第7話 姉ちゃんの友達2号 前編

「……姉ちゃんなら居ませんよ?」

「うん知ってるw」

「ていうかマオさん……」

「うん、どしたん?w」


 あくる日の放課後。

 最近来訪頻度が上がっているマオがこの日も菱川家を訪れたのはいいとして、しかしいつもと違う部分があったので愛斗まなとは目を丸くしている。


「いや……その……隣に居るのって……」


 そう、この放課後のマオは1人ではなかった。

 隣には長い黒髪の美少女が佇んでいる。

 そして一応、愛斗は彼女が誰かを知っている。


「……市ノ瀬いちのせ沙希さき先輩、ですよね?」

「そうだよっ、今日はなんと沙希ちんも連れて来ちゃったw」

「お邪魔するわね、愛斗くん」


 そう言って愛斗に穏やかな微笑みを向けてきた沙希ちん、もとい市ノ瀬沙希は、マオとは別系統の清楚系美少女として学校で男子の注目を集めるマドンナの1人だ。そして姉の遙香の友人でもある。

 なので遙香を訪ねて遊びに来ることは何度かあったものの、こうして姉不在の菱川家を訪れることはもちろんなかったため、愛斗としては驚かざるを得なかった。


(一体どうなってるんだ……)


 マオが誘ったのだろうか。もしくは沙希が同伴を申し出たのだろうか。

 よく分からないが、沙希がマオと共に玄関に佇んでいるのは事実なわけで……。


「ほなマーくん、沙希ちんも一緒にお邪魔するね~w」


 と、マオがいつものように愛斗の脇を通り抜けていく一方で、


「いきなり私まで来てしまってごめんなさいね」


 沙希はそう言って脱いだローファーを揃えていた。


「あ、いえ、別に大丈夫です……でもどうしてマオさんと一緒に?」

「遙香にナイショで愛斗くんと楽しい放課後を過ごしているんだ、ってマオに自慢されたから、興味が湧いたのよ」


 そう言って愛斗のほっぺをつんつんとイジってくる沙希。女子にしては背の高い沙希と、男子にしては小柄な部類の愛斗は身長がほぼ一緒だ。視線が噛み合い、照れ臭くなる。興味とは具体的にどういった好奇心なのか。愛斗は不思議に思った。


「ところで、漫画をいっぱい持っているそうね?」

「あ、はい……自由に読んでもらえれば」

「ふふ、ありがとう」


 そんなこんなで愛斗も、沙希と一緒に自室へと移動した。


    ◇


 マオと沙希、美少女が2人も揃った愛斗の自室は良い匂いに包まれ始めていた。


(絵面も凄い……)


 校内における男子人気が高い2人の共演は、校内でなら珍しくないものの、よもや愛斗の自室で揃うというのはただならぬ事態と言える。

 

 2人とも、愛斗のベッドに座って漫画を読んでいる。

 ルーズソックスを履いた両脚を投げ出すように伸ばして壁により掛かっているマオ。

 黒タイツに覆われた両脚をお姉さん座りにしている沙希。

 そんな光景は、筆舌に尽くしがたい。


(僕はひょっとして前世で何か徳を積んだんだろうか……)


 思わずそう考えてしまうほどに、この状況は良きモノだ。実態としては恐らく漫画喫茶代わりにされているだけだが、充分に報われた光景と言えよう。


 そんな中、


「――お、今日もぼちぼちお駄賃の時間かな」


 やがて午後6時を回った頃、マオがグーッと腕を伸ばしながらそう言った。

 宿題をやっていた愛斗が(……もうそんな時間か)と思う一方で、沙希が興味深げに口を開く。


「くつろがせてもらったことへの対価、なのよね? それって」

「そうっ。マーくんの言うことを可能な限り聞くのがお駄賃ねw」

「あなたの話だとえっちなことをしているそうじゃない?」

「えっちっていうか、まぁインモラル? ともあれっ、今日は沙希ちんがお駄賃を払う、ってことでいいんだっけ?w」

「ええ、興味深いから是非やらせてもらいたいところだわ」


(さ、沙希さんがお駄賃を……っ!)


 なんだかとんでもない状況になってきた。


「だ、大丈夫なんですか……?」

「もちろんよ。友達の弟くんとコッソリ妙なことをするのって状況としては滾るモノがあるじゃない? 私は普段優等生で通っているから、羽目を外したい部分があってね」


(ま、マジか……っ)


「さあほらっ、沙希ちんもこう言ってるんだし遠慮はいらんよマーくんw 沙希おねーちんになんでもお願いしちゃえばいいよw たとえばほらっ、沙希ちんのこのでっかいおっぱい見せてもらうとかさ!w」


 そう言って夏服越しに沙希の豊満なおっぱいを後ろからぐわっと揉みしだくマオ。

 こ、こらw とくすぐったそうに笑う沙希は、それから愛斗に目を向けて、


「ふふ……でも私の胸に興味があるなら、本当にそういうお願いでもいいのよ?」


 とつややかに微笑んでみせた。

 だから健全な男子高校生としては一気にムラッと興奮し――


「じゃ、じゃあおっぱい……見せてください……!」

「ふふ、了解よ」


 こうして愛斗は、禁断の領域へと挑むことになった。

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