エピローグ: volume0.1 彼女の闘争 (後編)

「だから!どうしても助けに来ない!ぁあ?そんな事は分かっている!良いから速くこっちに増援を回せ!」


「なにが?いったいなにが?起きているんだ!?」


太った中年の男が内線電話の受話器を乱暴に叩きつけ子どものように怒鳴り散らす。

細身の男が爪を咬みながら足を揺らしその振動が机の上に置かれているグラスを揺すカラカラと耳障りな音を奏でる。


中央会議室の中央に座っている顔に切り傷がある老人が何かの物音に気づいて側に立っている警備兵に見に行くように指示を飛ばし葉巻に火をつけ一服する。


「落ち着け、クルシェ上等議員。焦っても事態は改善しないぞ」


「なにを暢気な!敵はすぐそこまで迫って来ているんだぞ!それだと言うのに貴様は!それでも誇り高き帝国軍人か!」

小太りの男がそう怒鳴りさらに捲したてる。


「全く使えない部下共だな!何故此処の情報が漏れているんだ!これなら私兵を連れて来た方がましだ!」


「黙れ!若いの!」

突然の怒号に小太りの男が情けなく悲鳴を零し、老人は大きなため息を一つ零して小太りの男を睨みつける。


「私兵の方がましだと?そもそもn「御会談中失礼するよ?」なっ!」

ナヴィガトリア局長の凜とした声を合図にアース隊の隊員が室内に突入する。


「き、貴様は!」

椅子に座って爪を咬んでいた細身の男が恐怖に歪めた顔でそう言い放つ。


「おや?こんな所でお会いするとは全く奇遇ですね、ヴァーシャル国家再生委員会委員長殿。本日はどのような御用向きで?」


ナヴィガトリア局長は流れる動作で腰のホルスターの留め具を外しハンドガンを引き抜く。


「ま、待ってくれナヴィガトリア局長。これは大きな誤解だ!そう誤解なんだ。私は祖国復興のため、その支援を取り付けに来ただけだ!だかr「もう良い、喋るな売国奴」っ!」

引き抜いたハンドガンのがヴァーシャルと呼ばれた男の眉間を照星が捉え、やがて照門と一直線になる。


「よせ。早まるな。私にも家族がいるんだ!分かるだろ?家族の生活の為なんだ!」


地面に身を投げ出して年甲斐もなく泣き叫びながらそう訴えるヴァーシャル委員長にナヴィガトリア局長が膝を突き下げた頭を上げさせる。


「大丈夫です、安心してください。私もちゃんとヴァーシャル委員長の事情もその全てを把握しておりますとも」

その天使のような優しい声色に涙を浮かべていたヴァーシャル委員長は頭を上げナヴィガトリア局長の真紅の瞳を覗き込む。


「そうなんだよ。これはsアガァ!」

言葉を紡ぐ為に開かれた口に素早くストライクプレートを捻じ込んでそれとも同時にヴァーシャル委員長の胸ぐらを掴み引き寄せる。


「安心しろ。貴様の家族も後から送ってやる。先にシャーネル川三途の川のほとりで潮干狩りでもしてろ」


「はひぁ。あげぁぁぁああ」


バン。カラカラカラカラ


排出された空薬莢が地面を打ち付けどこかへ転がっていく。


即死だった。口内から後頭部めがけ撃ち込まれた銃口は脊髄を粉砕し後頭部を貫通している。


「汚いな」


そう零したナヴィガトリア局長は死んだヴァーシャル委員長の服の裾で様々な液体で汚れたハンドガンの先端部分を丁寧に拭き取り、立ち上がる。


「どうも初めてまして?かな?」


「そうだとも。初めましてだお嬢さん」

落ち着いた声色で一切表情を崩すことなくそう言った老人の力強い瞳がナヴィガトリア局長の真紅の瞳と交錯する。


「なにを暢気な!貴様は誇り高き帝国軍人だろ?なら速くこいつを拘束しろ!」

ギャアギャアと泣きわめく小太りの男に銃口を向け引き金に指をかける。


「まあ待て。貴様らの狙いは私だろう?なら彼は逃してやれ」


「それもそうだな。もう言って良いぞ」

やけに素直に応じたナヴィガトリア局長が右手を振り払って小太りの男に合図を送る。


それを見た小太りの男が会議室を横断し閉じていたドアを乱暴に開き逃げ出していく。


「撃て」


ナヴィガトリア局長の凜とした声が静まり返った会議室内に木霊し、次いで乾いた発砲音が会議室の中を駆け抜ける。


『始末完了』


ナヴィガトリア局長の耳に装着されらインカムが点滅し、背中を向けて無様に逃亡した男の末路を教えてくれる。


「煩わしい外野がご退場した所で、改めて自己紹介を」

そう言ったナヴィガトリア局長は老人の目の前まで静か足を運び、老人の濁った瞳を覗き込む。


「私は名前はナヴィガトリア。ジャクマリャ・ヴェンデッタの局長を務めている者です。どうぞお見知りおきを。シュペーア弁務官長殿?」


シュペーア弁務官区長と呼ばれた老人は顔の傷痕を撫でながら重く閉ざしていた小じわの寄った口を開く。


「ご託宣はいい。それで?契約は果たしてもらえるんだろうな?」


「そちらこそ、我々との約束を忘れた訳ではあるまいな?」


ナヴィガトリア局長の声にシュペーア弁務官区長は机の下から何かを取る出す。

その仕草に反応したアース隊の隊員たちが構えていた銃の銃口を一斉に跳ね上げさせシュペーア弁務官区長の脳天を捉える。


刹那、ナヴィガトリア局長が左手を素早く挙げて部下たちを静止。


「これが、君たちが望んだ『ブラックボックス』のだ」

そう言いながらシュペーア弁務官区長は机の下から真っ黒なアタッシュケースを引き上げて机の上にゴトリと置く。


「開けろ」

ナヴィガトリア局長がそう言い放つも対面に座っているシュペーア弁務官区長首は首を横に振り否定の意識をしめす。


「私は約束を果たした。次は君の番だ」

目地からだけで人を殺せそうなシュペーア弁務官区長の鋭い瞳がナヴィガトリア局長を睨みつける。


「それもそうだが。我々はまだ貴方が持ってきた中身が本物だと言う確証を持っていない。さあ開けてくれ、速くしないと君の孫娘へのプレゼントが腐ってしまうぞ?」


ナヴィガトリア局長のその言葉を聞いた途端、シュペーア弁務官長は一気に表情を崩し苦虫をかみ潰すような顔でポケットから銀色の鍵を取り出してアタッシュケースの鍵穴に差し込んで反時計回りに捻り、ロックを解錠し中身を披露する。


「いいだろう。君は契約を果たした。なら我々も君との約束を履行しよう」

ナヴィガトリア局長はどう言って懐から端末を取り出し左右引きスクリーンを展開。


「ところで君の孫娘が入院している病院は帝国病院に変更したのか?」


「ああ。言われた通りに変更した。だが一体どうするつもりなんだ?」


「帝国病院」それは帝国の首都であるイラクリオンに所在を置く世界最高峰の医療機関であると同時に権力者の専属病院であり、本来ならこのような地方に左遷された弁務官区長如きの口添えで入院できる訳がないのだが、どうやらこのシュペーア弁務官区長は相当なコネを持っているようだ。


「簡単な話だ。せっかく苦労してを手に入れたんだ。手術の過程でミスをされたらたまったもんじゃない」


なんとも言えない表情を浮かベているシュペーア弁務官区長を一瞥したナヴィガトリア局長は打ち込んだメッセージに目を通して送信する。


「ところでシュペーア弁務官区長。この男がどこにいるか知らないか?」


懐から一枚の色褪せた写真を撮る出したナヴィガトリア局長がシュペーア弁務官区長にその写真を見せる。


シュペーア弁務官区長のしわが寄った目が大きい見開かれる。


その写真の被写体は男だった。


現在の帝国軍が採用している軍服ではなく、かなり型落ちのそう。ちょうど目の前のシュペーア弁務官区長がまだ若かった頃の帝国軍が採用していた軍服だ。しかも上級士官向けの一級品である。

そんな上級士官が着る軍服を身につけた写真の中の男は軍服の上からでも分かるほど、よく引き締まった体に左頬に入った一直線の傷痕が特徴的だった。


「彼のことは勿論、招致しているが。彼は今から60年も前に既に死んでいる。どうして今さら彼のことを聞くんだ?」


首を傾げるシュペーア弁務官区長にナヴィガトリア局長が詰め寄る。


「いいや。奴は生きている。今もどこかで。。。噂でも構わない。なにか彼に付いて知っているこt『プルルプルルプルルプルル』」


警報装置のけたたましうなり声でもない比較的優しい音色の着信音が会議室内に鳴り響く。


「でろ。ただし余計な事は喋るなよ」


ナヴィガトリア局長に釘を刺されたシュペーア弁務官区長が骨張った手でポケットにしまった携帯電話を取り出して通話ボタンを押す。


「どうした?今は会議中だとあれほどッ!浩二君か!どうした?・・・・・・・・ぁああ。そうか!ぁあぁぁ。見つかったんだな?これから手術か。。。ぁああ。シエアに変わってくれ………」


瞳に涙を浮かべながら愛娘と話し込んでいるシュペーア弁務官区長をよそにナヴィガトリア局長は机の上に置かたブラックボックスをたぐり寄せ、電子戦兵に検査させる。


「起動は正常。BIOSも変化なし。シリアル番号とこちらが持ち合わせているデータが一致しました。ダミーじゃない。本物です」


自身が持っていたPCとブラックボックスを接続した電子戦兵がナヴィガトリア局長を見上げそう報告する


「完璧だ。引き揚げるぞ。長いは無用だ」


ナヴィガトリア局長の号令に合わせ、アース部隊の面々が一斉に動き出す。

電子戦兵から受けっとった真っ黒なアタッシュケースを手に提げて、会議室の

中で地面に両肘を突き情けなく号泣しているシュペーア弁務官区長を尻目に会議室を後にする。


「よろしいのですか?奴を始末しなくて?」

通路を駆け抜けながらアース隊の部隊長がナヴィガトリア局長に質問を投げかける。


「我々は犯罪者じゃない。これは正規の取引だ。それに生き証人がいる方がその脅威はより明確にそしてより誇張されて広まっていく」


「いたぞ!侵入者だ。撃ち殺せ!」


正面から飛び出してきた警備部隊が発砲音しそれと同時に物陰に身を隠す。


『こちらアース。パッケージを確保。作戦を第二フェーズに移行せよ。繰り返す作戦を第二フェーズに移行せよ』


部隊長の号令を乗せた特殊な電波信号が要塞内部を駆け回り、地下の発電プラントを制圧していたマーズ部隊がその信号を受信する。


刹那、マーズ部隊が地下発電プラントに設置したEMP爆弾が炸裂し要塞内部の電力回路に膨大な量の電力を供給し全てのブレーカーをショートさせ要塞内部を暗黒に染め上げる。


突然の暗闇に混乱している警備部隊をよそに各隊員がケブラー繊維で編み込まれた防弾ヘルメットにナイトビジョンゴーグルを装着し一方的な虐殺ショーの開幕だ。


側面に回り込むでもなく正面から堂々と警備部隊と撃ち合い制圧していく。


「こちらアース。ポイントβを通過、ラップタイムはT+7。オバー」


『こちらヴィーナス。了解。これより撤退する。オーバー』


『こちらマーズ。現在ポイントΘを通過、合流ポイントまで残り30m。誤射に注意されたし。オーバー』


当初の計画通り、破壊工作兼地下格納庫に襲撃をかましたヴィーナス隊は単身離脱、先行撹乱部隊であるマーズ隊と突入部隊であるアース隊が合流し要塞からの脱出を目指し入り組んだ通路を駆け抜ける。


襲撃を受けて厳戒態勢が敷かれた要塞は本来ならば外へと続くありとあらゆる出入口が、はては小さな小窓まで分厚い隔壁板が降ろされ完全に外界と隔絶されるはずである。しかし隔壁板が完全に閉じきりロックが作動する前に要塞の電源落ちているためパット見閉じてる用に見える隔壁板もジャッキを使えば容易く持ち上げ、開ける事ができる。


外から吹き込む凍える寒さに身を震えさせ、要塞の裏口から外へと脱出し車両格納庫から盗んだトラックに乗り込んで回収地点めがけ白銀大地を駆け抜ける。


刹那、残影がトラックの上を駆け抜けて黒いPMTFが巨大な雪柱を舞い上げて着地し黒いPMTFが携行している突撃制圧砲が射撃を始め、トラックの周辺に雪柱を立てていく。


その様子を遙かかなたから雪に埋もれたマーキュリー隊の支援狙撃兵が超長距離狙撃用にカスタムされたスナイパーライフルその上にマウントされている高倍率光学スコープ越しに観察している。


『こちらアース。敵PMTFの排除を要請する。繰り返すマーキュリー隊。至急支援狙撃を要請する。オーバー』


『こちらマーキュリー01。了解。支援狙撃を開始する。オーバー』


その声を合図に今まで雪の中に潜んでいたマーキュリー隊が動き出す。

降り積もった雪を掻き分け設置した防水シートを引き剥がして、固定式無反動砲ランサーを展開し、雪を退かして射線を確保する。


『スポッター。標的指定を任せる。オーバー』


『こちらマーキュリー01。了解。隊長は動体センサーを。S1とS2それからS3は頭部カメラを。B1とB2はランサー。私の合図に合わせて下さい』

地面に伏せていたスポッターが覗き込んでいた双眼鏡から目を離し、光学スコープを覗き込み各種値を読み上げる。


『現在気温-12度。風速無し、標的との距離は947m………』


スポッターが読み上げていく値を参考に各狙撃兵がおのおのの経験を頼りに照準を標的に合わせ始める。


『合図で行きます。』

重たい沈黙が辺りを包み、遠くで聞こえる雷鳴のような砲撃音だけが空気を揺らす。


『3。2。1。今。』


タイミングが完璧に合わさった発砲音が凍てく空気を引き裂いて、次いでランサー無反動砲が強烈なバックブラストを噴き上げながら有線誘導弾を打ち放つ。


有線誘ケーブルが宙をうなり、真っ赤なジェットの尾を引きながら有線誘導弾が黒いPMTFめがけ飛翔する。


先行して撃ち込まれた銃弾は正確に動体センサーと頭部カメラを撃ち抜いて、黒いPMTFの視界を奪い去る。


レーダーに捕捉されないように低高度を駆け抜けた誘導弾からケーブルが引き抜かれ、まるで首輪を外され獲物をめがけて飛びかかる猟犬のように黒いPMTFの腹部めかげ食らいつく。


爆発音が凍てつく空気を振動させ次いで爆炎が辺りの雪を焼き溶かしていく。


『こちらアース。標的の撃破を確認。オーバー』


『こちらマーキュリー。了解。撤退作業を開始する。オーバー』

そう言い切ったマーキュリー隊は手早く撤退作業を済ませて白銀の大地に足跡を刻みつけながら合流ポイントへと歩みを向ける。

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