EP18 傭兵契約
「どう言う意味だ?」
ティムール准将のなんの脈絡もない突然の提案に驚きながらも並べく冷静を装ってそう質問の真意を確かめる。
「そにままの意味だ。先も話した通り、我々は加盟国の利害関係の一致により生まれた組織だ。そしてここ数カ月の間に各国ともその戦線は大きく前進し奴ら(ニヒル・ノート)もその勢力圏を縮小している。ならこの後、なにがし起こるか・・・・・君なら予想がつくだろう?」
ティムール准将の言葉通りのに解釈をするのなら奴らが戦線を後退させているこの状況でジャスマから手を引くということはそれだけ兵士がいないのか?いや、それなら戦線を拡大させないはずだ。となれば。。。。。
「備えているのか?戦後の技術獲得の争奪戦に」
「その通りだとも!流石はティムール元帥の元部下だ」
嘲笑いながらそう言ったエレーナは空になったティーカップを隣に控えていた零花に手渡す。
「もはや我々に残された時間は少ない」
深刻そうな表情を浮かべ持っていたコーヒーカップを木目が浮き出た長机の上に置き懐から銀色で縁取りされた端末を二枚引き抜き、その片側を長机の上を滑らせこちらに寄越してくる。
「これを」
グレー色のモニターが点灯し、大陸全土の地図が投影される。
「これはまだ発表前の極秘情報だがその地図に示した赤点が2年前に観測された奴らの巣穴の正確な位置だ」
そこまで言ったティムール准将が手元のモニターの液晶を撫でこちらの地図を変更する。
「ッ!」
端末に表示された地図を見て、言葉も出ない。
「これが現在、我々が確認している奴らの巣穴の位置だ。なにが言いたいか?分かるだろ?」
増えている。赤点の、奴らの巣穴をしめす真っ赤な点の数が増えている。
確かに年々奴らの勢力圏は縮小しているがこれは、明らかに。
「誘い込まれてる。いや、この場合は誘い出されてるか?」
「ッ!」
私の心を読んだかのような発言に内心驚きながらも、突然そう言い出したエレーナに目を向ける。
「まあ、なんにせよ。上の奴らがいかに無能かがよく分かるよ。こんなあからさまな誘いに引っかかるなんて」
呆れたため息を一つ零し、首を振ったエレーナは零花が差し出したティーカップに口をつける。
「もう一度言おう。我々には時間が無い。奴らの巣穴は確実に全て破壊しておかねならん、もしここで、全ての巣穴が同時に活性化してみろ?前線の敵と後方の巣穴からワラワラと湧いて出てきたタコもどきとで挟撃されれば共同戦線など容易く崩壊する」
ハッキリとそう言い切ったティムール准将の少し濁った灰色の瞳がゆっくりと私の瞳を正面から見据えてくる
「だからこそ、我々は現在即戦力を必要としている。それこそ、かつての大戦時代に活躍した英雄並みの戦闘力を持った人間をな?」
「それは私にもう一度PMTFに乗れと言うことか?」
間髪入れずにそう聞き返す。
「そつのつもりだ。無論パイロット復帰へのサポートはするつもりし私に出来る範囲でなら少しは融通が利くように手配する。如何だろうか?もう一度PMTFに乗ってくれないか?」
真剣そうな眼差しで見つめてくるティムール准将のこんな姿を見たことがあっただろうか。
少なくとも私が知っているティムール准将はいつも余裕を見せて、誰かに頼み事をすることなど滅多になかったはずだ。
「すみません。ティムール准将。いくら貴方の頼み事でも無理な物は無理ですよ」
自分でも驚くほど弱々しい声でそう答える。
「なぜだ?」
「貴方も既に知っているでしょう?私が『ミレア』の資格を剥奪されたのを」
〈ミレア〉それはかつてのPMTFの搭乗員の総称であり、卓越した操縦技能と多数の戦果を挙げたPMTFの搭乗員に与えられる称号である。
そんな称号を剥奪されたのだ、当然当時の軍内部でもその情報は拡散されていただろう、聞いていたティムール准将は顔色一つ変えることなくすました顔で頬の傷痕を撫でている。
「君はかつて『ミレア』だったのか!どおりで彼が君の勧誘に熱心なわけだ」
エレーナが驚き声を上げる。
「それならなぜもう一度乗る事を拒むんだ?たかだか称号の一つ、またPMTFに乗って取り返せば良いじゃないか」
そう軽い口調で言い放っエレーナを思わずギロリと睨みつける。
「
ティムール准将がポツリと紡いだその声は応接室の壁に仕込まれた防音材に吸収され消えていく。
「せいじこう病?なんだ?それは?」
「強い磁場に長時間曝露する事によって発生する病気だ。軽い症状なら慢性的な頭痛や目まい、それから突発的な吐血症状。重度になれば人体を巡る血液中の鉄分が結晶化し、血栓塞栓症(けっせんそくせん)もしくは金属中毒を引き起こす。確か君もあの時同じような症状を軍医に訴えていたな?まさか。。。」
ティムール准将はそこまで言って口をつぐんだ。
「貴方の想像どおりですよ。ティムール准将いやティムール元帥とお呼びすべきか?」
そこまで言って目の前に置いたコーヒーカップに手を伸ばしちょうど良い温度になったコーヒーに口を付ける。
重たい沈黙が応接室の空気を濁らせる。
「その生磁鉱病とやらは治らないのか?」
エレーナがそう言ってティムール元帥の顔に視線を送る。
「現段階では無理だ。そもそもこの病事態、パイロットの生存率が向上したからこそ認知された病だからな」
ティムール准将の回答にエレーナは特に大した反応はしめさずに大きなため息を一つ零した。
「そう言う訳で、私はもう二度とPMTFには乗れn「もし、その症状を抑えるとしたら?」金属毒素鎮静剤や中和剤ではなく?」
そう言ってティムール元帥を見つめる。
前にヴァルティツェの町でレゲン先生から貰った金属毒素鎮静剤は瞬間的な病症を抑える効果しか期待できないしその効能も非常に薄い。
逆に中和剤は血液中に溶けた毒素を中和してくれる。。。らしいのだがその効果は全くと言って良いほど感じられなかった。
「無論、現在流通している薬ではない言ってしまえば試薬だ」
「試薬?どうせ実験段階の代物だろう?ほんとに効果があるのかも疑わしいは。まさか、彼女で人体実験でもする気か?」
エレーナがそう言ってティムール元帥を睨みつける。
「安心しろ。開発元は帝国病院だ。それに彼ら(帝国病院)が提出した報告書ではマウスによる実験では一定の効果が確認されている」
「・・・・・・・・・」
まるで雷に撃たれたような衝撃だった。
もしティムール元帥が言っていることが本当ならもう一度PMTFに乗ることが出来る。
また誰かに必要とされていたあの日々を、取り戻せるかも知れない。
そう思えば、不思議と心が軽くなった。
「まったくバカバカしい!」
エレーナの声が空気を揺らし長机の上のカップの中のコーヒーが波打つ。
「そこまでして戦場に戻りたいのか?もう一度。よく考えろ」
エレーナの冷めた瞳に睨みつけられる。
応接室の壁に掛けられた時計がカッチカッチっと一定のリズムを刻みながら秒針を動かしていく。
「そろそろ、失礼するよ。これから班長会議があるんでね」
そう言ったエレーナは身を翻す。
彼女の側に控えていた零花と呼ばれた女性が椅子の背もたれに掛けられていた上着を取り上げエレーナに素早く着せる。
「君はもう一人じゃない。その事をよく心に刻んで、考えろ」
冷たい言い放ったエレーナが零花を伴って応接室から退出する。
「・・・・・・」
「先ほども言ったように、可能な範囲でなら融通を利かせる給料も言い値で払おう。どうかね?意外と悪くない提案だと思うが」
ティムール元帥が出してきた提案を下にスワイプしながら読み進めていく。
「それに我々の遠征の最終目的地は、南にある『マラーユア共和国』だ。幸い君の持ち物にも入国許可書があったことだし、そこま私と傭兵契約をしてもらえればいい」
そう言ってあらかた契約書を読み込んだシーナは少し思案し手元に置かれていた端末に指を走らせる。
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