EP19 エレーナと零花
「エレーナ艦長!」
そう言って、ドアの横で待っていた絵に描いたような整った顔立ちの金髪碧眼の少女が切れのある敬礼を披露する。
「ああ、ありがとう。もう少しで呼ばれるぞ。しっかり身嗜みを整えとけよ」
そんな少女をチラっと一瞥し雑な敬礼に一言添えて軽く挨拶をすませ、すたすたと通路を歩いて行く。
「あの話し。お前はどう思った?」
私の右隣にピッタリくっついて歩いている零花にそう問いかければ「私はエレーナさんの仰るとおりにするだけです」と耳にタコができるほど聞いてきた答えが返ってきた。
「私の右腕じゃなくて、零花は何て言ってるんだ?」
そう言って彼女の死んだ魚の目をした銀色の瞳を一瞥する。
「れ、れいかは。怪しい。と思う。ます。出来すぎてる。ですか?」
オドオドしながらそう言った零花の頭を優しく撫でる。
「全く持ってその通りだ。話しが上手く行きすぎだろ、あの忌々しい狸親ジジめ。一体なにをたくらんでいるんだ?」
そう言ってティムール元帥と呼ばれている頬に傷のある、あの怪しい司令官のことが脳裏をよぎった。
ティムール元帥、帝国軍から派遣されて来た『ジャスマ』の最高権力者にして最高責任者でもある。
そんな彼が『ゼルニケ』に着任してきたその日から感じていた違和感を探るべく帝国軍中央情報データベースのファイアーウォールをクラックし彼の経歴データを探ったが彼のデータにはより高度なセキュリティーパスが必
要であり、閲覧できなかった。
だが今日出会ったあのシーナと言う女。
あの女に近づけばティムール元帥の過去にまつわる情報を得られるのではと思ったが。。
。。。。どうやら見当違いだったらしい。
「コンコンですか?」
隣を歩いていた零花の声に沈んでいた思考を呼び戻される。
「違うそうじゃな。それに、その鳴き声は?キツネじゃないか?」
そう言ってやれば、急に恥ずかしくなったのか耳を真っ赤にし顔を背けた。
「ほら、狸の鳴き声は?」
「っ。。。に、ニャー?」
今度は猫の声が出てきた。
「はずれ。次。」
「わ、ワン!ニャー!コンコン!と、捕らぬ狸のかわざんびょう!」
ついに考えるのを諦めたらしい。
死んだ魚の目を涙で潤ませながらジト目でこちらを睨みつけてくる。
「すまんすまん。と言うか、最後のたしか極東の地にある国のことわざか?しかも最後、ちょっと咬んだだろ?」
そう言うとより一層銀色の瞳に涙を浮かべ顔をゆでだこのように真っ赤に染めて俯いてしまう。
少し揶揄いすぎたな。と内心反省しつつでも反応が可愛くてなかなか止められない。
「わかった。わかった!私が悪かったよ。この仕事もあと3カ月で契約満了で報奨金が手に入る。それで美味しい食べ物でも奢ってやるから、泣くなよ」
そう言ってやればバッと俯いていた頭を跳ね上がらせ、さっきの涙はどこへやら瞳をキラ
キラ輝せてすり寄ってくる。
まあ相変わらず死んだ魚の目だが。
「ついでに動物園でも見に行くか?狸の鳴き声も確認しときたいしな?」
そう言って零花を見れば、顔を真っ赤に染め上げて首を左右に振って必死に否定してくる。
「あ。あの。れ、零花は。お魚さん。見たい。です」
零花が紡いだ言葉に、思わず両目を見開き俯いている零花に視線を送る。
彼女が初めて言った自分の意思に、嬉しくて緩みそうになる頬を締め付けか彼女の頭を優しく撫でる。
「それもいいな。じゃああと3カ月間、頑張りますかね」
そう言ってようやくたどり着いた班長会議室のドアを押し開き薄暗い室内へ身を入れる。
「エレーナ艦長に敬礼!」
副艦長の号令を合図にここ数日で激しく入れ替わった班長達が一斉に敬礼する。
お返しに軽く敬礼し、辺りを見回し全員揃っているかを確認し腕を降ろす。
「休め!」
副艦長の号令が再び空中を打ち鳴らし、各班長達が一斉に上げていた腕を降ろす。
「それでは各員、艦の補給状況並びに定時報告を聞こうか」
エレーナ艦長の冷たい声が班長会議室の新鮮な空気を打ち鳴らす。
周囲を夜の帳が包み込み、夜空に輝く月が分厚い雲間から僅かにその青白月光を覗かせている。
巨大な湖の中心にポツリと浮かんでいる巨大な人工島。いや見る物よっては巨大な鯨と見まがうほどの船体サイズを誇る巨大な航空母艦。
全通式飛行甲板を持つ巨大な空母は今日も艦艇下部に設けられた巨大な取水口から大量の真水を吸い込んでおり赤や緑、白やオレンジなどの警告灯がまるで水上を飛ぶ蛍のように極小の光を放っている。
ここは『ゼルニケ』総勢5000人が生活できるそこで、今日も足りない人員に頭を抱えながら抜錨の時を今か今と待っている。
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