第12話 お見舞い 前編

(マオさん……今日も休みくさいな)


 翌日の昼休み。

 いつも通りに学食で1人ランチをしている愛斗は、幾つもあるテーブルの一角を眺めながらそう考えていた。


「きゃはははは!! バカでしょそいつ!!」


 姉の遙香がバカ笑いしているそのテーブルには、校内のマドンナと呼ばれる先輩たちが集っている。遙香は無駄にコミュ力があるので、同性の友達が多い。そのテーブルには沙希の姿もある。しかしマオの姿はないので、今日も休みだと判断出来た。


(……大丈夫なのかな)


 マオが2日続けて休みだったことは、これまでにない。愛斗は実のところマオのLINEや連絡先を知らないので、容態が謎なのである。


 もし辛そうにしているなら、お見舞いに行きたいところではある。いつもとは逆に愛斗が顔を出して、マオを元気付けてあげたい。しかし家の場所なんてもちろん知らないので難しい。


(諦めるしかないか……でも先生に聞けば教えてくれるかも? いや、僕は学年すら違うし、昨今のプライバシー保護強化を考えると厳しいかもなぁ……)


 そう考えながらランチを食べ終えた愛斗は、校内の端にある自販機のもとに向かった。コーヒー牛乳を買ってストローを差し込む。

 そのときだった。


「――マオの家、知りたかったりする?」


 と、そんな言葉と共にいきなり姿を現したのは、綺麗な黒髪をなびかせるマドンナの1人、沙希であった。

 驚く愛斗を横目に、沙希は自販機に小銭を投入。どうやらジュースを買いに来たようだが、周囲に人目がないことを確認しつつ、


「メゾンハイツ・アベニール」


 と呟いた。


「……え?」

「マオが暮らしているマンションの名前よ。ちなみにマオの部屋は406号室ね」


 言いながら、取り出し口からイチゴ牛乳を手に取る沙希であった。

 

「これで放課後、お見舞いに行けるでしょう?」

「……な、なんで教えてくれたんですか?」

「まぁだから、学食で見かけた愛斗くんがそういう顔をしていたからよ。それにマオからしても、誰かのお見舞いがあった方がいいと思ってね。私は昨日愛斗くんのもとを訪ねる前に顔を出してきたし、今日は塾だし、他の友達も大体昨日行ったみたいだから、今日はあの子1人寂しく過ごすことになると思うのよね。だから良ければ行ってあげて?」


 とのことで。

 愛斗は直後、繰り返し頭を下げ始めていた。


「あ、ありがとうございますっ。どうしても行きたかったので教えてもらえて助かりました!」

「ふふ、気にしなくていいわ。……あぁでも、情報の対価としてちょっとだけお駄賃をもらってもいいかしら?」

「あ、はい……どうすればいいですか?」

「じゃあちょっとこっちにいらっしゃい」


 と手を引かれ、ひとけのない廊下の端へと連れて行かれた。

 そして行き止まりの、人目が完全に届かない死角にたどり着いたところで――ちゅ、ちゅ、といきなり熱烈に唇を奪われてしまいビックリした。


「ちょ……沙希さん……! むぐ……!」

「んっ♡ 学校の中っていうバレたら大変なところでこういうことをするのは……ちゅ、んちゅ……ふふ、滾るモノがあるじゃない……♡」


 そんなちょっとはしたない言葉を紡ぎ出しながら、沙希は何度も何度もついばむようにキスをしてくる。愛斗としては別にイヤではないものの、万が一を考えてどうにかこうにか引き離しにかかった。


「ば、バレたらホントに大変なので自重してください……!」

「ふふ、そうね。ごめんなさい。じゃあお駄賃の徴収はこれで完了ということで♡」


 機嫌良さげに呟きながら、沙希はくるりと身をひるがえし、


「じゃあ、放課後にマオのもとに行くのはいいけど、うつされないように気を付けなさいね?」

「は、はい……」


 そんなこんなで、ちょっとえっちな昼休みを乗り越えたこの日の放課後、愛斗は一旦帰宅してからチャリに跨がり、マオの自宅マンションを目指したのである。

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