二十一日目 ソリ遊び

 黒い夜空に冷たい風が吹きました。それは暗い天の川の向こうから、たくさんの星屑を飛ばしながら吹いてくるのでした。

 ですから、双子のカストルとポルックス、二人の子供たちが目を覚ましたときには、夜空は星屑たちで一面の雪景色になっていました。

 普通の雪ではありません。星屑の雪ですから、それは色とりどりに、きらきらと夜空一面に星屑が積もっている様子は、なんて綺麗でしょうか。

 それは雪の日の曇り空の向こうに広がる景色なので、人間たちからは見えないものでした。星たちの、特別な景色なのです。

 カストルとポルックスは、まずは甘い星の林檎を食べて、ご飯を済ませました。

 それからセーターを来て、暖かなズボンを履いて、コートを着た上でマフラーを首にぐるぐると巻きました。足には立派なブーツ。手には柔らかな手袋。頭にはふわふわの耳当てと毛糸の帽子。雪遊びの支度がすっかり整ったのでした。

 二人はころころと外へ出ました。そして歓声をあげながら、雪の中を走り回りました。

 きらきらと輝く星屑の雪を撒き散らしながら走り回るカストルとポルックス。その光景はどれだけ綺麗なことでしょう。

 二人はそうやって星屑の雪がきらきらと舞う中、しばらく走り回っていましたが、やがて疲れたために雪の上にばたりと寝転びました。冷たく輝く星屑の雪でしたが、二人は走り回っていましたし、しっかりとした雪遊びの支度をしていましたから、体がぽっぽと熱いほどでした。

「ああ、愉快だねえ」

 双子のどちらかが言いますと、もう一人が答えます。

「とても愉快だ」

 やがて息が整うと、また双子のどちらかが言いました。

「自分たちで走るのも景色がぐるぐると回って綺麗だけど、もっと速く走れないかしら」

 それに答えて、もう片方が言いました。

「じゃあ、ソリを作って走ろうか。ソリなら僕たちの足よりもずっと速く走ることができるよ」

「それは良い。早速ソリを用意しよう」

「用意しよう」

 そうして二人はソリの用意を始めました。

 二人の子供はそれぞれ、空のちょうど良いところから、星のかけらを取ってきて、それを繋げました。そうすると、それは二人にぴったりの大きさの、ぴかぴかのソリに変わりました。

 二人は早速ソリに乗り込みました。

 そうして二人で空に声をかけます。

「プロキオン」

「プロキオン」

「僕らソリを作ったんだ」

「すこうし手伝って欲しいんだ」

 そうしますと、空に輝いていたプロキオンの星は、二人のところに降りてきて、可愛らしい子犬の姿になりました。

 子犬と言ってもさすがは星です。プロキオンは二人が乗るソリを引っ張って走りました。二人は歓声をあげました。

 ソリは勢いよく走ります。星屑の雪を巻き上げて、きらきら、きらきらと、その走る姿が夜の空に光の線を描きます。

「シリウス」

「シリウス」

「僕たちちょっと行ってくるよ」

「ベテルギウスを通って」

「カペラの向こう」

「天の川の先まで」

「いってきます」

「いってきます」

 シリウスは夜空の中でいっとう冷たく青白く輝いていましたが、双子たちに答えて、双子とそしてソリを引くプロキオンを優しく見送りました。

 天の川も冬の寒さですっかり凍っていました。ソリはその凍った天の川の上を走ります。

 ああ、なんていうスピードでしょう。

 ソリは赤く輝くベテルギウスのすれすれを通りました。双子たちはベテルギウスに手を振りました。ベテルギウスはその赤い炎をますます赤くして、二人に答えました。

 ベテルギウスの赤い炎は、冷たい冬の風の中でも、二人を暖かく照らしました。

 そこを通り過ぎると、今度は柔らかな黄色のカペラが見えてきます。

「おうい」

「おうい」

 二人が手を振りますと、カペラもぼうっと明るくなって答えました。

 プロキオンはぐんぐんとスピードをあげて、天の川を辿ってゆき、とうとうカペラを通り過ぎました。

 二人はそこでソリを止めると、辺りを見回しました。あたりには赤くルビーのように輝く星の冬苺がありました。二人は星の冬苺を摘んで食べました。真っ赤な冬苺は口の中で星が輝くように甘酸っぱい味でした。

「おいしいね」

「うん、おいしいね」

 二人はしばらく星の冬苺を摘むのに夢中になっていました。そうしてしばらくしていますと、立派な雪遊びの支度をしていた二人も、少しだけ寒くなってきました。

「戻ろうか」

「そろそろ戻ろう」

 そうして二人でまたソリに乗って、プロキオンに引っ張ってもらって、戻ってゆきました。

 カペラ、ベテルギウス、そしてシリウス。プロキオンももとの場所に収まって、双子たちも自分たちの家に帰って、夜空はすっかり元通り。


 わたしたちは人間ですから、雲の厚い雪の日の、双子のソリ遊びを見ることはできません。もし見ることができたら、どんなにか綺麗だろうと思います。




   * * *


 二十一日目お題「ソリ遊び」


 園田樹乃さんからいただきました!

 https://kakuyomu.jp/users/OrionCage

 https://twitter.com/OrionCage


 ありがとうございます!

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