姉ちゃんが居ないのになぜか僕んちに来る姉ちゃんの友達

あらばら

第1話 姉ちゃんの友達

「……姉ちゃんなら居ませんよ?」

「うん知ってるw」


 この日の放課後、菱川ひしかわ愛斗まなとの自室は長い金髪の美少女に占拠されていた。


 彼女は荒崎あらさきマオ――高2の姉の同級生にして友達である。

 ハーフゆえのブロンドと碧眼がチャームポイントのギャルだ。


 そんなマオが姉の友達枠としてこの菱川家を訪れるようになったのは、去年。

 姉が高校で知り合った友人なので、本来であれば愛斗にはなんの関係もない存在だ。


 しかしなぜか時折、マオはこうして姉が不在の菱川家を訪れる。

 そして愛斗の部屋に上がり込んでは漫画を勝手に読み始めるのだ。


(まぁ……漫画喫茶の代わりにされてるんだよな、多分)


 わざわざ姉不在の菱川家を訪れる理由なんてそれしかない。

 そう考えて、愛斗はあまり気にせず宿題を進めるものの、


「ねえねえマーくん、この巻の続きなくない?」


 と背後から腕を回され、抱きつくように顔を覗き込まれてドキッとする。

 ふわりと良い匂いが漂ってきて、愛斗は脈拍が高まった。

 マオは無駄にフレンドリーなのが心臓によろしくないと言える。


「そ、その巻の続きは電子で買ったんですよ……セールしてたので」

「あぁそうなん? それって読ませてもらえる?」

「別に良いですよ……」


 愛斗は電子書籍アプリを起動しつつ自分のタブレットを貸し出した。

 それから読書と宿題の時間が平和に続き、午後6時を回った頃――


「あ……ぼちぼち姉ちゃんが部活から帰ってくるかもしれないです……」

「ん。ホントだね。じゃあ帰ろっかな。あたしがこっそりマーくんのとこ来てるの知ったら遙香はるかぜったいマーくんを理不尽に怒るだろーしね」


 姉は愛斗のことを害虫のように扱っている。なので自分の友達が愛斗を訪ねていると知ったら理不尽な雷が降り注ぐのは確実なのだ。


「じゃあ帰る前に今日もお駄賃払わせて?」

「はい……」


 お駄賃。

 それは漫画を読ませたことへの対価だ。

 タダでは悪いから、とマオの方から言い出して始まったことである。


 お駄賃の内容は、愛斗がその都度考えていいことになっている。

 なんでもいいよ、と言われて始まったこのお駄賃制度は、実のところ割とインモラルであり――


「じゃ、じゃあ……今日はクロッチの匂いを嗅がせてください……」

「うわ、えっちだw」

「だ、ダメなら拒否してください……」

「ううん、別にいーよw」


 ニヤッと笑いながら、マオはベッドの上にぼふんと腰を下ろし、


「はい♪ たーんとお嗅ぎw」


 と、誘うようにスカートをたくし上げてくれた。

 あらわになったのは純白のショーツ。

 むちっとした太ももが一緒にお披露目されて、愛斗は高揚する。

 姉が帰る時間までまだ余裕があるとはいえ、モタモタしてもいられないので早速、


「……し、失礼します」


 そう言って愛斗はマオの太もものあいだに顔を埋もれさせた。

 むわっ、と蒸されたその場所は、マオの表立った甘い香りとは違って、汗とほのかな酸っぱさが漂うお世辞にも良い匂いとは言えない空間だった。

 それでも、マオのような美少女がこんな匂いを抱えているのだと思うと、愛斗は妙な気分になってクラクラしてしまう。

 クロッチの匂いは何度か嗅がせてもらっているが、都度匂いの濃淡が違うのは体調が関係しているのかもしれない。


「イケない弟くんだねぇ?w」


 そんな中、意地悪な笑顔を浮かべながら、マオが太ももをぎゅっと締めてくる。むにっとした肉の万力で愛斗の顔が両サイドから挟まれた。それは当然ながら素敵なサービスであり、愛斗は変な性癖に目覚めてしまいそうだった。


「――ほいっ、じゃあ今日はこれでおしまいねw」


 およそ1分ほど堪能させてもらったところで、マオがそう言って太もも万力を緩めてベッドから立ち上がった。

 そして軽やかに床へ降りると自前のリュックを背負って、


「ほなまたねw」


 と言い残し、あっという間に立ち去ってしまった。


 去年の秋口から、愛斗は時折こんな放課後を過ごすことになっている。


 姉が不在なのになぜか遊びに来る姉の友達。


 そんな彼女との刺激的な時間が次はいつになるのか、愛斗は早くも待ち遠しい気分となっていた。

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