十五日目 コイン

 古代魔術文明──その時代に発行されたコイン、それが今日のテーマだ。


 古代魔術文明のコインについて語るなら、何よりもまずその造形の素晴らしさについて触れたい。

 どのコインにも、両面に緻密で繊細な模様が刻まれている。魔術文明の技術力の高さが伺える。

 そしてどの模様も大変興味深い。

 わかりやすいのは、肖像だろうか。時の支配者、治世者の肖像。あるいは、伝説の英雄の姿。女神の姿が刻まれたものもある。

 その正体が知れない肖像ももちろんある。時代としてはコンラスタ時代のものではないかと推察されるが、そのコインに刻まれたのが何者なのかの記述が未だ見つかっていない。その頃の記述は少なく、何かがあったのではないかと想像できるが、それがなんだったのか、コインの肖像が誰なのかは、謎のままだ。

 太陽や星などの天体、あるいは自然をシンボル化したものなども、模様としてはよく見る。それは魔術とも深い関係があるとされている。

 そもそもこれらのコインは貨幣としてだけでなく、魔術的ななんらかに利用されたものである、というのは定説になりつつある。

 その説を裏付けるような記述としては、例えば──

 そう、サシャンタ時代の記録だ。大掛かりな儀式のために、国の銀を集めた、とある。そしてその銀をコインにして各地に届けた。コインを受け取った者は、それを使って「ヤクシューナの儀式」をした、とある。

 ヤクシューナの儀式がどういったものかはまだわかっていない。が、銀のコインを媒介になんらかの魔術を行う儀式だった、と考えられている。ここでのコインの役割は、貨幣ではなく儀式のための道具だ。

 サシャンタ時代になぜこのような大掛かりな儀式が必要になったのか、記述によれば

 ──天ヨリ災キタリテ地ヲ覆ウ

 とある。つまり、なんらかの天災なりがあり、それに対抗するための魔術だったのだろう。同時期に、いくつかの集落が失われた記録もある。深刻な何かがあったのだと考えられる。

 集落が失われたのが儀式の失敗によるものなのか、それとも集落が失われたことにより儀式が行われたのか、それも現時点でははっきりしていない。

 サシャンタ時代の記録は現在進行形で解読中だ。もしかしたら何ヶ月後、あるいは来年にでもこの謎が解ける日が来るかも知れない。

 そうすれば、貨幣としてだけでなく、魔術的な要素としてのコイン、古代魔術文明でのその役割についての研究がもっと進むことだろう。

 魔術的な要素としてのコインを裏付けるような話はまだある。

 先ほども話した女神の肖像が刻まれたコイン。これはクタ・スシュナ時代のものだ。そしてその時代に、女神のコインを使った魔術の記録が残っている。

 クタ・スシュナ時代のコインが当時の治世者ではなく女神をコインの肖像に選んだ理由はここではないか、と考えられている。つまり、魔術の媒介とするためには治世者ではなく女神の肖像が必要であった、ということだ。

 最初から魔術に使うことを想定して、女神の力を魔術に取り込んで使うためのコインが作られた。そう考えられている。

 貨幣としてのコインというのも、考えてみれば魔術的なものかも知れない。

 我々がそこに貨幣としての価値を見出しているのは、「それに価値がある」と信じているからにすぎない。そこに価値があると信じられなくなれば、コインは価値を失ってしまう。ではその価値は、何から生まれるのか? それこそ魔術ではないだろうか。

 そして、人の手から手へ、別の何かと交換されるというのは、一種の儀式でもある。

 我々は貨幣をやり取りしながら、何か大きな儀式の一部になっているのではないだろうか。


 ああ、時間だ。今日の話は以上。では。




   * * *


 十五日目お題「コイン」


 タイダ メルさんからいただきました!

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 ありがとうございます!

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