第三話 小さい人


「おーい、そっちはどうだー!」


「……………………!」


「聞こえてるのか?」


「あら?坊やには聞こえないの?」


「思ったよりもしっかりしてるな!その服、いや鎧か?まあまあ重いんだろ?」


「ま、まあそれなりに?」


『ケイジ様の体重と同じ重量です』


「ん?また声が…………?」


 今、俺は熊の獣人さんに肩車されてます。


 パワードスーツの補助があったとはいえ走っていたため疲れていると見抜かれて問答無用で肩車された。


 おかしいな、俺の体重は62.4㎏でパワードスーツも同じだから合計で124.8㎏なのに簡単に肩車してるよこの人。


 俺だったら持ちあげられるかどうか分からないのに片手で持ちあげてんだよこの人。


 どうなってんだよ異世界人。そらさっきの盗賊も探索用の軽量型とはいえパワードスーツを遊びながら追跡できるわけだ。


 単純な筋力の差か?おかしいな、俺も現地人として生まれたはずなのにこの差は何だ?


 それにAIの会話もうっすらと聞こえているようだ。ゴーグルからの骨伝導でAIの声を俺に届けているからあのケモ耳は単なる飾りではなくしっかりと機能しているようだ。


 それにしてもデカい、4人のうち男女比率は俺を除いて半々なのだが身長も全員デカい。俺の顔が胸元までしか届かない。


 この場にいる全員がそうだがとても筋肉もついている。熊も犬も兎も足が太い、ムキムキだ。


 女性二人も色々とデカい。それを象徴するかのように胸当て以外はかなり装甲が薄い、というか二人とも乳がデカすぎて胸当てというよりも鉄のサラシといった風に押しつぶしているような感じがする。


 下半身もホットパンツのような小さいズボンにハイソックスといった擦り傷を防ぐためにつけているといった風なものだ。


 筋肉もしっかりとついていながら脂肪もちゃっかりとついている理想の―――


「あらあらあら?何をじっと見てるのかしら?」


「君ぃ、まだ子供なのにスケベだねぇ」


「男だから仕方ないだろ。そういうもんだ」


「副長もそんな時期あったんですか?」


「ふっ、誰もが通る道だ」


「何でいい話の様にするんだ?」


 別に俺はスケベ目的で観察していた訳じゃない。俺の知っている人類と色々と違いがありすぎる。


 200年以上の時が空いていたせいか動物の遺伝子を取り込み進化したのだろうか?


 情報が少ないから元々そう言いう種族だったのかもしれないが、過去で転生した俺がこの身長で彼らが俺よりも1.5倍以上の身長である事が不自然に思える。


 パワードスーツもコントロールパネルで種類を見たが、どれもこれも俺くらいのサイズばかりで彼らに合うようなサイズは無かった。


 そもそも地力が軽量パワードスーツに匹敵するから必要ないのかもしれない。


「副長、相手はもう逃げたようです」


「すばしっこい奴だったか。まあいい、この子を保護で来ただけ良しとしよう」


「あの、子ども扱いしてるけど成人してるから」


「え?」


「あら?」


「はは、冗談上手いな」


 だ、誰も信じていない。びっくりするくらい信じていない。


 身長差がここまであるというのはこうも不利に働くというのか?俺の認識が甘かったか、それとも向こうの認識が緩いのか?


 確かに俺の身長くらいだったらこの人たちの子供と同じくらいの身長になるのか?


「まあ、仮に大人だったとしたらどこから来たって話になるよね」


「確かに、持ってるものも全部全く知らない臭いがするよな」


「あーっと、それはぁ…………」


『ケイジ様、問い詰められてますね。排除しますか?』


 ダメに決まってるだろポンコツ!口には出さないが何だこの過激思考は。俺が作ったからなのか妙に俺への信頼が高いし、先ほどの盗賊相手も勝てると言っていたが俺の心が付いてこなかったから申し訳ないと思うが…………


 肩車されているため下から目を覗き込まれている。


 よし、開き直るか!


「…………『廃都』から来た」


「『廃都』?あそこにはもう人は住んでない、なかったよな?」


「住み着くモノ好きは居ない筈よ。あそこら辺はもう盗掘され切っちゃって見つかるのは使えない鉄屑と石ころしかないわ」


「掘っ立て小屋を作れば住めないことは無いけど隕石がいつ降ってくるか分からないですもんね」


「地下でずっと寝てた」


「地下っていうと地面の下?生き埋めになってたってこと?」


「地下に空間があったってこと。俺はそこに居た」


「そんな調査あったか?」


 半信半疑な対応だ。嘘というのは容易いが、実際に俺の装備が明らかにこの近隣の物ではないということを彼らの目と鼻が物語っている。


 その証明として兎耳の女性が俺の尻の匂いを嗅いでいる。


 やめて、そこは恥ずかしいから!顔が整ってる人に嗅がれるのは色々と危ない!


「おいラーラ、初対面で尻嗅ぐのはやめとけって」


「でもどこの子でもない匂いがするのよ。気にならないわけないじゃない?」


「だからって子供の尻を撫でまわすな!こっち来い!」


「いたたたた!耳は引っ張らないでぇ!」


 犬耳の男性に耳を引っ張られながらラーラと呼ばれた兎耳の女性は引きはがされた。


「子供じゃないのに…………」


「まあまあ、身長が低いのは仕方ない。横耳も滅多に見ないことだから気になって仕方ないんだよ」


 横耳、というと俺の人種を指しているのが分かる。この4人は全員ケモ耳であり俺だけヒト耳だから横耳と呼んでいるのだろう。


 いつまでも子供扱いというのは癪だが、俺を肩車したまま副長と呼ばれた熊獣人がのっしのっしと警戒せずに歩いているためどこまでも子供扱いされることには変わりないだろう。


 モヤモヤした気分であったが、森の方からゾロゾロと顔までケモノの集団が戻ってくる。


「いやー、逃げ足速かったっすね。まんまと逃げられましたわ」


「根城を決めている分、奴らの方が上手って感じです」


「それに変な臭いが充満してて鼻も効きにく…………その子は?」


「件の盗賊に追われていたところを保護した子だ」


「子供なのにこんなに頬がこけて可哀そうに…………」


「大人です」


 肩車されている俺を見るなり瞬時に子供扱いされてしまった。


 即座に訂正を入れると「信じられなーい」とか「若くて見えない」とか「小さくてかわいい」と声が上がる。


 小さい=可愛いなのか君たちは。もうちょっとこう、装備もいいモノつけてるんだから何かあるだろ!?


「その子の親は?」


「成人してるのでいません」


「成人してても親はいるものでは?」


 副長の周りにケモノ顔の獣人がどんどん集まってくる。種族というか種類というか、毛色や模様が誰一人かぶっていいないのがすごいな。


 このタイプの人類がもっといたら見分けがつかなかったかもしれないが、これなら俺でも見分けがつきそうだ。


 集まりすぎて副長を中心におしくらまんじゅうが発生してとても熱気が凄いが我慢しなければこれからも似たような状況になる事を予測しているから慣れなければならない。


 そして思ったよりも獣臭い。うっとなるがこれも慣れなければこれからやっていけないはずだ。


 思ったよりも俺は潔癖なのか?冒険するならある程度の清潔手段は諦めなければいけな筈なんだが…………


「ひとまずうちのところに来るか?まあ連れて行くのは確定してるが」


「怪しいからってしっかりと太ももをホールドするのやめてくれませんか?」


「思ったよりも固いんだなこの服」


「99%金属なので」


「こんなに柔軟なのに金属…………?」


 これでも軽い方でパワーも他のモノに比べたら低い。もっとガチガチなの持ってきたらよかったか?


『ケイジ様、重装アーマーを空輸で運びましょうか?』


「ん?誰が喋った?」


「聞いたことない声がきこえたよな?」


「私じゃないよ」


「じゃあ誰だ?」


「さっきから偶に聞こえてたのよね。坊やの方から」


「成人してます」


 AIが喋るたびに反応してくるのは聴覚が鋭すぎないかと思う。


 全員の視線(肩車してくれている副長を除く)が俺をじっと見つめてくる。


「あー、えーっと?」


『ケイジ様、私を紹介するのですか?』


「詳細は、まあ腰を下ろせるところで話しますからとりあえず保護してくれません?」


 この人数で追われたらどうしようもない。それに全員の好奇心旺盛でキラキラした視線が刺さり続けるのが耐えられなくて頰を引き攣らせるしかなかった。

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