十四日目 ボードゲーム
幼馴染の彼女はボードゲームが好きだ。
ボードゲーム。ボドゲ。囲碁や将棋やすごろくみたいなもの以外にも、いろんな種類のゲームがあって、毎年すごい数の新作が発売されている。そんなことを僕が知ったのも、彼女を通してのこと。
彼女はいくつかのボードゲームをコレクションしていて、しょっちゅう僕に一緒に遊ぼうって言ってくる。それで僕は彼女に付き合って遊ぶ。
一緒にボードゲームで遊べる友達がいない、らしい。友達がいないわけじゃなく、ボードゲームに誘えないのだそうだ。
興味のない友達相手に、ルールを説明して楽しく遊べる気がしない、と。
それで今のところ、彼女とボードゲームを遊ぶのは幼馴染の僕の特権になっている。
彼女と初めて遊んだゲームは確か、ネズミになってチーズを手に入れながら猫から逃げ回るゲーム。
彼女は新しく買ってもらったそのゲームをとても気に入って、何度も遊びたがった。それに何度も付き合ったのが僕だ。
二人で何度も何度も猫から逃げ回って遊んだ。
そこから彼女はすっかり、ボードゲームが好きになってしまったのだ。
そこからいろんなゲームを遊んだ。
誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントで買ってもらっていた最初の頃は、子供向けのものが多かった。
ルールがわかりやすかったり、派手な仕掛けがあったり、彼女はどれも楽しそうに遊んでいた。
噴火する山の周りで宝石を集めるゲームなんか、あの噴火のギミックが面白くて、二人で何度も何度も遊んだ。
やがて彼女は、自分のお小遣いから気になったボードゲームを買ってくるようになった。
彼女が最初に買ったのは、パッチワークを作るゲーム。彼女はこれを選んだ理由をいろいろ言っていたけど、このゲームが「二人用だったから」なんじゃないかと、僕は勝手に思っている。
つまり、つまりだ。
彼女は僕と二人で遊ぶためのゲームを手に取ったのだ。僕はそれで、ちょっと自惚れた。
そのあとだって、彼女が買うゲームには二人用が多かった。二人でも遊べるというのは必ず。彼女は僕と遊ぶことを前提にボードゲームを選んでいる。
新しく買ってきたのは一人用のゲーム。でも、二人で協力して遊ぶこともできる。
彼女は当たり前のように僕にそれを差し出してくる。僕はいつものように頷いて、彼女と一緒に遊ぶ。
その何時間かは幸せの時間だ。
彼女もそうであって欲しい、と思う。少なくとも、僕と遊ぶボードゲームの時間が、特別なものであって欲しい。
「ボードゲームの集まりがあって、オープン会って言うんだけど、参加したいんだよね。でも、一人だと不安だから、一緒に行ってほしくて」
彼女は僕と二人きりの世界から出て行こうとしている。
それはまあ、ボードゲームだって、三人や四人で遊んだ方が楽しいゲームがいっぱいある。二人だけでは遊べるゲームにも限りがある。
そういう場に行けば、遊んだことがないゲームだって遊べるだろう。
だから、彼女の気持ちはわかる。本当は引き留めたかったけど、二人きりで遊ぶ時間がずっと続けば良いって思ってたけど、そんなことは顔に出さずに、僕は頷いた。
僕を頼ってくれただけで、今のところは満足しておく。でも、本当は満足なんてしていない。本当はいつだって、足りなくて足りなくて仕方がない。
彼女にそういう場ができても、そういう仲間ができても、二人きりで遊ぶ時間を失くしたくはない。だからと言って、彼女を狭い場所に閉じ込めておきたいわけじゃない。
僕はただ、欲しいだけ。彼女の──気持ちが。
どうしたら、なんて答えはもうわかっている。踏み込む決意をして僕は、今日も彼女とボードゲームを遊ぶ。
でもとにかくまずは、このワンゲームが終わってから。
* * *
十四日目お題「ボードゲーム」
テトランパトルさんからいただきました!
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