EP14 闇をも切り裂く流星群
「チッ!最悪だ!」
舌打ちを零しながらスロットルを押し上げさらに機体をさらに加速させ掩蔽壕から飛び出る。
ピーピーピーっと煩わしく泣き叫ぶ警告表示を一瞥しトリガーを握り、EFEG機関を始動させる。
「はぁあ。はぁあ。ガッハあッぁはあぁ」
呼吸が苦しくなり、視界が狭まる。激しい頭痛が頭を打ち鳴らし、耳鳴りが酷い。意識が何処かへ引き込まれるそうになる。
下唇を噛み締めて途切れそうになる意識を何とかつなぎ止め機体を判定させ掩蔽壕の入り口の上に照準を定めトリガーを引く。
頭部チェーンガンが残っている残弾を不安定なコンクリートへ叩きつけいとも容易く強化コンクリートへ亀裂を刻み込み上の積載物の重量を利用し掩蔽壕の天井を崩落させる。
「はぁああ。はぁああ。はぁああ」
いくら吸っても全然楽にならない。激しく痙攣する手で何とか薬箱を掴み上げた刹那、機体が激しく振動する。
瞬時に安全ベルトが体を痛いほど締めあげて、展開されたエアバッグがただでさえ狭まっている視界を埋め尽くす。
反射的にスティックを手前に引き何とか機体を立て直す。
「はぁああ。はぁああ。ば、ばかな」
随分と長い時間を過ごしていたのだろうか。外は既に夜の帳が降りて空には満点の星空が輝いている。いや違う。雲がある。そう大きな黒い雲が。満点の星空を青白く冷たい光を放つ月光を覆い隠す暗黒の雲。ただよく目を凝らせばその中に赤い光点が夜空に浮かぶ星々のように光を放ち輝いている。
〈クワイン・ニヒル〉そう呼ばれる〈ニヒル・ノート〉が生み出したタコのような見た目の兵器であり航空機優勢の時代に終止符を打ち付けた悪魔の兵器。
1固体の性能はPMTFには遠く及ばないものの数が揃えば話しは変わってくる。
圧倒的な物量で奴らに飲み込まれたPMTFなどほんの数秒でバラバラにさせれる。
それが今。目の前にいる。いったい何処から出てきたんだと、思考を放棄したくなるほどの量で、眼前で雲を形成している。
咄嗟にサブモニターの表示を切り替え武装を確認にする。
射撃可能兵装:None
使用可能兵装:None
全兵装合計残弾:0
「ぁはあ。ぁはぁ。こ、いよ。たたき落とし。て。ぁはあぁ。やるよ」
その声に答えるように〈クワイン・ニヒル〉の群れが一斉に動き始め、〈ゲーゲン・アングリフ〉めがけ一直線に突撃する。
傷だらけのトリガーを掴みロックを外し、「EL」から「HL」へ一気に押し上げる。
刹那、〈ゲーゲン・アングリフ〉の背面から伸びている一対の超電導コイルが甲高い悲鳴を上げながら青白く白光し機体の外周へ強力な磁場フィールドを形成すす。
あの時と同じだ。あの時、夢の中で見たあの頃の同じ光景を目にし不思議と心が高揚した。
迫り来る
ようやく〈クワイン・ニヒル〉の群れを抜け出し再突撃を受ける前にこの場から離脱しようとスラスタ―を噴かす〈ゲーゲン・アングリフ〉の一対の超伝導コイルめがけはるか遠方から射撃された黒いニードルが音速おも超える速度で磁場フィールドを貫通し超伝導コイルをズタズタに引き裂く。
羽をもがれた〈ゲーゲン・アングリフ〉は何とか空中で体勢を立て直して逆噴射し、何とか速度を殺しながら重力に引かれ落下していく。
磁場フィールドを失った〈ゲーゲン・アングリフ〉めがけ反転した〈クワイン・ニヒル〉の群れの1匹が再び突っ込んでくる。
弾薬も武器もなく、けれども〈ゲーゲン・アングリフ〉の戦闘システムは接近してくる〈クワイン・ニヒル〉を絶えずロックオンし続け、その速度に合わせて拳を振り抜く。
放った拳を悠々と回避した〈クワイン・ニヒル〉はお返しとばかりに金属触手を突き出して〈ゲーゲン・アングリフ〉の胸部装甲板を切り裂いき、その亀裂に取り付き銃弾を打ち込まれて破損したセンサー群で機体内部、その中心部であるコクピット内部を覗き込む。
「邪魔だ!」
胸部に貼り付いた〈クワイン・ニヒル〉を引き剥がし投げ捨て脚部で踏みつけ押しつぶす。
「そろそろ、潮時か」
モニターの破片が大量に刺さり動かなくなった左腕を見つめながらそう呟く。
頭が割れるような激しい頭痛に多少楽になったが喉を締め付けられるような息苦しさ、そして全身の痙攣と狭まる視界。どうやっても勝てるビジョンが見えて来ないこの状況に自然と口元がつり上がってしまう。
ふと少女のことが気になってチラリと見ると膝掛けにくるまって、小さくうずくまている。
なんだか小動物みたいで可愛いな~~っとそんなどうでもいい考えが真っ先に浮かぶあたりどうやら頭まで壊れてしまったようだ。
そんな少女を一瞥し、覚悟を決めて正面に向き直り痙攣する右手でスティックを握り正面に展開する〈クワイン・ニヒル〉の群れを睨みつける。
「か。って、こいよ」
最後の悪あがきとばかりに言い放った言葉を、まるでその言葉を待ってましたと言わんばかりに〈クワイン・ニヒル〉の群れは一斉に動き〈ゲーゲン・アングリフ〉めがけ突撃してくる。
もうなすすべはない。もはや左腕の感覚が完全になく、右腕でさえ痙攣が酷くまともにスティックが握れない。
今にもこと切れそうな意識を最後の力を振り絞って繋ぎ留め、せめてこの少女だけでも、と身を投げ出して少女に覆い被さると同時に意識が闇の奥底へと吸い込まれていく。
その刹那、雷鳴のような破裂音が辺りに響き夜の帳を明るい閃光が打ち晴らす。
何処からともなく撃ち込まれた砲弾に密集陣形を解いた〈クワイン・ニヒル〉どもが散り散りに散開し脅威判定を更新させ空中から攻撃してきた新手との交戦を始める。
〈ゲーゲン・アングリフ〉の引き裂かれたコクピットの隙間から少女は空を見上げる。
夜空を覆い尽く黒くそして大きな影を青い光をたなびかせた流星が切り裂いていくその光景を。少女は確かにその薄い灰色の瞳で見つめていた。
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