第十一話 訓練じゃなくて戦だろ


 朝食も肉だった、朝らが重いものを食べたケイジです。


 うっすら感ついてたけど朝食でステーキ出てくるのは普通に厳しいって。


 彼らの新陳代謝はまだ分かってないが、俺が三食肉三昧をしていたら太る!脂質が大変なことになる!


 せめてパンが無いか確認を取ったら無いと言われたし、「あんなものは止めておきなさい」と釘を刺された。


 この世界のパン、一体どんな物なんだ?俺が知るパンじゃないのか…………?


 後で調べるとして、少し胃が重くなったところで俺が商品となった訓練が始まる。


「しゃあ!俺が1番になる!今日こそな!」


「この前もそう言ってボコられてただろ。また腕折れても知らんぞ」


「ボルイ先生に治してもらうから大丈夫だ!」


「あの子の名前って何だっけ?」


「ケイジくんだって。ラーラが言ってたよ、大人ぶるのが可愛いって」


「確かにツンとしてそうだね。うへへ、デレさせたらどうなるんだろう」


 純粋な闘志、邪な思いが入り混ざった訓練が始まる。


 どういう語り方だと思うが仕方ないだろう、いくつかのチームに分かれて模擬戦が始まるのだから。


 模擬戦といっても形式としては白兵戦のようだ。木製の盾と木刀で殴り合い、どちらかが全員気絶したら終了というルールだ。


 いや、ダメだが?目や股間のような急所は無しとはいえ兜割りみたいな振り下ろしもアリらしいがダメだが?


 死者は出たことないのか?出るだろ荒れに荒れたルールでやったら普通はさぁ!


「ほらほら、ケイジ君が見てるから情けない姿は見せないようにね〜」


「降ろして?」


『ケイジ様、あっさり捕まって膝の上に座らされましたね』


「この、ホールドが強い!」


 そして俺はラーラに捕まった。意外と気配が薄いよこの兎の人、あっという間に捕獲されて座らせられたし、頭の後ろに柔らかいものが当たっている。


 こっ恥ずかしいんだが?頭の後ろとはいえ感触は最高だしそんじょそこらで体験できるものではないのは理解できてるが、何故ラーラがここにいるのかが分からない。


 賭け訓練に参加するんじゃ無かったのか?いや、そんなものに参加してたら時間が無駄といいたいわけか?


「ラーラ、お前は別の任務があったんじゃないか?」


「あらら?そうだったかしら?」


「まあいい、逃げないように見張っておいてくれ」


「誰が逃げるんだ、誰が」


 脱走癖のあるペットか俺は。いや、隙を見て散策しようとはしたが、がっちりホールドされていて簡単に外せそうにない。


 力が強くなり過ぎたらパワードスーツのリミッターを解放してでも逃げるからな俺は。


「お前らチームは組んだな?それじゃあ場所を四つに分けて…………はじめ!」


「「「「くたばれえええ!」」」」


「「「わたし/あたしのもんだあああ!」」」


「何だコレ戦争か?」


「賭け事になったら大体こうよ」


 こわ、だが実際に賭けで何らかの譲歩を引き出すための手段として一つ考えいたから考えを改めよう。


 あんな気迫でやってこられたら俺の身が持たん!かち合うにしてもやはり重量パワードスーツが必要だ…………


 現実逃避をやめて目の前の戦争に目を向けなければならない。


『ケイジ様、データは常にゴーグルから録画しています。見逃しても後ほど再生できます』


 それはどうも、手厚いアフターフォローがあって大助かりだ。伊達にシンギュラリティ起こしてないな。


 で、目の前の戦場だが恐ろしの一言に尽きるね。


 砂埃が立ち舞い、ドカバキと盾と木刀と肉がぶつかり合う音が聞こえる。


 白兵戦ってこんなんだっけ、と思ったが泥臭い戦いというのは彼らが好むのだろう。


「おらっ、おらっ、早く倒れろ!」


「あたしだって、負けるわけにはいかないんだよぉ!」


「俺は一緒に、飯を食いたい!」


「昼休みの時に抜け出して一緒に買い物!」


「服を貢ぐんだ!」


「おもちゃ買って一緒に遊ぶんだぁぁ!」


 ゴーグルの機能の一つである集音機能で明らかな煩悩を抱えたまま全力で戦ってる彼らに対して俺の心境を答えよ。


 まだ日が浅いとは言えここまで溺愛しようとしてくるのはこそばゆいというか、照れるというか、むしろ怖い。


 そしてひとつ思った、これは『やめて!私のために争わないで!』的な台詞をいう場面じゃないか?


 言ったら言ったでピタリと止まるかな?しれっと俺の頭を柔らかな毛で撫でる包まれた手も止まるのか?


『ケイジ様、ろくではないことを考えていると可愛がられますよ』


「そうよー、可愛がっちゃうわ〜」


「近いから聞かれてるぞ骨伝導ゴーグル」


「ごーぐる、って何かしら?」


「これの事だよ」


 コツコツと頭に付けてるゴーグルを指で叩く。


 この街を拠点にするならいずれ機械を運び込みたいところだが、絶対音で苦情くるよなぁ…………


 大きい音は大丈夫でも小さい音に敏感ならクレームは多くなるだろう。


「オラァッ!吹っ飛べぇ!」


「ぐへぇっ!?」


 男女平等に5mほど上空にかっ飛ばされる様を見て、気にする必要はないかと思う俺は悪いのだろうか。


 どさっ、と地面に落ちる人達を見て一時的に場が静かになった。


 どうやら第一回戦が終わったらしい。地面で気絶している人達は口を開けて長い舌を出したままのびてるが大丈夫なのか?


 ああして口を開けて横になってるのを見ると、やっぱり人の顔からかけ離れてると思う。あ、ボルゾイっぽい人達に担架で運ばれていった。


 これ、訓練だよな?気絶者が出て医務室に運ばれてるのに誰も気にしていないあたり日常茶飯事なのか?


 今更だが別れたチームは8つ、ここからあと2回も戦いがあって俺の昼行動を決めるわけか…………


 思ったよりも退屈だな!?このまま膝の上に座ったまま動けないのも嫌だぞ!


 これもアレか、ペットをずっと抱っこしている感じなのか?


 だとしたら抱っこが好きじゃない犬猫の気持ちが少し分かる気がする。自由が欲しいと思って逃げてたりするんだな…………


『ケイジ様、データ収集は昨晩輸送した虫型ドローンが先ほど到着したため撮影可能になりました。この場を離脱しても問題はありません』


 よし、有能!このAI有能!そして虫型ドローンを開発してた過去の俺も有能!


 逆に何の需要で秘密道具みたいな物を開発してたのか謎が出来たけど、この際気にしないでおく。何があったんだよ、本当に。


 VRヘッドギアのようにゴーグル越しにしか見えないキーボードを叩き、輸送されたドローンに指令を入力する。


 主な任務は偵察、周囲の確認及び地形の把握だ。


 これさえやっておけば今ここにいる必要はない。さっさと抜け出すとしよう。


『ケイジ様、個体名ラーラと呼ばれる兎型新人類が着用している衣服の布面積が少ないため、毛の流れに沿って脱出が可能です』


 やはりAIは俺が退屈し始めたことを察して脱出方法まで提示してくれた。


「よし、休憩は済んだな!次の模擬戦だ!たった一回でへこたれてる奴はいないな!」


「当たり前っすよ副長!総長が戻ってきてないのに倒れるやつなんざいません!」


「私はやるよ、私はやるよ!」


「俺、この戦いが終わったらケイジくんといっぱいお話しするんだ…………」


 闘志を燃やすのはいいが煩悩を燃料にするのはやめてくれ。煩悩の内容が俺なのもやめてくれ。


 あと最後の何だ、不慮の事故が起きそうな気がするから本当にやめてくれ。


 ゲンナリしたのを察したのかラーラが頭を撫でてくれる。


 手と大きい割には繊細な手つきで髪を整えてくれるんだが、やけに手慣れてるような気がする。


 もしかしたら種族的な話で兄弟が多かったりするのか?野暮なことを考えたが、今はどうでもいいことだ。


 俺にはやりたいことがある、少なくともデータを取れるドローンがいる状況で留まる理由もない。


「よいしょっと」


「あっ!滑るように脱出を!?」


「悪いな、俺は図書館に行く!昼に食堂へは戻るからな!」


『パワードスーツ、バッテリー残り96%。フル稼働しますか?」


「できる限りの機能を使う!」


 脱兎の如く駆け出す俺。少し反応が遅れたが俺を再び捕まえようと追いかけるラーラ。


 他の皆んなは一瞬呆気に取られたが、まあラーラが捕まえるだろうと思い再び訓練を再開したらしく怒号が背後から聞こえる。


「待ってー!かわい子ちゃんまだ膝に乗ってよ〜」


「誰が待つか!俺にはやりたいことがあるんだっての!」


 そして時速80kmを超える高速の追いかけっこが広い城内で始まった。

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