十六日目 イルミネーション
その小さな町では、クリスマスが近づくと毎年町の真ん中の公園をイルミネーションで飾ります。小さな町ではありますが、そのイルミネーションは特別に綺麗で、隣の大きな街からも見物のお客さんが見にくるほどでした。
公園に入ると、まずは木々が色とりどりの光をいっぱいに実らせています。冬の寒い時期、そのカラフルな色合いは、見にきた人たちの心を暖かくさせます。
それから公園の道は光の通路になっています。柔らかなオレンジ色の光が、中央にある時計噴水までの道を案内します。
そして時計噴水はいっとう見事でした。小さな光をまとわせた時計は自慢げに時を刻んでいます。その時計の下では、可愛らしい鳥たちが翼を広げて時計を支えています。そしてそのさらに下は噴水になっていて、重なったお皿の間から、水が流れ落ちているのでした。
イルミネーションは噴水の中にも飾られていて、揺れる水面越しの光はとても幻想的な光景を作り出していました。
そしてもっと素晴らしいことには、時計噴水の時計の長い針が真上を刺すと、イルミネーションがまるで息をするように瞬くのです。
その瞬きののち、色とりどりだったイルミネーションは白一色に変わります。公園中が白く輝くその光景は、まるで雪景色のよう。その場にいる誰もが、うっとりと溜息をこぼします。
それからしばらくすると、白い色は雪が溶けるようにすうっと消えてゆき、真っ暗になったかと思うと、また元通り、色とりどりのカラフルなイルミネーションに戻るのです。
イルミネーションを見にきた誰もが、素晴らしいと言って帰る、そのイルミネーションには実は秘密がありました。
それは、冬の曇り空に退屈した光の妖精が、お手伝いしていることでした。
雪景色のような白一色の光景は、実は光の妖精のイタズラから始まったことだったのです。
それは何年か前のことでした。その頃、この町のイルミネーションはまだ有名ではありませんでした。みんなで協力して公園を飾ってはいましたが、あくまで町の人たちのため。自分たちを楽しくするためでした。
それでもイルミネーションの光はきらきらと、町の人たちを楽しませてはいました。
そんなある日、光の妖精がそのイルミネーションを見つけたのです。この辺りでは冬は曇り空が多くて、なかなか明るくできずに光の妖精は退屈していました。
人間たちは寒くて暗い冬に部屋を明るく暖かくしています。その光を操って遊んでいたのですが、それにも飽きてしまったのです。
イルミネーションを見つけたのはちょうどそんなときで、妖精はたくさんの小さな光と遊ぶのにすっかり夢中になりました。
色を勝手に変えたり、光を虫の姿に変えて宙に遊ばせたり、そんなことをしていました。その姿を一人の男の子が見ていたのです。
男の子は光の妖精を驚かせないように、こっそりと見ていました。けれど、一本の木にあったイルミネーションの光をいっぺんに星のように瞬かせたとき、男の子は思わず声をあげてしまいました。
光の妖精は最初こそびっくりしましたが、すぐに男の子と仲良くなりました。男の子は光の妖精が光を操ると、声をあげて喜びました。光の妖精はそれが嬉しくて楽しくて、次々にイルミネーションの光を操って、変化させて、遊びました。
イルミネーションを白一色にするというのは男の子のアイデアでした。まるで雪景色みたいだ、と。
そうすると、今度は町の人たちの噂にまでなりました。イルミネーションが不思議な光り方をする、と。町の人たちは、大人も子供もイルミネーションを見にくるようになりました。
光の妖精と男の子は顔を見合わせて笑い合いました。
時計の針に合わせて色を変えるのも、男の子のアイデアでした。光の妖精は、自分ひとりじゃ思いつかないアイデアが楽しくて、なんでもやってみました。
そうしているうちに、イルミネーションは立派になり、たくさんの人が見にくるようになったのです。
当時の男の子は今では立派な男の人になって、小さな女の子を連れてイルミネーションを見にくるようになりました。立派な大人の男の人になったから、もう光の妖精のことは見えないようです。お話もできません。
でも光の妖精は、男の子のアイデアで今年も遊んでいます。
白い雪のような光は、消える前にまるで空に降ってゆくみたいに高く登ってゆきました。一瞬だけ暗くなった後、またカラフルなイルミネーションが灯ります。
それを見て、男の人と一緒にやってきた小さな女の子はわあっと声をあげて喜びました。
光の妖精はすっかり、この町のイルミネーションのことが、この町のことが、好きになっていました。
* * *
十六日目お題「イルミネーション」
蜜柑桜さんからいただきました!
https://kakuyomu.jp/users/Mican-Sakura
https://twitter.com/Mican15Sakura
ありがとうございます!
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