第2話 隠されたモノほど見たい

「……姉ちゃんなら居ませんよ?」

「うん知ってるw」


 5月の下旬に差し掛かったこの日の放課後も、愛斗まなとの自室は姉の友達に占拠されていた。言うに及ばず、彼女は金髪ギャルの荒崎マオである。前回の訪問から数日と経たないうちの再訪問であった。


 いつものようにベッドでうつ伏せになって漫画を読み始めた彼女を見ながら、愛斗は疑問に思う。


「……なんで姉ちゃん居ないのに来るんですか?」

「えー、なんだっていいじゃんそんなの」


 理由を聞くと、いつも大体こんな感じではぐらかされてしまう。


(まぁ、どうせ漫画喫茶の代わりだよな……)


 と、毎度のように思いながらも、それが悪いことだとは思っていない。1個上の可愛いギャルが勝手に押し寄せてくれるのだから、文句などあろうはずがないのだ。むしろこの状況を楽しまなければ勿体ない。なので宿題に手を付けながら、チラリと視線を動かしてマオを観察する。


(……いつも思うけど、綺麗な脚だよな)


 短く折られたスカートからすらりと伸びるその脚は、タイツなどに覆われてはいない素の状態だ。無駄な毛が1本も存在しておらず、見ているだけでスベスベなのが分かる。

 タイツなどに覆われてはいないと言ったが、ふくらはぎから下の部分には昨今隆盛気味のルーズソックスを履いている。


(思えば……僕ってマオさんの素足を見たことないな)


 マオは初見時からずっとルーズソックスだ。それをわざわざ脱いでもらう機会なんてないため、マオの素足はついぞ見たことがない。


(……見たい)


 隠れたモノほど見たくなるのが、人のサガと言えよう。

 年中帽子を被っている人の頭髪がどうなっているのか。

 モザイクの下はどうなっているのか。

 そういった例は枚挙に暇がないはずである。


(……今日の、決まったな)


 そんな考えが定まる中、やがて午後6時を迎えた頃――


「ん~……さてと、遙香の帰宅に備えてぼちぼち帰らないとねぇ」


 ベッドで身体を起こしながら、マオがぐーっと伸びをし始めていた。


「てなわけでマーくん、今日もお駄賃払わせて?」


 お駄賃。

 漫画を読ませたことへの対価。

 帰宅前にそれを貰うのが常である。


「さてさて、今日のお駄賃はなんにする?」


 お駄賃の内容は愛斗が決めていいことになっている。

 結構インモラルなことまで許される。

 なぜ許されるのかは分からない。

 しかし許される以上は、男子高校生として頼まない道理はないわけで――


「きょ、今日はですね……素足が見たいです」

「ほうほうw」


 ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべながら、マオが両脚を投げ出すように伸ばし始めた。そしてつま先をくるくる回すような仕草をしつつ、


「素足なんか見たいんだ?w」

「……見たいです」


 蓋を開けてみれば普通の素足なのは間違いない。しかし隠されたモノを紐解きたい野心のような感覚にウソはつけなかった。


「ま、そんなもんでいいならお安い御用だし……ほな、見せたげよっかw」


 マオの手がルーズソックスに這わされる。どこか焦らすようにゆっくりと、右のソックスからツーと下ろされていく。綺麗な脛。足の甲。そして直後には――


「ほい、これがあたしの素足ねw」


 存外あっさりと、指と足裏まであらわにされた。マオはウネウネと波打つように指を動かして、素足を見せびらかしてくる。

 予想通りの想像通り、その足は普通の足である。さりげないネイルが施されていること以外、特筆すべき部分は何もない。

 けれども、隠されていたモノをようやく見られた高揚感に包まれ、愛斗は思わず食い入るように眺めてしまう。


「左はマーくんが脱がせていいよ?w」

「え……いいんですか?」

「うんw」


 マオがイタズラな笑みを深めながら左脚を差し向けてくる。愛斗はごくりと喉を鳴らしながらそのルーズソックスに手を掛け、ずるると脱がしてみた。


(おぉ……)


 直後にはマオが両脚ともに素肌を晒すことになり、感慨深く思うのと同時に、その両方の素足が愛斗のほっぺをぐにっと挟んできた。


「むぐ……」

「見るだけじゃアレだろうし、サービスw」


 思わぬ行動に驚きつつも、愛斗はそれがイヤではなかった。1日の頑張りが反映されたかのようにマオの素足からはむわっとした汗っぽさを感じるものの、臭うかと言えばそうではなく、ずっと嗅げと言われたら嗅ぎ続けられる自信がある。


「マーくん変態だね~w ふつーさぁ、女子にこんな扱いされたら怒りそうなもんなのにw」

「……むしろ、普通の女子はこんな要求に応じたりこういうサービスをしないのでは?」

「確かにw まぁでも、あたしはふつーじゃないからねw」


 自覚はあるらしい。


「それにこうやって攻めたりすんの好きだからw」


 という言葉も続けられ、もしかしたら他の男子にもこういうことをしているのだろうか、なんてちょっと暗い感情が押し寄せる中で――


「一応言っとくけど、マーくんにしかやらないからね、こういうのは」


 イタズラな笑みを潜めた真面目な顔での言葉が、愛斗の心を落ち着かせてくれたのは言うまでもないことであった。


 なんで特別視されているんだろう、と疑問が湧いたりもするが、変に掘り下げて期待と違う答えが返ってきたら怖いので、愛斗は大人しくマオの素足を堪能する。


(……僕はラッキーなヤツだよな)

 

 可憐な容姿と明るい性格ゆえに、マオは校内における人気者だ。同じ高校の後輩としてその絶大な支持を知っているからこそ、この状況は恵まれていると思う。他の男子がどれだけ頼み込んでも得られない状況を、自分は作り出せているのだから。

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