十二日目 黒猫

 見習い魔女のリリアは、週に一度街に行く。

 今日は小春日和。しばらくの吹雪が嘘みたいに暖かい日だった。

 いつものように薬を配達。マンニ婆さんにはシュトーレンのお礼も伝える。シュトーレンは毎日少しずつ食べている。

 そのあとはいつもなら食料や日用品の買い物をするのだが、今日は少し寄り道をした。箒に乗って街の上からきょろきょろと視線を動かす。

「あ、いた!」

 目的のものを見つけたリリアは箒で降りていって、雪が積もった屋根の上で止まる。そこには黒猫が、冬の暖かい日差しの中まるまって日光浴していた。

「こんにちは、わたしは見習い魔女のリリアです」

 丁寧に挨拶をするリリアに、黒猫は顔をあげた。

「知ってるよ、見習い魔女さん。おれは……名前はいっぱいあるから、好きに呼ぶと良い。なんの用だい?」

 黒猫はゆらりと長い尻尾を揺らした。リリアは黒猫が話を聞いてくれそうなことにほっとした。

「それが、あの、あなたはいろんな噂話に詳しいって聞いて」

「知ってることは知ってるが、知らないことは知らないよ」

「それでも良いんです。あの、これ、秘密にしておいてくださいね」

 黒猫は座り直して、リリアに話を促した。それでリリアも言葉を続ける。

「実は、薬草屋のオークレーにクリスマスのプレゼントをあげようと思うんです。でも、オークレーってわかりにくくて、何をあげたら喜ぶのか、よくわからなくて」

「それで、おれへの相談事は?」

「だからオークレーの好きな物とか、何をあげたら喜ぶかとか、知らないでしょうか?」

 リリアはおずおずと黒猫の顔を覗き込んだ。黒猫はふむ、と前足でひげを撫でる。

「薬草屋の見習いか。確かにあの男のことはあまりわからないな」

「……そうですか」

 あからさまにがっかりした顔をするリリアに向かって、黒猫は前足で屋根の雪を叩いた。

「けれどがっかりすることはない。最近聞いた話が一つある」

 リリアが顔をあげると、黒猫は自慢げな顔で話を続けた。

「オークレーが使っていたカップの取っ手が取れたそうだ。新しいカップを用意すれば良いものを、なぜか取っ手が取れたまま使っているらしい。師匠には『中身がこぼれないなら使うのに支障はない』と話したらしい」

「それはなんというか……オークレーらしい、かも」

「おれが知っているのはこのくらいだ」

 リリアは瞬きをする。

「えっと、つまり……」

「オークレーのカップは取っ手が取れたまま、ということだ。新しいカップを贈るのは悪くないと思うな」

 黒猫の言葉に、リリアはぱっと顔を輝かせた。

「ありがとうございます! 良い話が聞けました!」

「お礼に今度、美味い鳥肉でも持ってきてくれ」

「鳥肉ですね、わかりました。次に来るときに用意してきます」

 話は終わったとばかりに、黒猫はまた丸くなった。

 そうしてリリアは黒猫にもう一度お礼を言って、新しいカップを買いに飛び立った。

(新しいカップで飲めるようにハーブティも作ろう。オークレーはいっつも頑張ってるから、疲れが取れてゆっくりできるような。それも一緒に贈ろう)

 自分の思いつきが名案な気がして、リリアはふふっと笑う。

 箒の上で振り返れば、黒猫はリリアのことなんか知らんぷりで丸まっていた。




   * * *


 十二日目お題「黒猫」


 長月瓦礫さんからいただきました!

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 ありがとうございます!


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