EP7 黒いPMTF

「おはようございま。。。ギャーーー」


とても高齢の老婦人が上げるとは思えないほど高い悲鳴に叩き起こされ、咄嗟にスチームルガーに手をかけ安楽椅子から跳ね起きる。


「どうしました!」


「シーナちゃん?し、死体が」


昨夜死体を投げ捨てた裏庭の方を指差して、顔を青ざめさせたマーさんが震えながらそう言ってくる。


「昨夜襲ってきた強盗です。ちょうど良かった、憲兵隊に連絡をお願いします」


「あ、あなたはどうするですか?」


震えた声でそう聞いてくるマーサさんを横目でチラリと一別し昨夜、襲撃をかけてきた兵士が持っていたアサルトライフルを拾い上げ、マガジンを確認しチャンバーをしっかり押さえ裏庭へ向かう。


「少し周囲を見てきますね」


心配そうな顔を浮かべたマーサさんをよそに裏庭へ出て、昨夜取り逃がした生き残り2名の足取りを追うべく森の奥へと点々と続く血痕を追いかけようとしたその時、2台の車が独特なエンジン音を奏でながらコテージの前で停止する。


随分と早い到着に違和感抱き万が一のことを警戒してアサルトライフルのセーフティを外し、降りてきた戦闘員に交戦の意思がないことを示しながら、車から降りてきた姿に腕章をつけサングラスをかけた兵士の元へ歩いていく。


「それにしても貴方も災難でしたね」


サングラスを外しなが男がそう言ってくる。


「貴方は?」


「私はローエン・ハイマー。この地区一帯の憲兵隊の調査員をしておしております」


ローエンと名乗る眼前の男はどこかつかみ所のない笑みを浮かべながら憲兵証を見せてくる。


「それで?今回の事件に犯人はどちらに?」


「5人中三人は私が殺した。残りは逃げたよ。ただ一人は致命傷だ。あの血痕を追えばたどり着くだろうな」


そう言って昨日仕留め損ねた奴らが残していった森へと続く痕跡を指し示しながらローエンの瞳を睨みつける。


「なるほど。その死体はどちらに?」


「裏庭にある。この建物の左側だ」


そう言うとローエンは部下に建物の左側に回り込むように指示をだす。


「分かりました。貴方の他にもう二人ほど被害に遭われた方がいらっしゃると。その方たちからも事件の話しをお伺いしたいのですがどちらに居られますかね?」


その男の言葉に先ほどまで抱いていた疑念が確信へと変わる。

こ家に私以外に二人いることを知っているのはレゲン先生以外にマーサさんだけだが、二人ともこの事については他言しないはず。ならば、目の前で笑みを浮かべているこいつは・・・・・・・


「二人とも談話室にいる。今案内するよ。ところで1つ聞いても良いかな?」

腰に下げたホルスターのロックを外しスチームルガーに手を掛ける。


「ええ。どうぞ?」


ローエンは再びつかみ所の一切ない笑みを浮かべそう答えてくる。


「教えてほしんだが。いつから憲兵隊の制服の色は群青色から錆び鉄色に変わったんだ?」


「ッ!」


スチームルガーを抜き放て、目の前の自称憲兵隊を名乗るローエンの眉間めがけ銃口を合わせる。


「チッ!」


思わず舌打ちを零し、咄嗟に目を腕で覆い隠し投擲されたフラッシュバンの放つ強力な閃光から目を守る。


激しい閃光に網膜を焼かれながらもかんだけを頼りにスチームルガーの引き金を何度も引き射撃する。


「奴はどこだ!?」


閃光が収まりようやく辺りが見渡せるようになるがそこの男の姿はなくジープも無くなっていた。


「止めなさい!何をするの!シーナちゃん!」


「!マーサさん!」


マーサさんの悲鳴が開け放たれたドアの奥から響き渡り、次いで銃声が聞こえてくる。


銃声に弾かれるように駆け出し、スチームルガーをホルスターに叩き入れ肩に担いだアサルトライフルに持ち替え、セレクターをフルオートに切り替えて談話室のドアをけり飛ばし、室内に踏み込む。


ダンダンダンダンダン


アサルトライフルの銃口が閃光を放ち重たい銃声が談話室の空気を揺らしアサルトライフルから撃ち出されたライフル弾の嵐が目に付く兵士たちを片っ端から引き裂き射殺する。


「大丈夫ですか!マーサさんッ!奥の部屋か!」


銃弾が切れたアサルトライフルを投げ捨て、ホルスターに叩き入れたスチームルガーを引き抜き談話室の奥にあるドアを蹴り開け廊下を駆け抜ける。


残弾1発。やれるな。


横目でスチームルガーのシリンダー内の残弾を一別し、少女が眠っている部屋にたどり着く。


マーサさんへの誤射を警戒して自身の身長より頭二つ分背の高い兵士の背中へ飛び掛かり、首に腕を回し締め上げアキレス腱をスチームルガーで撃ち抜き態勢を強引に崩し地面に叩きつける。


「答えろ、何が目的だ?誰に雇われてここに来た!」


アキレス腱を打ち抜いた兵士の胸元を掴み上げそう問い掛けるもすぐに息絶え絶命してしまった。


「クソが!」


そう吐き捨て、引き起こした体を投げ捨てる。


「マーサさん!立てますか?ひとまず憲兵隊にれんrッ!なっ!」


柄にもなく驚きのあまり思わず口から声が出た。

それは別に、マーサさんが何かを抱えるように地面に座っており、その腕の隙間から怯えての色をはらんだ澱んだ薄灰色の瞳がこちらを見つめているからではない。


あの川辺で拾った奴隷の少女が目を覚ましたからでもない。


あの瞳、そう薄灰色の瞳だ。間違いない、妹の瞳の色と同じ。薄灰色。


ようやく目が覚めた少女を守るように抱きかかえたマーサさんが震えなが小さくて首を縦に振るが、感極まった私の心はそんなことどうでもいいと叫んでくる。


「まさか?リアnぁががががぁぁぁああああああ!」

激痛が頭の中を駆け回り、視界が白一色に塗りつぶされる。


”キーン”と言う耳鳴りが激しく脳を揺らし思わずフラつき、地面に膝を着いて倒れ込む。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


呼吸が激しく乱れ、嫌な汗が全身から吹き出し握っていたスチームルガーが手から滑り落ちて”ゴトン”と重い音をたてて地面に激突する。


「くすり!薬!」


焦りをにじませた声を上げながらマーサさんはベルトに付いているポーチから薬箱を取り出して飲ませてくれる。


「はぁあ。はぁあ。はぁあ」


深く息を吐き出して呼吸を整え、煩わしいほど大音量でバクバクと胸打つ心臓を黙られせる。


この症状は間違いない。あの川辺で経験した、あの時から嫌と言うほど何度も体験している「電磁場負荷症候群」で、これがこのタイミングで発作が起こると言うことは間違いなく!が来る!


そばに置かれたベットの淵に手を置いて何とか立ち上がり、窓を閉ざしているカーテンを少し開き、まるで夜空に輝く流星のように明るい空に淡い光を放ちながら高速で近づいてくる2機の黒い点、数日前の川辺で見つけたPMTFを睨み付ける。


「奴らの増援が来ました。良いですかマーサさん!外には出ず、机の下に隠れていなさい」


そう言って談話室から飛び出して、作業小屋へ駆け込む。


地下室への入り口を塞いでいる木箱を切り飛ばして梯子を滑り降り、埃まみれのPMTFを囲む簡易タラップを駆け上がり、数日前となんら変わりない姿で駐機している愛機の狭苦しいコクピットへと体を滑り込ませる。

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