二十二日目 オーナメント

 家から小学校までの通り道に、魔女の家がある。

 庭はいつだって綺麗で、いろんな花が咲いていて良い匂いがしていた。それだけじゃない。白いフェンスには季節に合わせたオーナメントだって飾られていた。

 今はもうじきクリスマスだから、クリスマスらしいリボン付きの鈴だとか、ぴかぴか光る球の飾りだとか、きらきらとした星だとかがフェンスに並んでいた。

 そこで暮らしているのは、白髪頭のおばあさん。それが魔女だ。一人暮らしで、どうやら使い魔の黒い猫を飼っているらしい。

 学校では、そう言われていた。

 言われてみれば、こじんまりした家も、花でいっぱいの庭も、そこでひとり暮らすおばあさんというのも、なんとも魔女っぽい。

 それにそのおばあさんは、目つきが鋭くてシワだらけで、骨ばった感じで、いかにも絵本に出てくる意地悪な魔女みたいな見た目だったのだ。

 お菓子でも作っているのか、ときどき甘い良い匂いもしていた。それはきっとそうやって子供をおびき寄せるためだ。そうやって魔女のお菓子を食べると、子供たちは魔女によってオーナメントにされて庭に飾られてしまうのだ。

 魔女の家のオーナメントは、元はみんな子供たち。だから夜中に魔女の家の前を通ると、オーナメントになってしまった子供たちの泣き声が聞こえる。

 そんな噂だった。

 そして、そんな噂があってもなお、その家の庭はとても綺麗に飾られていて魅力的だった。

 だからわたしは学校からの帰り道に、その家の前で足を止めるとフェンスに飾られたオーナメントを眺める。白いフェンスの向こうには木立があって庭の様子はよく見えない。けれど、ちらりと覗く限りはやっぱり綺麗だった。冬でもいろんな花が咲くのだな、とわたしはその庭を見て気づいた。

 その日もそうやって、少しだけ見える庭とフェンスに飾られたオーナメントを眺めていた。もうすぐクリスマス、そして冬休みだった。吐く息はすっかり白い。顔が冷たくて、手袋した手を口元に持ってゆく。毛糸がほっぺたに当たってむずむずする。

「おや」

 声が聞こえて、わたしはびくりと振り返った。玄関先に、魔女のおばあさんが立っていた。魔女のおばあさんは何か言いかけたけど、わたしは慌ててお辞儀をして走り去っていった。

 魔女の家だなんて、信じてはいなかった。オーナメントにされるなんて、思ってもいなかった。でも、やっぱりあまりにもそれらしくて、それに人の家を眺めていることで何を言われるかもわからなくて、怖くなってしまったのだ。

 それでも次の日には、学校の帰り道でわたしはまた魔女の家の前で足を止めて庭を見ていた。飾られたオーナメントは寒空の下ぴかぴかと輝いていて、やっぱり綺麗だな、と思った。

 そうしてぼんやりしていたら、突然肩を叩かれた。飛び上がるほど驚いて振り向くと、すぐ目の前に魔女のおばあさんが立っていた。

 それがあまりに目の前で、昨日のように逃げ出せなくて、わたしは目を見開いたまま魔女のおばあさんを見上げていた。

「あなた、いつも見てるだろ。こういうの好きかい?」

 最初、何を聞かれているのかわからなくて、わたしはただ瞬きをしていた。わたしが何も答えないからか、魔女のおばあさんは少しゆっくりと言い直した。

「こういう飾り、好きなら余ってるのがあるから、あげようかと思うんだけど、どうだい?」

「え、でも……」

 知らない人に物をもらっても良いのだろうか。それにこの飾りは──まさか元が子供だとは思ってないけど、もしかして高価なものじゃないんだろうか。

 そう思ったのだけど、なんて答えたら良いかわからなくて、もごもごと口を動かして、でも何も言葉が出てこなかった。

「どうせ百均で買ったものだし、余ってても仕方ないから。使ってもらえるならと思ったんだけど」

「百均」

 魔女のおばあさんでも百均で買い物するんだ、と思って、それがなんだかおかしかった。なんだ、百均の飾りだったんだ。

「ほら、これ。持ってって」

 おばあさんは、わたしの手にビニール袋を押し付けた。中にはキラキラとしたクリスマスらしいオーナメントが三つ四つ入っているみたいだった。

「いつも見てくれてるだろ。わたしも張り合いがあって嬉しいんだよ。ありがとうね」

 魔女のおばあさんはそれだけ言って引っ込んでしまった。

 それで仕方なく、わたしはそのオーナメントを家に持ち帰った。もらったなんて言ったら怒られそうな気がして、お母さんにもお父さんにも黙っていた。

 だけどどうしてもなんとかしたくって、こっそりと自分の部屋の壁に飾ってみた。赤、緑、金、クリスマスカラーの星。部屋がまるでクリスマスみたいに、きらきらと輝く。なんだかそれは魔法みたいだった。

 それはもちろん、魔法なんかじゃないってわかってる。

 魔女のおばあさんからもらったオーナメントは、確かに百均の値札がついていたし、夜に鳴き声がするようなこともなかったし。

 でも、たったこれだけのことで部屋の雰囲気が変わってしまうなんて、やっぱりなんだか魔法みたいだって思ったのだ。

 だからもしかしたら、あのおばあさんは本当に魔女なのかもしれない、と思った。




   * * *


 二十二日目お題「オーナメント」


 磨糠 羽丹王さんからいただきました!

 https://kakuyomu.jp/users/manukahanio

 https://twitter.com/wanwan33wanwan


 ありがとうございます!

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