EP 15 再開
「大隊長。貴方はほんとに。。。。」
懐かしい頃の夢を見ていたのだろうか。開いた口から零れ出た声に驚いて、思わず両目を見開いた。
見覚えのない天井が広がっている。
ピッ。ピッ。ピッ。ピッと、ロックオンアラームや対地接近警告装置があげる悲鳴とも異なる耳に優しい電子音が一定のリズムで聞こえてくる。
体がまるで鈍りのように重たくて指先さえも動かせない。辛うじて動かせる首を動かして辺りを見回し状況を把握する。
その時、シャーっという音とともに辺りを囲んでいた純白のカーテンが開かれてその向こう側からナース服に身を包んだ若い女性が顔を覗かせ、彼女の清んだ瞳と私の視線が合わさりあう。
「あ。。。目が覚めたんですね!よかった~~~。」
心底安堵した表情を浮かべた女性が近づいてくる。
「此処は?どこだ?」
「もう大丈夫ですよ。体に痛むところは無いですか?」
困った表情を浮かべながら点滴スタンドへ近づき吊り下げられている点滴バックを手早く交換する。
開いたカーテンの後ろか消毒液ツンっとした独特の臭いが流れ込み、ほどよく効いた空調が熱くもなく寒くもないちょうどよい風が肌に吹き付ける。
反対側に目を向ければ、謎の装置がピッピッピッピッっと一定のリズムを奏でながら取り付けられたモニターに緑の線でこちらも音に連動してか一定のリズムで波形を描いている。
「良いから質問にk「ちょっと触りますよ~~」なっ!」
掛け布団の中に手を突っ込み、左腕を引っ張り出す。
記憶が正しいければ私の左腕は破壊されたモニターの破片により引き裂かれた外さだが今では清潔な包帯が綺麗に巻かれている。
その包帯が妙に頭に残り、何か大切な事を忘れている気がする。
包帯。包帯。そう包帯だ!
「おい!あの子はどこだ!どこへやった!」
今まで鈍りのように重く感じていた体が嘘のように起き上がり、ベットから跳ね降りてナース服の女性に詰め寄る。
「ちょ、ちょっとまだ安静にしてください」
ナース服の女性の腕を払いのけ、左腕に刺さっている点滴の針を引き抜き投げ捨てる。巻かれた真っ白な包帯が朱色に染まっていく。
「お、落ち着いて、落ち着いt「そこをどけ」キャッ!」
目の前に立ちはだかったナース服の女を押しのける。
あと少し、あと少しなんだ。此処で諦めて倒れる訳には、いかない!
今にも倒れそうな体を気合いで保ち、出口へ向けて歩きだす。
刹那、ドアが静かに開かれその奥から白髪混じりの髪を生やした妙齢の男が入ってくる。
だれだ?
どこかで見た事のある男の顔の頬には不自然なほど綺麗に引かれた一直線の傷痕が刻まれている。
「やはりそうか!カラミラ大尉!まさか君が生きていたとは・・・」
シワの寄った目尻を大きく開いてそう言った男は頬の傷跡を撫でながらどこか遠い日の在りし記憶をたどるいうな眼差しでシーナのことを見つめている。
カラミラ大尉。その名を聞くのは随分久しくどこか違和感すら覚えた。
カラミラの名は私の名前だが、あの日から偽名を名乗って生きていたためその名を知っている者などほとんどいないはず。
ならば私の名を知っていたこの高齢の男は昔の知り合いと言うことになるが、昔の知り合いなどほとんどが戦死したはずだ。
ならば目の前に立っているこの男は。。。。
「まさか、ティムール准将?ですか?」
「そうだ!随分と老けたなカラミラ大尉」
皮肉たっぷりにそう言ったティムール准将の肩を小突き口を開く。
「ティムール准将こそ、そろそろ更年期障害を心配する年頃なのでは?」
「その相変わらずの減らず口でやはり本物か・・・それよりも何の騒ぎだ?」
そう言われ思わず上がってきた声をグッと堪えて大きく息を吸い込み深呼吸。
大きく吐いたため息が静まりかえった室内に響きわたる。
荒ぶる心を落ちつかせティムール准将を見つめて口を開く。
「私と一緒にいた、これぐらいの少女を知りませんか?ティムール准将」
ちょうど腰の辺りを指し示しながらティムール准将に問いかける。
「アリサ看護師。彼女、カラミラ大尉を連れていく前に傷の手当を」
「はい!」
ティムール准将の命令の元気よく返事を返したナース服の女、アリサ看護師が消毒液に浸した脱脂綿を持って歩いてくる。
「消毒しますね!此処に座ってください」
そう言ったアリサ看護師はどこからともなく持って来た椅子をトントンと叩き座るように促してくる。
仕方なく椅子に腰掛けた刹那、体が鉛のように重たくなり全身から力が抜けていく。
「いったい、なにが?」
「貴方の体はなだ完全に治った訳じゃ無いんですからそうなるのも当然です」
呆れた表情を浮かべたアリサ看護師が真っ白なトレーに茶色の瓶やピンセット、脱脂綿などを棚から取り出して次から次へとトレーの上に載せていく。
「ティムール准将。いったいなにが起きたのでしょうか?ここ最近の記憶が曖昧で。。。。」
ズキズキと痛む頭を抑えながら霞がかった記憶の糸を手繰り寄せる。
確か最後は。。。。マーサさんの家を出て、いや違う。追撃してきた黒いPMTFを撃破した?
「そうか。。。。君は我々が『タコの巣穴』と呼んでいる場所で我々の戦術機動部隊が発見し保護したんだ・・・本当に何も覚えがないのか?」
その言葉に、今まで散り散りになっていた記憶のピースがカッチリはまっていく。
そうだ!休息のために放棄された前哨基地に侵入したんだ!そこであのタコどもに襲われたんだ!
「思い出しましたよ。ティムール准将」
「それはよかった。そこで質問なんだが・・・」
そこまで言い切り、ティムール准将は口を閉ざした。
ガサガサと布が擦れる音が気まずい空気振動させアリサ看護師が左腕に巻きつけられた包帯を取り外していく。
「勘違いしないで聞いて欲しい。いったいなにが起きているんだ?君は死んだはずだ。なぜ生きている」
どうやら今度はこちらが口を閉ざす番のようだ。
さてどう言い訳をするべきか。。。。
「・・・まあいい。そもそも私はもう帝国軍人じゃないからな」
意外にもあっさり引き下がってくれたティムール准将の口から衝撃の一言が放たれた。
「それはどういう意味で?まさか貴方ほどの手腕をお持ちの前線司令官が、昇進ならともかく。更迭されるなんて考えられません。いつもの悪い癖ですか?」
「いや、事実だ。それに伴ってもう私は准将じゃない」
そうあっさり言い切られ、拍子抜けしてしまう。
「それはいったいどういッ!」
左腕から激痛が走り思わず左腕を引き揚げる。
「動かさない!」
シュパッっと言う効果音が聞こえてきそうなほどの素早い動きで左腕腕の手首を掴まれ固定される。
「血管に刺さっている注射針を強引に引き抜いた罰です!甘んじて受け入れてください」
そう言ったアリサ看護師は強引に引き抜いた傷口にポンポンと脱脂綿を軽く叩きつけ始め、それに合わせ左腕に電流のような痛みが走る。どうやらまだ消毒をしている最中だったようだ。
「それについては後で君の処遇と伴に話すとして、そろそろ良いかな?アリサ看護師」
「ええ。これで完璧です」
そういってアリサ看護師は立ち上がり、どこからともなく持ってきた車いすを開く。「少し触りますね」と一声かけ優しく抱きかかえ車いすに乗せ替え後ろから押し部屋の外へと歩いて行く。
「やけに狭いんですね。これじゃあまるで潜水艦ですよ」
ティムール准将と併走すら出来ないほどに狭い通路に思わずそう感想を零してしまう。
「よくそんなマイナーな船舶を知っていたな。もしかして乗船経験が?」
前を歩いているティムール准将がそう言って通路の角を曲がる。
「私だってあの一件以降、ただ惰眠をむさぼっていた訳じゃないんですよ。毎日食いついで行くだけで必死だったんですから。。。。。そう言うティムール准将?だって知っていると言うことは潜水艦の乗船経験がお有りなのでは?」
そう聞き返すとティムール准将は冷たい笑みを浮かべ黙り込んでしまった。
どうやら余程聞かれたくない話しらしい。
気まずい空気が流れ、思わず後ろで車いすを押しているアリサ看護師を見上げる。
「ぇ。。。あの、さ、先ほどからおっしゃっている、せ、せんすいかん?とは何でしょうか?」
どうやら私の無言の訴えを汲み取ってくれたのか話題を逸らそうとしてくれる。
「ああ。君は帝国の中央区出身だったな。潜水艦とは船のバラストタンクに海水を注水する事で浮力よりも船体重量を増加させ海中に沈む特殊な船のことだ。」
「へ、へ~~~。そ、そうなんですね」
あきらかに理解していない引きつった笑み浮かべながら気の抜けた返事が頭の上を通り過ぎていく。
「簡単に言えば、魚のように海の中に潜れる特殊な船の総称です」
「あ、なるほど!お魚さんですね。それなら私だって知ってますよ。ゴツゴツした鱗を持った生き物ですよね!」
ウンウンと首を上下に振って分かっている事をアピールしているはが、たぶんいや絶対分かってない。
そんな無駄話に花を咲かせているうちに車いすは幾つもの角を曲がり、分厚い横開きのドアの前にたどり着く。
ティムール准将が分厚いドアの横に付いている黒い突起にカードをかざしボタンを押す。少しして鈴の音と伴にドアがゆっくりと横に開き、その奥のエレベーターに乗り込む。
「随分と歪な形のエレベーターですね」
そう、乗り込んだエレベーターは綺麗な正方形ではなく少し歪んだ狭苦し構造だった。
「このエレベーターは後付けだ。狭いかも知れんが耐えてくれ」
ドアがゆっくりと閉まり、エレベーターがゆっくりと降下していく。
『2』と表示されたニキシー管の明かりが消えその隣、さらにその隣へと光が移動していき最終的に『5』と点灯されエレベーターが静止する。ドアがゆっくりと開き、先ほどよりも広い通路に出る。
広いと言っていもぎりぎり人一人とすれ違う事が出来る程度なのだが。
そんな狭い通路をティムール准将のグレー色の背広型の軍服を背中を見続けながら進み続けること数分後、ようやく車いすが一つドアの前で止まりティムール准将がドアを軽くノックする。
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