第二話 友情と妬み
第二話 友情と妬み
俺は普通の高校生のはずだった。平日は、仲の良い友達とゲームやアニメの話で盛り上がり、休日は、家に籠もりゲームでガチャ爆死する。そんな普通の高校生のはずだった。
だが、今の俺は少なくとも普通じゃない。目の前の少女、河井日花里のせいで。
「なぁなぁ河井さん。俺、お前に学校で噂になるようなことはするなって言ったよな?」
「え?別に噂にはなってないよ。ただ、みんなが私達の関係を考察して、その話題で盛り上がってるだけだよ。」
「それを噂になってるって言うんだよ!」
木曜日の朝、俺こと虹野拓夫はそれほど面白くないコントを繰り広げていた。別にコントがしたくてしているわけではない。
「え?これって噂になってるの?」
昨日、彼女から告白を受けたときは気づかなかったが、河井日花里という少女は天然なのだ。
「はぁ、もういいから。とりあえず接し方は考えろよ。」
俺はため息を吐き、机に突っ伏した。
とりあえず、彼女と話していると周りからの視線が痛い。
「わかった。そういえば、あの邦生って人?今日はいないの?」
「あぁ、あいつなら昨日食った晩ごはんが腹に当たったからって学校は休んでるぞ。今頃はトイレに籠もってるだろうな。」
「へぇ、大変そう。それじゃあ、また後で。」
俺は、手を振りながら自分の机へ戻る彼女を見送る。
(そういえば、昨日はツンデレお嬢様ってイメージだったけど、今は明るく元気な少女って感じだよなー)
俺がそんなことを考えていると、朝のホームルームを知らせるチャイムがなり俺は目を閉じ眠りに就くのだった。
それから少し時間は経ち、俺は肩への衝撃と共に目を覚ました。
「うん?なんだ?」
俺がキョロキョロ周りを見渡すと、呆れた表情の先生とクスクスと笑うクラスメイトの姿が見えた。
「なんだじゃねぇよ。虹野、お前授業中に寝てんじゃねぇ!さっさと教科書出して勉強しろ。」
先生の叱責を受けた俺は、そそくさと教科書を取り出す。
授業が終わり、みなが仲がいい人と話す中、俺は一人頭を抱えていた。
理由は単純、うちの高校は校則が厳しく、授業中の居眠りや遅刻など、他では注意だけで済むことも放課後居残りで反省文を書かされる。
そんな学校になぜ通っているかって?そんなの、俺の学力で入れる、家から近くスマホ持ち込みOKの高校がここしかなかったからだ。
「虹野くん、災難だったね。でも、どうしたの?普段授業中に寝たりしてないじゃん。」
俺が落ち込んでいると、河井日花里が顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「ん?あぁ、いつもは邦生に起こしてもらってるからな。反省文書くのめんどいなー。」
法に触れることをしたなら反省と謝罪を書くことができるが、居眠りしただけとなると書く内容が少ない。
「まぁ、寝ちゃったのは事実だし。頑張って書きなよ。」
ニコニコしながら言ってくる彼女は悪魔に見えた。
そして無事に残りの授業を受けた俺は、反省文を書いている。
現在の進行度は用紙3行。書き始めて10分経つが内容が思いつかない。
俺の目の前には、生徒指導の先生がいるためスマホで良さ気な文章を検索することができない。
そうこうしている間にも時は過ぎ、ついには開始から30分経過した。ちなみに俺の頭の中はゲームのことでいっぱいなので、すでに『反省』というワードは頭から抜けている。
そして開始から1時間経過し、俺は何とか反省文を書くことに成功した。
俺は終わるやいなや、すぐに筆記用具をまとめ教室を出る。
校門を通過し、俺は全速力で走る。ちなみに俺は、運動神経のいい陰キャなので足は速い。校門前で誰かを見た気がするが、今はどうでもよい。俺は走り、走り、家へ帰った。
俺が息を整えながら家の鍵を開けようとすると
「ちょっと、なんで、無視、するのよ。」
俺と同じく息を切らした日花里の姿があった。
「なんでここにいるの?」
俺が問うと
「校門前で虹野くんを捕まえて、一緒に帰ろうとしたら走って行っちゃうから…」
と答えた。
「それは悪かった。…?それでなぜ追いかける?というか、なに一緒に帰ろうとしてるんだよ。」
(なんで俺が謝ってるんだよ!思わずノリツッコミしちゃったじゃねぇか!)
俺がリアルでも脳内でもツッコんでいると
「えへへ。」
と舌を出してうっかりポーズをした彼女が見えたので
「えへへじゃねぇよ!」
ともう一度ツッコんでしまった。
「てか、お前、昨日会った時とキャラ違いすぎね?」
俺が言うと
「あぁ、あれは虹野が好きそうだったから、そういうキャラを演じてたんだよ。」
とサラッとそんな返事をされる。
「俺、お前にどう思われてんの?」
「うん?オタクだって思ってるよ。オタクはツンツンしてるのが好きって聞いたから。あと、お前って言わないで。せめて名字で呼んで。」
「おぉ、わりぃ。てか、オタク=ツンデレ好きってのは偏見だぞ。ちなみに俺は全力でデレてくれるか、照れ屋な子が好きだ。」
俺が自分の好みを言うと、彼女は少し引いた目で俺を見つめてくる。
「なんで、そんなに引くんだよ。」
「いや、普通にヤバい人だったから。」
俺の質問に対して、彼女は遠慮のない言葉を放つ。
「そ、そんなにか?」
落ち込んだ俺を無視して彼女は
「そうだ。せっかくここまで来たんだから一緒に遊ぼうよ!」
と言う。
「あぁ、そうだな。」
メンタルをやられた俺は何も考えられず、肯定をしてしまった。
「ほんとに?じゃあ、お邪魔しまーす!」
「はいよ。ん?っておい!」
俺は今更ながら疑問を持った。すぐに家から出そうと思ったが、彼女は既に靴を脱ぎ「はやくはやく」と急かしてくる。
ちなみに両親は共働きで二人とも帰ってくるのは夕飯時だ。
「というか、遊ぶって言っても何するんだよ。」
俺が聞くと
「虹野くんゲームとか持ってそうだから、それで遊ぼうかなーと…」
と自分勝手な返事が返ってくる。
まぁ、持ってないと言えば嘘になるが、最近は全くと言っていいほど使っていない。
「そうだ!負けたら勝った方の言うこと何でも聞くね。」
俺がゲームをどこに片付けたか思い出していると、彼女は恐ろしい提案をしてくる。
「やだよ。河井の命令はなんか恐ろしそうだから。」
「ほほぉ。つまり、私に負けるのが怖いんだー。」
彼女は嫌な笑みを浮かべて、俺を煽る。
俺は元ガチ勢。最近やってないとはいえ俺が負けるなんて、ありえるわけない。
「いいだろう。やってやる。後で謝っても遅いからな。」
「お、いいねぇ。やろやろ!返り討ちにしてあげるよ。」
「それは俺のセリフだ。」
それから俺達は日が暮れるまでゲームをした。
その間、格ゲーやレースゲーム、fpsなど様々なゲームで競った。
結果は俺の『負け』だ。
1つ言い訳をさせてほしい。
彼女は上手かった。だが、素人がやって才能があったとかではない。そこら辺で開催される小規模な大会でなら優勝できるくらいに強かったのだ。
全盛期、俺がまだスマホゲームに本腰を入れる前なら勝てたかもしれない。だが、スマホゲームの周回やガチャでしばらく生きてきた俺のプレイはそこそこ上手い人程度だ。
「ま、負けた…この俺が?そんなわけ…」
「やったー!勝った勝った!」
隣ではしゃぐ彼女を横目に、俺はガチャのSSR確定演出で狙ってない、しかもダブってるキャラが出たときくらい落ち込んだ。
「命令どうしよっかなー。」
「うー。屈辱だ…キツい命令はやめてくれよ?」
「どうしよっかねー。」
彼女はニマニマと笑っている。その笑顔は悪魔そのものだ。今この瞬間、俺の中で『デビル河井』が誕生した。
「決めた。」
少しの沈黙が続き、彼女の声がその沈黙を破いた。
「命令はこれからも私と遊ぶこと!」
彼女は人差し指を俺に向け、命令の内容を口にする。
もっと肉体やメンタルをボロボロにされることを予想していた俺の思考は一瞬フリーズした。
「そんなんでいいのか?別に命令されなくても遊ぼうと思ってたけど。」
「え、ほんとに?」
「あぁ、今日は楽しかったし。あと、友達なんだし遊ぶのは普通だろ。」
俺は、河井日花里という人間は嫌いではなかった。だが、告白をされた多少の気まずさと、その告白を断り彼女の心を傷つけてしまった罪悪感で、俺は彼女との間に壁を作っていた。
まぁ、噂になるのが嫌だってのも理由の一つだが…
そして、今日彼女と遊んで『楽しい』という感情が生まれた。
「まだ、友達か…でも、これも進歩だよね。」
彼女は、そう言葉を零す。
「そうだな、頑張れよ。」
「もう、他人事みたいに。」
そんな雑談をしながら俺達はもう一度コントローラーを握り、再びゲームを開始するのであった。
次の日
「ねっむ!」
俺は通学路を邦生と歩いていた。
俺は日花里が帰ったあともゲームを続けた。
最近はスマホゲームしかしていなかったが、やはりゲーム機を使ったゲームも面白い。
「どした?拓夫、お前寝不足か?」
「あぁ、ちょいと懐かしいゲームで遊んでたら。」
「へー…なんで、それで遊ぼうと思ったの?」
「昨日、河井が家に来て、色々あってゲームで遊ぶことになってな…」
俺がそこまで言うと、邦生は足を止め
「え?男女が室内で二人きり?」
と言葉を零す。
「言っておくが、ゲームして遊んだだけだからな。」
「まぁ、そうだろうな。拓夫って基本的に意気地なしだもんな。」
「ははは」と笑う邦生を軽く叩き
「うるせぇ!」
と俺は声を張り上げた。
それから、俺達は他の話題で盛り上がりながら登校した。
学校に着くや否や、俺は数人の男子生徒に囲われた。
「よぉ、虹野拓夫くん。」
「えっと、誰?」
だが、俺はこいつらを知らない。
まぁ、そもそも俺は少し二次元愛が強いだけの陰キャだから、学校の知り合いは邦生と日花里くらいだが。
「俺らは『河井日花里ファンクラブ』の会員だ。我らのアイドルと昨日、密室で会っていたと言うことは本当か?」
一人の男が胸に手を当て、誇らしげに名乗る。
(え、会員って言った?普通こういうのって幹部にあたる人がするんじゃないの?)
俺が心中で首を傾げていると
「おい、聞いてるのか?本当かどうか答えろ!」
と別の男が怒鳴る。
「まぁ、二人で遊んでたのは本当だよ。でも…」
「認めたぞ!こいつを連れて行け!」
俺が「でも、あんたらが想像してるようなことはしてない」と言おうとすると、自己紹介した方の男が言い放ち、俺は男たちに体育館裏に連れてこられていた。
(うわっ。ここ日花里に告られた場所じゃん。)
とは流石に言えないので、心の中に止める。
この場所ってイベントを引き寄せるポイントか何かなのか?
「それで、お前みたいなクソオタクがなんで我らのアイドルと二人っきりになってたんだ?」
俺を引っ張る手が離され、俺は男たちに睨まれながら問われる。
「えっと、まずお前らが思ってるようなことはしてないよ?俺。あと、俺はオタクじゃないし。ただ、二次元愛が強くて、推しのためなら何万でも使えて、暇なときは推しを眺めて悶絶してる普通の高校生なんだけど。」
俺が弁明をすると、
「まるっきりオタクじゃねぇか!」
とキレッキレなツッコミが返ってきた。
「まぁ、俺がオタクか否かはいいとして、俺があいつと遊んでたのは事実だが、俺をどうするんだ?」
寝不足のため早く教室に行き授業まで寝ていたい俺は、面倒くさくなり男たちに問う。すると
「二度とあのお方に関われない体にしてやる!」
と男達の中で1番でかい男が怒鳴り、殴りかかってくる。
「別に喧嘩するのはいいけど、俺が殴っても先生にはチクらないでね。反省文はダルいから!」
俺はその攻撃をヒョイッと交わし、腹部に殴りを入れる。
俺の攻撃をノーガードで喰らった男は倒れ込み、俺は周りの男共を睨む。
半分の奴らはビビって逃げ出し、もう半分は考えることを止めて殴ってくる。
「面倒くさいなー…」
俺はそいつらを一発ずつ殴り、地面に沈める。
単調な攻撃は交わしやすいので人数不利があってもやりやすい。
俺は倒れた男達から視線を外すと、カバンから弁当箱を取り出し、中身を確認する。
弁当の中身はきれいに整えられた状態で、激しい動きをしたことでグチャグチャになっていることを予想していた俺は、ほっと胸を撫で下ろした。
「カバン持ったまま応戦したけど、弁当が無事で良かった。」
それから、俺はまっすぐ教室へ向かい、自分の机にて眠りについた。
今日は邦生に起こしてもらったので反省文も免れ、俺はいつもの日常に戻ったのであった。
次回へ続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます