第6話 恥じらい

「……姉ちゃんなら居ませんよ?」

「うん知ってるw」


 暦が6月に切り替わったこの日の放課後も、愛斗まなとの部屋はマオに占拠されていた。

 早速ベッドに寝そべって漫画を読み始めているマオは、衣替えの影響で制服が夏服に切り替わっている。これまではブラウス+ブレザーだったが、ブラウス+ニットベストとなった。

 露出度の高まりとしては、ブラウスが半袖になって二の腕まで見えるようになったくらいだろうか。さすがに腕で興奮出来るほどの上級者ではないが、肌色が増えたのは良いことと言える。


「――さあマーくん、今日のお駄賃なんにする?w」


 そして本日もやがて、お駄賃の時間がやってきた。

 ニヤリと尋ねられた愛斗は、今日に関してはあまり迷わず、


「……腋を見せてください」


 と告げた。


「ほーん、腋?w」

「はい……衣替えしたので、見やすくなったと思いますし」

「マニアックだねぇw」


 マオはニヤニヤとなじるように笑いながらも、


「ま、別にいいけどねw ほなどっちの腋にする?」

「……左でも右でも別にどっちでも」

「ほな左」


 と、左袖をまくりながら、マオが挙手でもするように左腕を挙げてくれた。

 途端、見えるようになったのはもちろんマオの左腋だ。

 一部では第二の性器扱いされることもある腋という部位を、マオは女子らしく丁寧に処理しているようでムダ毛は1本もない。


(良い……)


 マオの腋を食い入るように眺めることが出来るのは、恐らく自分だけ。

 筋張ったラインに魅力を感じる。

 そう思いながらジッと見つめていると、


「……見過ぎちゃう?」


 と、マオが恥じらいの表情で呟いた。

 恥じらうのは珍しい。

 ノリノリで左腕を挙げてくれたのに、いざ見せてみたら意外と……、というパターンだろうか。ショーツは平気なのに、腋は恥ずかしいらしい。

 恥じらいの基準がよく分からないものの、愛斗は更に恥じらわせたくて、その腋に顔を近付けてクンクンと匂いを嗅いでみた。


「ちょっ……」

「制汗剤の良い匂いですね……ちょっと残念です。制汗剤でカバーしなかった場合の素の匂いを知りたかったんですけど」

「ま、マーくん変態すぎっ」

「今更ですよ……」


 そして何より、その変態を育て上げたのはマオである。

 マオがお駄賃をくれるようになったから、こうなった。

 その責任を取って欲しい。

 そんな思いで、愛斗はじかにマオの腋へと鼻を押し付けて、わざとらしく鼻息を立てながら呼吸を繰り返す。

 マオは「やっ……」と顔を背けたりしているが、一切抵抗はしてこない。


 自分だけに許された特別。

 他の男子には絶対に出来ない秘め事。

 そんな幸運を享受出来る立場であることを誇りに思いながら、愛斗は時間が許す限り、マオの腋を堪能し続けたのである。

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