第六話 美少女の訪問

第六話 美少女の訪問

 邦夫の密告事件から数日が経過し、今日は土曜日。家でゴロゴロしながら漫画やラノベの2週目を楽しんだり、溜まったアニメを消化したり、好きな配信者のLIVEを見たり…と充実した休日計画を建てていた俺だが、なぜか俺はリビングに親といる。

 さらに隣のイスには、俺の数少ない友達であり超がつく美少女の河井日花里が座っている。

「拓夫、どういうことだ!羨ま…羨ましいだろ!」

「父さん、言い直せてない。」

 なぜこんな事になったのか、時は10分前に遡る。

〜10分前〜

 ピロンとスマホから通知音がなる。

 俺は読んでいた小説から視線を外し、スマホを確認する。

『今日、遊びに行くね。』

「は?」

 俺はスマホの画面に写された文面に疑問符を浮かべる。

[遊びに来るってどういうことだよ。]

『いやぁ、親と喧嘩しちゃって、行く宛がないから。』

[だからってなんで俺の家だよ!]

 俺は困惑する。だが、これだけでは終わらず

『あと、もう虹野くんの家の前にいるんだよね。テヘッ。』

と舌を出した絵文字とともに追い打ちをかけられる。

 そして、そのメッセージの直後、家のインターホンが鳴って

「はーい。」

と母親が出るのだった。


 それから日花里はリビングに招かれ、俺は父親に半ば強引に連行され、気まずい状況が続き今に至る。

「父さんは彼女ができたなんて聞いてないぞ!」

「いや、彼女じゃないし、例え彼女ができたとしても教えないから。」

 俺は光の速さで訂正という名のつっこみを入れる。

「か、彼女だなんてそんな…」

「そんで河井も、満更でもないみたいな態度をやめろ。」

 俺が指摘すると、日花里は一瞬頬を膨らませ

「もぉ、河井だなんてよそよそしい。いつもみたいに日花里って呼んでよ。」

その後、悪い笑みを浮かべながら言う。

「えっ、拓夫あんた…女の子を呼び捨てに…」

「してない、してない。河井、父さんと母さんが泣くからやめてくれ。」

 実際、俺の家族である両親は俺の過去を俺の次に知っていると言っても過言ではない存在。普通に俺が女子と、ましてやファンクラブができるほどの美少女と仲良くしてたら普通に泣く。

 それから俺と日花里は、告白の件を省略して今までのことを父さんと母さんに話す。

「日花里ちゃん、こんな2次元大好きオタクの息子だけどよろしくね。」

「いや、オタクじゃないよ?」

 母さんは日花里の手を取り、どさくさ紛れて俺をディスる。

 ちなみに、父さんはというとハンカチを咥えて涙を流している。

(本当にハンカチ咥える人っているんだ。)

 俺はそんなことを思いながらこの後のことについて考えるのだった。

「あなた、ハンカチ咥えるのやめなさい。みっともないから。」

「あ、すまん。」


「いやぁ、虹野くんの親って面白いね。」

「いつもは、あんなんじゃないけどな。河井が来たからテンションがバグったんだろ。」

 あれから少し母さんと日花里は世間話をして、今俺達は俺の部屋にて雑談をしている。

「てか、普通に男子の部屋のベッドで横になるなよ。」

「ん?」

「いや、ん?じゃなくて。」

 ちなみに現在、俺はクッションの上であぐらをかき、日花里は俺のベッドで漫画を読んでいる。

「だって、漫画読むならベッドでしょ?」

 日花里はさも当然の様に言う。

「わからんでもないが、ここ俺の部屋なんだが?」

「当たり前じゃん。だって遊びに来たんだもん。」

 俺は呆れてため息をつく。

「そういうんじゃなくてだな…」

 俺はそこまで言って、言葉を呑む。

「え、なになに?私なんかやらかした?」

 すると日花里はベッドから跳ね起き、慌てた様子で尋ねてくる。

「てか、親と喧嘩したから来たんじゃないの?そーゆーときって、もっとこう親の愚痴とか言って共感求めるんじゃないの?」

 俺は日花里の質問をスルーして、尋ね返す。

「最初はそのつもりだったんだけど、虹野くんの親見てたらどーでもよくなった。」

 すると、日花里はベッドの上で脚をバタバタさせながら言う。

 俺は気まずくなり目を逸らす。

 理由は、ねぇ?

 今日の日花里の服装は、薄手の少しダボッとしたパーカーに黒いスカートとオタクの目から見てもセンスの良い物だ。

 そして、そのスカートは少し丈が短く、白い布がちょくちょく挨拶してくるのだ。

「虹野くん顔背けてどうしたの?」

 俺が下着を見ないよう、紳士として顔を別の方向へ向けていると日花里が声をかけてくる。

「あ、パン…虹野くんのエッチ。」

「なんでだよ。ちゃんと見ないようにしただろ!」

 それから数秒後、理由に気付いた日花里は俺に言葉を吐いた。

「虹野くん、もうこっち向いて大丈夫だよ。」

 日花里はそう言うが、俺は日花里の方へ振り向くことができない。

(鎮まれ俺の息子よ。大人しくしてくれ。)

 これは不可抗力なんだ。一応、二次元に生きている俺ではあるが、美少女の下着を見て反応しないほど図太い神経は持ち合わせていない。

「どうしたの?具合でも悪いの?」

 日花里が後ろから心配そうに声をかけてくる。

(やめてくれ!罪悪感が…)

 俺は悶えながらも必死に気を紛らわす。

(そうだ!前に推香さんがどうしてもってことで一緒に見たBLを思い出せばいいんだ。)

 俺は脳内に2人のイケメンを思い浮かべて、そいつらをイチャつかせる。

「おえぇー…」

 すると何とか息子は大人しくなったが、代償として精神ダメージを負う。

「虹野くん本当に大丈夫?おばさんかおじさん呼んでこようか?」

 俺がいきなり変な声を出すので、日花里は父と母を呼ぼうとする。

「いや、大丈夫。少し精神攻撃を喰らっただけだから。」

「そ、そうなの?」

 俺の一連の動作に、流石の日花里も困惑を隠せない。

「河井、飲み物いるか?」

 俺は少々気まずさを感じたので、席を離れるために日花里に尋ねる。

「あ、欲しい。」

「おけ。コーラでいい?」

「大丈夫だよー。」

 そうして、俺は飲み物を取りに部屋を出るのだった。


〈河井日花里視点〉

「よし、虹野くんはもういないね。」

 私は虹野くんの気配が消えたのを確認して、ゆっくりとベッドから降りる。

「1回やってみたかったんだよね〜。」

 そう言って私は姿勢を低くして、ベッドの下を覗き込む。

 何をしてるかって?それは、「お母さんが息子の部屋を掃除してたら面白いもの見つけちゃった」を再現するためにベッド下のいかがわしい本を探しているのだ。

 不意打ちで来たのだ。1冊ぐらいはあるだろう。そう考えた私は少々はしたない体制で薄い本を探す。

「あれ?ないなー…」

 私はスマホのライトでベッド下を照らし、覗き込むがそれらしいものは見当たらない。

 ベッド下には丸まったティッシュが数個転がっているだけだ。

「虹野くんはそーゆーことしてないのかな?」

(まぁ、そーゆーことが何かはよくわからないけど…)

 私はそんなことを呟きながらベッド下から視線を外して、天井を見上げる。

 そして数秒後ガチャっとドアが開き、虹野くんが戻ってきた。


〈虹野拓夫視点〉

「お待たせー。」

 俺がコーラを持って部屋に入ると、日花里はつまらなそうに俺を見つめる。

「どうした?待たせ過ぎたか?」

 俺の言葉に日花里は

「いや、そこまで待ってはないけど…」

と歯切れの悪い返事をする。

「おい、何をした?」

 俺が焦って問うと

「ベッドの下を覗いた…かな?」

日花里は答える。

 その言葉の瞬間に俺はベッド下を覗き込む。

 やましい本を隠した覚えはないが、一応念のためだ。

「あ、いや…河井…これは…」

 するとそこには複数の丸まったティッシュがあった。

 これは流石にまずい…

「大人の本が見つかると思ったのに…」

 そう思ったのだが、どうやら日花里はあのティッシュの意味を理解してないらしい。

「あ、あぁ、そうだな…はは。」

 俺は苦笑いをしながら、そのティッシュをごみ箱へ入れる。

「そういえば、河井って親と何で揉めたんだ?」

 そうして俺は話題を変えるために聞く。

「あ、それ聞いちゃう?」

 すると日花里はきょとんとした表情で言う。

「なんか気になった。」

「まぁ、そんな大層な話じゃないよ。」

 日花里は語りだす。

「あれは2時間くらい前かなぁ…」

〜2時間前〜

「日花里ー!スマホばっかりいじってないで勉強しなさい!」

 私が最近の楽しみである百合漫画を読みながらニヤニヤしていると、母がリビングから小言を言う。

「えー、もう少し…」

 だが私は漫画を読み続ける。

「スマホは勉強が終わってからにしなさ…」

 しかし事件は起こった。

「うわぁー!おとこー!」

 百合に男が挟まったのである。

「男がどうしたのよ。そんなことより勉強しなさい。」

「そんなことって何?そんなことって!これは宝石に泥を塗るようなもんなんだよ?これがそんなことなの?」

「いや、知らないわよ。早く勉きょ…」

「お母さんなんて、もう知らない!」

〜現在〜

「って感じで家を飛び出してきた。」

 日花里は「私、何にも間違ってないよね?」みたいな顔で俺を見る。

「いや、ちゃんと男が挟まらないか下調べしてから買えよ。」

 そんな日花里に俺は冷静なつっこみを入れる。

「だって、絵が神だったんだもん…」

(はぁ、こりゃ確実にこっちサイドに来てるな。)

 俺はオタク色に染まった日花里を見ながらため息をつく。

「まぁ、いいや。せっかく遊びに来たんだ。ゲームでもするか?」

「うん。するする!」

 俺の提案に日花里はコクコクと頷く。

「じゃあ、勝った方が負けた人に1つ命令な。」

「お、いいね。この前みたいに負かしてあげる。」

「下剋上を見せてやる。」


「う、嘘だろ…また負けた…」

 ゲームを始めて約30分が経過した。

 勝負のルールは5本先取で、ゲームに負けた方が次のゲームを決めるという至ってシンプルなものである。

 そして現在の得点は俺1の日花里4である。しかも、俺の1勝は最初のゲームのことなので、俺は現時点で4連敗している。正直もう後がない。

「なんでそんなに上手いんだよ…」

「いやぁ、実況動画いっぱい観てて良かった!」

 俺はそんな日花里の言葉に敗北感を感じつつ、次のゲームを取り出す。

(こうなったら、この前やって日花里が比較的に弱かったこれで…)

 そんなことを思いながら次のゲームを接続する。

 すると『計算レース☆〜このレースの√を駆け抜けろ〜』と画面に大きく映し出される。

「うわっ、虹野くんひどーい。」

 そのタイトルを見た瞬間、日花里は苦い表情をする。

「ふっはっは!俺は河井が数学苦手だって知ってるんだよ!」

 俺はそう言ってゲームを開始する。

 このゲームは全50問の問題がランダムで表示され、早く解けた方の勝ちというどこにでもある脳トレゲームである。

「うーん…」

 日花里は1問目の問題から苦戦する。

 俺も頑張って問題を解いていく。

(うーん。最近、勉強サボってたから鈍ってるな…)

 やっている中で俺は勉強不足を実感する。

 そして1分が経過する。中学生の頃はこの時点でクリアしていたのだが、現在はその半分である。

 対する日花里はまだ10問。

 しかも、日花里は今の問題もすごく苦戦している。

 それから俺は残りの問題を解いて、勝敗は決した。

「まぁ、こんなもんよ。うっし、いい勉強にもなったし、解散するか!」

「なに言ってんの?まだ勝負は終わってないよ?」

 しかし俺と日花里の得点はまだ2対4。ダブルスコアだ。

 俺は誤魔化そうとするが、日花里がそれを許さない。

「くっそぉ…」

─10分後─

「やったぁ!勝ったー!」

 勝負は日花里の勝利で幕を閉じた。

「うん、負けた負けた。じゃあ、勝負も終わったし解散し…」

「命令何にしよーかなー。」

(うん、もう河井と命令賭けてゲームするのはやめよう。)

 俺はこれから来る日花里の命令を前に、悟りを開くのであった。

次回に続く

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