でも平日にですか?」

「平日じゃないとダメ、って言われたんだもん。休日だと羽目外しそうってことで」

「そういうことですか……」

「うん、そんなわけで今夜はここにお泊まりっ。そんでもって、遙香の目を盗んでたびたびイチャイチャしに来るからとりあえずよろしく――っていうのが、あたしの求めてるスリルねw」


 とのことで。


(スリルなんて求めないで欲しいけど……まぁ別にいいか)


 マオのお泊まりには心弾む部分もある。

 愛斗は甘んじて受け入れることにした。


   ◇


「――わっ、これ全部マーくんが作ったの!? すごない!?」

「マオ、褒めなくていいよ。こいつ調子に乗るからね」


 仕事の都合で両親不在の菱川家。

 家事炊事を押し付けられている愛斗は、この日も夕飯を作って食卓に並べていた。

そこに2階から遙香とマオが降りてきたところである。


 今宵の献立はメインが肉じゃが。他にはポテトサラダやハッシュドポテトも作ったりして、もはやじゃがいもカーニバル。

 遙香とマオが並んで食卓の椅子に腰を下ろし、愛斗もその正面に腰掛けた。


「――うんま!! なにこの肉じゃが!! マーくんあたしのお嫁さんになってよ!!」


 早速食事が始まった中で、マオがベタ褒めしてくれたのが嬉しかった。

 そんな夕飯タイムが済むと、愛斗は風呂を沸かした。

 

「あんたが先に入るとお湯が汚くなるから、あたしらが先ね?」


 遙香にそう言われ、風呂の順番は愛斗が最後になった。


 女子の風呂は長い。

 23時過ぎにようやく順番が回ってきて、愛斗はゆったりと湯船に浸かり始める。


(そういえばこのお湯……マオさんも浸かったんだよな)


 残り湯は入浴剤で白く染まっていた。少し飲んでみようかと思ったものの、遙香の出汁も出ていることに思い至ってやめた。

 そんな折、


「――うぇーいマーくん、お風呂で癒やされてる~?」


 と、思いも寄らぬ声が聞こえてきてハッとする。

 磨りガラス越しの脱衣所にひとつのシルエットが現れていたのだ。

 それはもちろん――


「ま、マオさん?」

「うん、来ちゃったw」

「き、来ちゃった、って……姉ちゃんの目は大丈夫なんですか……?」

「もう寝ちゃったから多分へーきw」

「た、多分て……」


 なんともリスキーな行動だった。

 しかしマオはそれを心配した様子もなく、


「ねえねえマーくん、それよりお願いあるんだけどw」


 ニヤけた声で呟きながら、衣擦れの音まで響かせている。


(……まさか……)


 と、これからの展開が読めてしまった中で、案の定――


「あのさ、ちょっと一緒に入らせて?w」


 と、イタズラな笑みを浮かべた裸のマオが、浴室へと踏み込んできたのである。

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