七日目 赤べこ
「これ、お土産。お菓子じゃないのお前だけだから、他のヤツには内緒な?」
他の生徒には見られないように、そんなふうにこっそり渡された包み。そんなの、期待しちゃうの仕方ないと思わない?
それが、ちょっと気になっていた男子からのものならなおさら。特別のお土産を用意してくれるなんてもしかしたら向こうもわたしのこと特別に思ってくれてるのかも、なんて。
他の誰にも見られないように鞄の中にしまい込んで、素知らぬ顔で授業を受けておしゃべりをして。それで、彼と不意に目が合うと、お互いになんだか落ち着かなくてそっと視線を外したりして。
そんな落ち着かない時間を過ごして、家に帰って、鞄から例のお土産を取り出した。
自室の机に向かって、包みを開いてゆく。この大きさ、なんだろう。彼は一体どんなものを選んでくれたんだろうって、もどかしい思いで箱を開けたら、中から出てきたのは赤い牛。
首のところが振り子になっていて、ゆらゆらと揺れている。
いわゆる、赤べこというやつだった。
そこに込められたメッセージを考えて、わたしは悩む。スマホで調べてみたら、魔除けの効果があるとか、子供が病に負けないように贈るとか、そんな話が出てきた。
悪いものではないみたいだけど、でも、なんで赤べこ?
わたしは指先でちょん、とその首をつつく。ゆらゆらと赤い首が頷くように揺れる。
「君はどうして家に来ることになったの?」
呟きながらつつく。首はゆらゆらと揺れる。
「わたしだけ、特別なの?」
赤べこの首はやっぱり揺れて、頷いてくれた。
「どうして赤べこなの?」
返事はない。でも、大丈夫、とでも言うように赤べこの首は揺れる。
もしかしたら彼も……なんて、わたしの期待しすぎなんだろうか。でも、このお土産は他の人には内緒で、だから多分特別なのはそうなんだと思うけど。
正直、どう判断したら良いのかわからない。
本人に聞けば良いのかもしれない。でも、何か特別な意味があって、わたしがそれに気づかないとかあって、がっかりされたら悲しいな、と思う。
もっと違うものが良かった、なんて言ってるみたいに受け取られたら、もしかしたら悲しまれるかもしれない。
そんなふうに臆病になっているわたしを励ますように、赤べこの首は揺れている。
「本人に聞いても良いかな?」
うんうん、と頷いてくれるようだった。その姿の可愛さにわたしはちょっと笑って、それからスマホでメッセージアプリを開く。
──お土産ありがとう
まずはお礼を送って様子を見る。少しして、返信の音が鳴ってメッセージが届く。
──おくりたかったから
──気に入ってもらえたなら嬉しいけど
ああ、彼の言葉だ。表情と口調を思い出して、わたしは頬を緩ませる。そうして赤べこを見れば、なんだか揺れる首が、赤い丸っこい体が、とても可愛らしく見えてきた。
──なんかかわいいなって思ったよ
だから、素直にそう送った。
──よかった
──何かお土産買いたくて
──でも何買えば良いかわからなくて
──土産物屋で見て可愛いなって思ってそれで
──それにお守りにもなるって聞いたから
そうか、彼は普通に可愛いって思ってこれを買ってくれたのか。聞いてみればなんでもないことだった。
わたしはもう一度、ちょんと首をつつく。赤べこはやっぱり頷いてくれる。
──ありがとう
──気に入ったよ
それから「うれしい」ってスタンプを送る。返ってきたのは何かのキャラがサムズアップしてるスタンプ。
そこから、どうってことないスタンプやおしゃべりのやり取りをして、「また明日」ってまたスタンプを送り合ってメッセージのやり取りは中断。
こんなちょっとしたやり取りだって嬉しい。どうしても顔が緩んでしまう。
にやけた口元に手を当てれば、赤べこは「もう全部わかってますよ」みたいな顔で頷いていた。
* * *
七日目お題「赤べこ」
miccoさんからいただきました!
https://kakuyomu.jp/users/micco-s
https://twitter.com/micco30078184
ありがとうございます!
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