第五話 昨日の友は今日の敵

第五話 昨日の友は今日の敵

 ピピピッと目覚まし時計がなる。

「うーん。今日から学校かー…」

 今日は月曜日、2日間の休日を終えて学校が再開する。

 俺は自室から食卓へと足を運ぶ。

『仕事行ってきます。by父と母』

 机には置き手紙があった。

 両親は共働きで、朝早くに家をでる。

 晩ごはんは家族全員で食べるが、平日の朝ごはんはいつも1人だ。

 俺はお茶碗にご飯を盛り、別の茶碗に味噌汁を入れる。

 ご飯は基本的に母が用意してくれている。和食のときもあれば、パンのときもある。

「いただきます。」

 俺は1人合掌をしたあと、箸を手に取る。

 それから朝食を済ませた俺は学校の支度を始める。

 支度と言っても教材は置き勉なので、制服に着替えるだけだ。

 ピロンと俺がズボンのベルトを着けているとスマホがなった。

『用事ができたから、学校先に行っといてー。』

 送り主は邦夫だ。

[わかったぜ!]

 俺は親指を立てたスタンプと一緒に返事を送り、支度を再開する。

 その後、支度を終えた俺はスリッパから靴へ履き替え、家をあとにするのだった。


「あぁ、そわそわする…」

 登校中、俺はそんな言葉を漏らしていた。

 理由は簡単。日曜日に手に入れた小説を少し読んだものの、夜も遅いため途中で読むのを中断したためだ。

 そんな感じで、そわそわしながら登校していると

「虹野拓夫くんであってるかな?」

 俺は背後から名前を呼ばれた。

「いえ、ワタシのナマーエはタクオ・ニジーノでーす。」

 俺はとっさに嘘をつくが

「タクオ・ニジーノ?拓夫虹野…虹野拓夫。やっぱりお前じゃねぇか!」

バレると同時に鋭いつっこみをもらう。

(な、なに?!?!この俺の偽名を見破っただと?)

 俺が脳内でそんなことを考えていると

「少し話がある。」

声のトーンを低くしてに言われる。

「あ、はい。」

 俺は男の言葉に振り向きながら答える。

「は?お前何やってんの?」

 すると、目の前には河井日花里ファンクラブのはっぴを着た邦夫がいた。

「いやぁ、なんか流れでこうなった…」

 俺が尋ねると、邦夫は後頭部を掻きながら答える。

「まぁ、聞け。俺ってお前と一緒にいるわけじゃん。」

「あぁ。」

「そんで、お前は河井さんと一緒にいるわけじゃん。」

「そうだな。」

「ということは、俺も河井さんと一緒にいるわけよ。」

「ふむ。」

「つまり、そういうことよ。」

 邦夫は「これで、わかっただろ。」みたいな顔で言うが、さっぱりわからん。

「いや、だからってファンクラブに入る必要はねぇだろ…」

 俺がつっこむと

「考えてもみろ。天下の拓夫様はファンクラブの連中にあらゆる方面で勝てるだろけどよ?俺は勝てねぇんだわ。そりゃあ、なぁ?」

と返事になってるの微妙な返事が返ってくる。

「で、なんでクラブに加入してんの?」

 俺が核心を突く質問をすると

「えっと、あはは…ボコされるか、幹部になってスパイをするかの2択を迫られて…」

邦夫は苦笑しながら答える。

「仕方ないじゃんか!痛いの嫌だし。あと、幹部でスパイって最高じゃん。」

「いや、絶対最後のが理由だろ。今までの会話なんだったんだよ…」

 俺は呆れた。

 まだ、「痛いの嫌だから」まではわかる。だが、最後の動機には呆れて言葉も出ない。

「そんで、結局どーすんだ?俺を縛って監禁でもするか?」

 邦夫に尋ねると

「いや、お前にとって監禁はご褒美だろ。」

と笑われた。

 その顔、今すぐぶん殴ってやろーか?こちとら中学時代、空手黒帯やぞ。

「んんっ!まぁ一応、俺の密告で日曜日の件はクラブ中で話題になってるから…ファイトッ!」

 邦夫は1度咳払いをして、そんな言葉を発する。

 うん、マジで何してくれとんの?

 邦夫に対する殺意+20と信頼度−50された瞬間だった。

「むむっ、殺意+20と信頼度−50された気が…」

「お前はエスパーか!」


「虹野拓夫くん。話がある。」

 俺が学校に着くと、2人の男が待ち伏せていた。制服を見る限り上級生だ。

(わー、すごいや。モッテモテだ。喜べ腐女子淑女。)

 俺はそんなことを考えつつ言葉を紡ぐ。

「告白なら間に合ってまーす。」

 そして、俺が何事もなかったように通り過ぎようとすると、2人のうち体が大きい方に腕を掴まれる。

 これがラブコメで相手が女の子ならば萌えるだろうが、がたいのいい男にやられても腐女子にしか喜ばれんだろ。

「残念ながら、告白ではないんだな。安心しろホームルームには間に合う様にするから。」

 男はそう言って手の力を強める。俺ならば振りほどけないこともないが、それをすると面倒くさそうなのでしない。

「それで、話って何ですか?」

 2人に導かれるまま校庭の端まで来た俺は尋ねる。

 体育館裏ではなく、わざわざ人目につく校庭に連れてきたってことは暴力ではなく話し合いで解決しようと言うことだろう。

「単刀直入に聞きましょう。河井日花里とは、どのような関係なのです?」

 すると今度はもう一方の見るからにインテリな男は完結に、それでも伝えるべきことを1つも落とさず要件を言う。

「関係ねぇ…女友達ってところですかね?」

 その丁寧な聞き方に、俺もしっかり答える。

 別に俺は他の人と趣味嗜好が異なるだけで、相手が常識的に接するのであればそれに合わせれる普通の高校生なのだ。

「てか、制服を見る限り先輩ですよね?うちの学校にファンクラブの会員ってどんだけいるんですか?」

 俺は疑問に思った。

 前回ちょっかいをかけてきたやつに、今回の先輩、そんで邦夫…この様子だと結構な人数がいそうだ。

「男女合わせて200人程度、比率は7:3ってところですね。」

 うちの学校の全校生徒は450人ちょっと。つまり、半分近くの生徒が俺を敵視しているのだ。

「で、結局、俺にどうしろと?」

 俺が尋ねると

「欲を言えば関わらないでほしい。」

と返ってくる。

「それは難しいですね。俺がってよりも河井の方から関わってきてるんで。あと、あいつといると色々楽しいですから。」

 俺が言うと、2人が眉をひそめる。

 今、2人が何を思っているのかわからないが、俺には興味ない。

「で、欲を言えばってことは妥協案があるってことですよね?その案を承諾するとは限りませんが、聞かせたください。」

 俺が言うと

「はい。僕達が要求するのはただ1つ。河井日花里と付き合ってください。」

と言葉が返ってくる。

「へ?」

 あまりに予想外の言葉に、変な声が出てしまった。

「こちらも、欲を言えば関係を断ってほしい。けれども、それが不可能なことも理解の上です。ならば、いっそのこと付き合ってもらえば色々吹っ切れる人もいるでしょう。」

 そんな俺を意に介さず、インテリな方の男は言葉を続けた。

「これって、敵キャラだと思ってたやつが実はいいキャラで仲間になるってやつでござるか?」

 俺は困惑する頭をオタク思考にすることによって落ち着かせる。

 この技は難易度が低く効果がでかい。だが、その分のデメリットもある。

「虹野拓夫くん?いきなり何をおっしゃってるんです?」

「虹野拓夫…急にどうした?」

 それは何も知らない人が見ると、ただの変人だと思われることだ。

 これは闇の力を行使して魂を削るのと同じ感じだ。

「いえ、何でもないです。」

 俺は一応言っておく。

「それで、俺と河井に付き合えって言ってましたけど、それはできません。」

「何でだ?」

 俺の答えに、がたいのいい方の先輩は首を傾げる。

「ちょっと過去に色々ありまして…」

 そんな先輩の問いに俺は言葉を濁した。

「「・・・」」

 俺の表情から、この言葉が嘘でないと理解した2人は黙り込む。

「あれ?虹野くん、なにしてるの?」

 しばらく沈黙が続いていると、そんな呑気な声が響く。

「ん?あぁ、少し先輩とお話…」

 俺は振り向き話の中心人物、河井日花里に言う。

 そして、視線を戻すと今にも鼻血を噴き出しそうな先輩2人がいた。

「天使、いや神!」

「いえ、神なんかじゃ比較になりません。まさに美しいの概念そのもの。」

(いや、大袈裟すぎだろ…)

 俺はそんな2人から視線を日花里に戻し

「俺は、もう少し話してから教室行くから、先に行っといてくれ。」

と言う。

「うん。じゃあ、また後で。」

 すると日花里はキラキラとエフェクトの付きそうな笑顔で手を振りながら校舎へ歩を進める。

 そんな日花里を見送ったあと俺は

「虹野拓夫くん。いや、虹野様…貴重な体験をありがとうございます。」

「こんなに近くで拝めたのは虹野様のお陰だ。今度、過激派のやつらが迷惑を掛けたら俺に言ってくれ。」

と2人に崇められる。

 そして、がたいのいい方の先輩に差し出された手を

「は、はい…よろしくお願いします…」

俺は若干反応に困りつつ取るのだった。


「よお、拓夫。どうだった?」

「ふっ、それがしの手にかかれば敵を味方にするなど容易いでござる!」

 俺は教室に入ると、邦夫の言葉に返事をする。

「それはよかったでござる。じゃあ、この件は解決。全て丸く収まったってことで…」

 すると邦夫は「うんうん。」と頷きながら言う。

「おい、何を誤魔化そうとしてるんだ?元はと言えば、お前の密告のせいだろ?落とし前をつけてもらおうか。」

「う…は、ハンバーガー奢る!」

 俺にジト目で見つめられた邦夫は提案をする。

 だが、俺はそう簡単に許す男ではない。

「セットな?」

 俺は条件を付け足す。

「わかったよ。しかたないなぁ…ふっ!」

 その条件を素直に呑む拓夫。だが、俺は最後の笑いを見逃さない。

(こいつ今、「ちょろい」って思ったな?覚えとけよ。)

 この日の放課後、邦夫は俺のパテ追加攻撃で財布に大ダメージを負ったのは別の話である。

「まぁ、それはいいとして…河井はなにをしてるんだ?」

「ん?あぁ、ええと…」

 俺が日花里に尋ねると、彼女は慌ててスマホを隠す。

 そして周りをキョロキョロと見渡して

「今日はいい天気だね!」

と下手な誤魔化しをする。

「うん、そうだね。それで何してたの?」

 そんな彼女に俺は少し顔を近づけて聞く。

「ちょ…ちか、近いって!」

「なら教えてくれよ。抑えてるつもりだろうが、めっちゃ笑みが零れてたぞ?」

 俺が言うと、日花里は口元を手で隠す。

「いや、今更だよ?いいから教えろって…」

 俺が言うと、日花里は観念したようにスマホを差し出す。

「えっと、なになに?『こんなのあり?!?!嫌われていると思っていた妹にデレられて、まさかの百合展開!私と妹のドキドキ生活♡』…えっと、なんかごめんな?」

 俺はスマホに映し出されたタイトルを読み上げると、本気で申し訳なくなり謝罪の言葉を口にする。

「やめて…謝らないで…」

 日花里のその言葉に邦夫を含めた3人の間に微妙な空気が流れる。

「河井さんって百合が好きなんだ?」

「も、もうやめてー!」

 そして邦夫が言うと、日花里は走って教室を出ていった。

(もうすぐホームルーム始まるけど大丈夫かな?)

 俺はそんなことを思いながら、日花里を見送るのだった。

 ちなみに、その後は当然の様にホームルームに遅刻した日花里だが、彼女の美少女っぷりに先生も強く怒れず軽い注意だけで終わった。

 結論世の中は顔ってことがわかった瞬間であった。

次回に続く

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