第二話 追いかける者達


『ケイジ様、戦闘を行わないのですか?』


「見りゃわかるだろ、怖気づいたんだよ!」


『現人類がここまで進化していたことは予想外ですが、戦闘において負けることはありません』


「銃弾を避けられた時点で難敵だって!」


「坊主!足速いなお前!」


「追いかけっこは負けないよ!」


「ついてきてるぞ!」


『訂正します。予想以上です』


 人類の枠組みを超えた力を装備した者に与えるパワードスーツを身に纏いながらも、俺は彼らの追跡を振り切ることは未だ出来ていなかった。


 時速80㎞とゴーグルの端で今俺が出している速度が表示されているが、AIが盗賊といった彼らの、名称は今のところ分からないが獣人としておく、獣人2人もほぼ同等の速度で俺を追い回している。


 森の中を走ったり、木々を足場にして駆け抜けてかく乱しても必ず追いついてくる。


 牽制としてリボルバーを放ったが、発砲した瞬間に伏せられて回避された。


 それからと言うものの、銃に警戒心を持たれて構えた瞬間にかならず射線を切ってくる。


 木を盾にするように飛び込みながら高速で移動するため当てることは非常に難しくなってしまった。


『彼らは音に弱いようです』


「だとしても一瞬しか足止めが出来ないから弾の無駄遣いだ!」


「誰と話してるんだ?」


「一人ぼっちで幻聴でも聞こえちゃってる?慰めてあげるからこっち来て―!」


「手榴弾の一つや二つは持ってくればよかったか!」


『最も有効なのはスタングレネードと予測されます』


「その訂正いる!?」


 AIと漫才をしている暇はないが、打つ手も少ないと言って過言ではない。


 レーザーブレードも持ってきた方が良かったか?いや、身体能力がほぼ互角の状態なら避けられる可能性はとても高い。


 そして何よりも俺が戦闘慣れしていない。それが致命的であり、そもそも俺自身が銃撃戦の経験が無い。


「速い、おっとまたその大きな音を鳴らす奴か!」


「それは直線でしか飛ばないからジグザクに避けられるんだよねぇ!」


『レーザー砲を持ってくるべきだったでしょうか?』


「曲がらなかったら変わらないだろ!」


 銃を構えた瞬間に完璧に射線を切ってくるから本当に当てられない。


 このまま相手のスタミナ切れを狙ったとしても、それすらパワードスーツを着た状態の俺と同等の速度で走っているはずなのに息切れも疲れている様子も全くない。


「街道は無いか!ナビゲートしてるってことは衛星で見てるってことだろ!?」


『その先を320mで開けた場所に飛び出ます。応戦するならそこが適切でしょう』


「了解、向こうに殺意がないから成り立ってるようなもんだけどな!」


 AIの言葉を信じて駆け抜ける。意外と暗くなかった森を抜けて草原へと飛び出した。


「げ、アオハ草原かこっち!?」


「隠れるところもない、だが障害物もないなら全速力をだせるってなぁ!」


 頭までケモノ顔の男が四つ足の獣の如く地面に手を付ける。


『いけません、ここまで退化していたとは』


 AIの呆れ、いやどちらかというと感嘆に聞こえた合成音が耳に入った瞬間、男は先ほどよりも速い速度で俺に突進してきた。


 一瞬の隙を見せたら追いつかれる!そう思った俺は走りながらリボルバーを後方へ向けて放つ。


 ケモノの男は音に慣れなかったようで体をびくつかせながらも横へ回避し、俺も横へ転倒することで突進を回避した。


 当たらないことは分かり切っている。残りの弾が2発しか残っていないのを全部はなってまで足止めするのは考える時間が必要になるからだ。


 もはや決め手になるのはショットガンくらいしかない。パワードスーツにも仕込み・・・はあるが身長が俺よりも二回り、いや四回りも大きい相手と格闘しようにも明らかに向こうの方が手慣れているように感じる気迫がある。


 ライフル?あんなのは不意打ちでしか使えないから却下。


 こうなったらショットガンで早撃ち決めるか?無茶な射撃もこのパワードスーツならどうとでもできるが、明らかに危険性が高い。


 捕まった際に全身から放電して相手を感電させるという奥の手は最後まで取っておきたいがやるとなったら今しかないだろう。


『ケイジ様、何をしてるんですか?敵が再び接近してきます』


 リボルバーの弾丸を避けたケモノの男が再び四つ足で、男の後を追ってきたケモミミ女と挟み撃ちにする形で俺に迫ってくる。


 これは不味い。ショットガンでクイックドロウでもしてやろうかと思っていたが挟み撃ちには対応できていない。


『ケイジ様、立ち止まっている場合ではありません。近くに増援の反応もあります』


 右手にライフル、左手にショットガンを引き抜き彼らに向ける。


 覚悟を決めた、片方だけを必ず戦闘不能にしてもう片方と殴り合いをする!


『ケイジ様、私のサポートがあれば近接戦でも負けはありませんが怪我をすること前提になります。無謀なことは』


「今の選択肢は限られてる、なら決めるのは―――」


 トリガーに指をかけて撃つ、カタリとトリガーを引こうとした瞬間だった。


「っ!この音は…………」


「やべ、鼻と耳が馬鹿になって近づいてるのに気づかなかった!逃げるぞ!」


 二人とも同じ方向を向き、示し合わせたかのように俺を諦めて森へ逃げていく。


 そのスピードは俺を追いかけていた時とは比べ物にならないくらい速く、遊ばれていたということに気づくまで彼らの姿が見えなくなってから5秒ほどかかった。


『敵性反応対象は逃亡しました。ですが、こちらに向かってくる一団が』


 先ほど彼らが顔を向けた方向へ俺も顔を向けた。


 微かに地響きがする。少ない数ではあるが明らかに重量級の団体がこちらの方へ走ってくる。


 馬ではない、されど乗り物のような機械の音もない。そして、こちらに走ってくる者達の姿を俺は目にした。


 全員が遠くにいるはずなのに遠近法が狂ったのかと思うくらい大きさが違う。先ほどの盗賊だったか追いかけてきた二人と同じくらい大きい。


 それも遠目で分かるのが全員がケモミミをしていること。先ほどの二人は犬のような耳だったが、あの中には兎のような長い耳や熊か何かの丸っこい耳をした者も居た。


 そして身なりが物凄くしっかりしている。盗賊が布と装飾品だけだったのに対して中世のようでありながら機動力を損なわない作りになっている胸当てや籠手、速く振り抜けそうなサーベルを腰に所持している。


 そして、こちらに一直線に向かってくる。


『ケイジ様、あれは敵とみなしてよいでしょうか?』


「リボルバーのリロードしてから考える」


 見た目からして正規の軍隊と考えるべきだろう。明らかにオーパーツな文明から来た俺からすると時代遅れ感が否めないが、これが正しい現地人の姿だろう。


 しかし、見れば見るほど獣人というべき姿をしている。顔は人間で耳だけケモノと思えばがっつり顔もケモノでキリッとした顔つきだ。


 こちらに近づく団体から4人が減速して俺の方に近づき、残った団体、が森の方へ走っていく。


『発砲しますか?』


「判断が早すぎる。保留だ保留」


 徐々に減速してこちらに近づいてくる団体は、俺の顔が人間だからかケモノ顔はおらずケモ耳尻尾の人間だけだ。


 念のため銃器は片づけ、腰のリボルバーだけはいつでも引き抜けるように手を当てておく。


 向こうから来る彼らをじっと見つめて…………


 見つめて…………


 遠近法か?やっぱりデカくないか?


「僕ちゃん、平気だった?」


「なんか変なにおいするな」


「珍しいな。横耳?初めて見る種類だ」


「小っちゃくて可愛いねぇ~、お姉さんがぎゅってしてあげ「結構です」あら~」


 全員目測で2m50㎝は超えており囲まれるだけでも相当な威圧感があった。


 何故か兎耳の女性に抱き着かれそうになったが、体格差が大きすぎたので横を抜けるように回避した。


 あのまま抱き着かれたら胸当てに顔が当たって窒息しかねないのでよけるのは当然だ。


 胸当てが無ければそのまま堪能してたのは言うまでもないだろう。だって男なんだから。


『ケイジ様、よからぬことを考えていませんか?』


「今何か聞こえたか?」


「女の声が聞こえたような」


「気のせいじゃないか?こんなとこにいるのはこのちびっ子だけだ」


「…………ちびっ子」


 これ、もしかして、もしかしなくても。


「どこの迷子かな?お兄さんに教えてくれないか?」


 熊っぽい耳をした男の人が屈んで俺の目線に合わせつつ笑顔で喋りかけてくれる。


 この感じあれだ、子供が泣かないように優しく語り掛けている警備のお兄さんって感じだ。


 身長差があるとはいえ、まさか、そんな。


「副長、怖がって声も出てないじゃないですか」


「おっかしいなぁ、俺が悪いのか?」


「変わった服だな。なんか硬そうな、これもしかして全身鉄で出来てる?」


「変な臭いもついてるし、こっちで一度預かって風呂にでも入れてやらないといけないんじゃないか」


「じゃあお姉さんと「結構です」あらら~?」


 完全に、子ども扱いされてるーーーー!?

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