EP13 タコの巣穴

怒号が空気が打ち鳴らし、少女が延ばしていた手を素早くひっこめ身動き一つせずに固まってしまう。

『レプトン・ブルーム』

それは一見すると紺青色の花弁を持つ非常に優雅な花だが、その花弁には強い幻覚作用をもたらす劇毒物を絶えず分泌している。

レプトンへと手を伸ばした少女の手を掴み上げその劇花から引き離し腰を折って長く伸びきった前髪の隙間から覗く少女の底知れない暗闇で塗りつぶされた瞳を覗きこく。


「その花には毒がある。だから触るな。分かったか?」


そう言いつけて立ち上がり、再び少女の手を握って機体へ燃料を供給する何かしら別の方法の手がかりを探すべく室内をある練り歩く。


かなりの激戦だったのだろうか、部屋の至るところには錆びて赤茶けた色に変色した空薬莢が大量に散らばっており、部屋の隅では壁を背にし綺麗に一列に並んだ人骨達が懐に型落ちの銃を抱えを死んでいる。

まるで高熱のレザーに内側から吹き飛ばされたようにドロドロに溶解し固まった隔壁板の隙間から隣の部屋へ移動しフラッシュライトを点灯し明かりを確保する。

かび臭い悪臭が立ち込め、肌寒く湿った空気が肌を撫でる。


「此処が最終防衛地点だったのか」


壁の至るところに刻まれた弾痕が、襲い来る『何かから』正面の扉を守るべく構築されたバリケードが、辺りに散らばっている変色した大量の空薬莢が、そして床1面に散らばっているおそろいの軍服を身に纏い白骨化した骨の山が、かつての激戦を物語っている。


こんな悲惨な光景を幼い子供に見せるべきではないな。と部屋に入ろうとする少女を静止して部屋の奥へと歩みを進める。


いったい何をそんなに守ろうとしていたんだ?


銃を抱えて床に倒れている白骨死体たちの生きていた頃の行動を予想しながら、その背後で守ろうとしていた物へとフラッシュライトを向け照らす出す。


「!!」


咄嗟に銃を構えグリップのセレクターを親指の腹で弾きトリガーに指を掛ける。

思わず手放したフラッシュライト音を立てて地面を転がっていく。


セーフティを解除した事で銃に内臓されているレザーポインターの真紅の光線が照射され照準の先にある濁った銀色の装甲板を照らし出す。


タコもどきだ。


心臓の鼓動が煩いほど鳴り響き自身の呼吸音でさえ異常に大きく聞こえ、思考が引き伸ばされる。

地面に激突したフラッシュライトが地面に弾かれその白光が宙を舞い照準の先で身動き一つせず、沈黙を貫いている『タコもどき(クワイン・ニヒル)』を照らし出す。


部屋の四方へと伸ばされたさながら金属触手とでも言うべきか、計6本の蛇の体を連想させせる鋼鉄製の触手によってそのタコのような不気味な胴体を宙へとつり上げ真下のメインコンソールへと半透明の糸を垂らしている。


突如、低い騒音が室内に響き渡る。


まさか。。。再起動したのか!


〈クワイン・ニヒル〉のメインカメラ群が一斉に真紅の光をその奥に宿しか、四方へ伸びていた6本の金属触手が降り積もった埃を払い落としながら動き出す。

刹那、限界に達した緊張のバネが弾け飛びトリガーを引き射撃する。それと同時に四方の壁や天井に突き立てられていた金属触手が〈クワイン・ニヒル〉本体の前に滑り込み撃ち出した銃弾を防ぎ、跳弾させる。


跳ね返った銃弾が足元をかすめ、はっと我に返る。


拡張マガジン内部に込められた弾丸をものの数秒で撃ち尽くしスライドが後退する。

足元に転がっている手榴弾を拾い上げ、安全ピンを引き抜いて〈クワイン・ニヒル〉の展開している金属触手の下に滑り込こませ、身を翻し融解したドアから外へ飛び出る。


「逃げるぞ!走れ、走れ!」

部屋の外で待っている少女を追い立てて、拡張マガジンをリリース、ストックの下に接続されているマガジンを引き抜きグリップの下に押し入れて後退したスライドを引き、初弾を薬室へ送り込む。


ビューっと風を切る音が響き咄嗟にその場に身を投げ出す。

「あっぶね~~」

間一髪だった。あと少しでも判断が遅れていたら金属触手に首を切り飛ばされていた。


「クソが!不発か!」

長いこと湿気に曝されていたせいか、手榴弾内部の火薬が湿気ていて何時まで立っても炸裂しない。

頭上に伸びている金属触手に触れないように急いで立ち上がり、先に逃がした少女の後を追いかけて、元来た道を全力で駆け抜け。


「もっと速く走れ!死にたいのか?!」


そう怒鳴りつけるた少女は背中を跳ねさせ先ほどよりも少し速い程度の速度で走っていく。

それにしても---遅い。遅すぎる。

それに走り方も異常だ、両足を庇い引きずるいうな何処か歪な走り方だ。

刹那、少女がその場で崩れ落ちしゃがみ込み。


「どうした。しっかり立て!」

少女の手を掴み引き上げるも足に力が入らないのか全く立ち上がらない。


「ガッハぁあ。ハァアァ。ハァアァ。」

刹那、粗い呼吸を繰り返していた少女が口から血を吐き出して震えはじめ、顔を真っ青に染めていく。


「おい!しっかりしろ!ックソが!」


破裂音が通路に響き、壁をぶち抜き〈クワイン・ニヒル〉がぬぅうとその濁った銀色の装甲を輝かせながら通路内部に入り込んでくる。

蜘蛛の顔を連想させるセンサー群が一斉に動き始め周囲の状況をスキャニングする。


「おい、私の背中に掴まれ。背負ってやる」

眼前の〈タコもどきクワイン・ニヒル〉を睨みつけながらゆっくりと腰を屈めて少女に背中を差し出して引き金に指を掛ける。


銃口の照準を指し示す赤い光線が通路に広がる闇の帳を切り裂いて〈クワイン・ニヒル〉の装甲に照射される。

少女の細い腕が自身の首に絡みつけられ背中に少女の体重が乗せられる。


ビブーーー


ノイズの酷い電子音を放った〈クワイン・ニヒル〉のセンサー群が一斉にこちらを凝視し金属触手のバネを溜め始める。

悪寒が体中を駆け巡り思わず怯みそうになるのを何とか抑え込み、震える指を引き金に乗せる。


プルーーー


甲高い電子音が響くのとほぼ同時に引き金を引く。

撃ち出した銃弾が〈クワイン・ニヒル〉のセンサー群に直撃し粉砕する。


風を切る鋭い音が響くのとほぼ同時に右頬を金属触手がかすめて奥の壁に突き刺さる。


左手で少女のお尻を支えながら素早く立ち上がり<ゲーゲン・アングリフ> の元へと駆け出し迫り来る金属触手の風切り音だけを頼りに右へ左へとジクグザクに通路を走り抜ける。


タコもどきクワイン・ニヒル〉が通路の内壁をこすり付けギシギシと異音を奏でながら、金属触手を巧みに動かし、まるで地を這う蜘蛛のような動きで迫ってくる。


何とか通路を抜け出して、せり出している<ゲーゲン・アングリフ>のコクピット内部に少女の体を押し込んで、起動スイッチを入れて入り口付近を警戒する。

不気味な沈黙が辺りに漂い、嫌な汗が背中をじっとりと湿らせる。


ガラッ。


何かが崩れる音が聞こえ、咄嗟にその音源の方向へ銃口を向ける。

なにもない。ネズミか?いや違う。此処はあの青花(レプトン・ブルーム)に囲まれて生物が容易に侵入できる場所じゃない。。。。まさか!


最悪な可能性が脳裏よぎり、急いで〈ゲーゲン・アングリフ〉の背後に回り込み給油口を外して再びコクピットまで戻る。


ガラガラガラガラ


先ほどよりもあきらかに大きく響いた崩落音が格納庫内部に響き渡り天井からパラパラと白い粉が降ってくる。


まずいな。最早奴らが此処にたどり着くのも時間の問題だろ。


銃を格納し元の位置に押し込んでコクピットに飛び乗り、上部ハッチを閉鎖してコクピットを機体へ収納する。メインモニターが一斉に点灯し次いでサブモニターも点灯する。

素早くベルトで少女の体を自身の体と伴にシートに固定しサブモニターの表示を切り替えレーダーを一瞥。


格納庫の内壁にレーダー波が反射しノイズ酷いがそれでも確かにレーダーには赤い光点が複数個、映し出されている。素早く〈ゲーゲン・アングリフ〉を立ち上がらせフットペダルを踏み込んで機体を加速させる。


刹那〈ゲーゲン・アングリフ〉の後方、つい先ほどまで駐機されていた格納庫の内壁に亀裂が走り外側から吹き飛ばされ大量の〈クワイン・ニヒル〉が格納庫内部に流れ込んでくる。


不気味な音を奏でながら青白い光を輝かせながら地面を滑る〈ゲーゲン・アングリフ〉を背後から追撃する。

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