二次元オタクの俺が噂の美少女に惚れられた?!?!

壱ノ神

第一話 噂の美少女

 君達は二次元の素晴らしさを知っているだろうか?

 それは画面の中にいる近くも尊い存在。その中でも、特に尊い存在を推しと言う。「推しのためなら死んでもいい。」という考えは誰もがも出ているだろう。これは、一般人より二次元愛が強い少年の青春ラブコメである。

第一話 噂の美少女

「拓夫氏、拓夫氏!昨日追加されたガチャ回したでござるか?」

「もちろんでござる。推しを当てるために10万も課金したでござるよ!」

 俺の名前は虹野にじの拓夫たくお。少し二次元愛の強い普通の高校1年生だ。

 そして、俺の正面に座り一緒にオタクトークをしているのは、俺の幼馴染であり同じゲームのキャラを推しとする同士の大田おおた邦生くにおである。

「10万でござるか!すごいでござる!それがしは、この前のイベントでお金を使い切ってしまって課金ができなかったでござるよ…」

 今、俺達は流行りの美少女ゲームについて話している。なぜ語尾に『ござる』が付くかって?それは、そっちの方がオタクっぽいからだ。無論、常にこの喋り方なわけではない。邦生とオタクトークするときや、イベントで同士と語り合う時だけだ。

「それはどんまいでござる。」

 俺達がいつものように楽しく会話をしていると

「おはよー。」

ときれいな声が教室に響く。俺含めクラス中の生徒が声のした方向に視線を向けた。

 その声の主は、河井かわい日花里ひかり。顔は可愛く、スタイルもいい、男女共に人気の高い存在だ。噂では学校の外にファンクラブがあるらしい。

 だが、俺はイマイチ彼女の良さがわからない。確かに見た目は良い方だが、二次元の素晴らしさを知った俺には響かない。そんなことを考えながら俺は、邦生に視線を戻してゲームの話をする。

「拓夫氏は河井氏に興味はないでござるか?」

 俺達がゲームの話に花を咲かせていると、邦生がそんな質問をしてきた。

「それがしは、二次元にしか興味がないでござる。」

 そんな質問に俺は「何を言ってるの?」と言わんばかりの表情で答える。

「そうでござるか。拓夫氏は我ら二次元オタクの鏡でござるな!」

 邦生にそう言われ「ありがとう」と伝えようとしたとき、朝のホームルームを知らせるチャイムが鳴り響いたので、俺達は会話を止めて先生の話を聞くのであった。

 それから時は過ぎ、授業を受け終えた俺は邦生と共に屋上へ移動して、一緒にお昼ごはんを食べていた。余談だが、今日の俺の弁当は豚カツだ。

「あの、少しいい?」

 俺がカツを頬張っていると、美しく透き通る様な声が屋上に響く。隣に座っていた邦生は箸を地面に落とし、絶句している。

「えっと、俺?」

 目の前の少女、河井日花里に俺は口の中のカツを飲み込んで尋ねる。

「そうよ。あなた以外の誰がいるの?」

「え?こいつ。」

 彼女の問いに俺は邦生を指差し、答える。

「誰?その人。」

 だが、彼女は興味なさげに言った。その言葉は邦生の心に深く刺さった。

「お、おい。大丈夫か?ほら、お前の最推しの画像。」

 俺は絶望のドン底に落ちた邦生を励ます。

「それで、話したいことがあるんだけど、いい?」

 すると彼女は、冷たい眼差しを邦生の最推し『ミルクちゃん』に向けつつ、話を戻す。

「いや、すまん。今から俺達はとても大切な話をするんだ。話ならまた今度にしてくれ。」

 俺が彼女にそう言ってカツをもう一つ頬張ろうとすると

「いいから、さっさと来て!」

と強引に手を掴まれ、訳のわからないまま彼女に連れて行かれるのであった。

「拒否権ないのかよ…」


 それから俺は日花里に連れられ、体育館裏に来ていた。

「はぁ、それで話って何?」

 俺がため息を吐きつつ尋ねると

「単刀直入に言うわ。私と付き合ってほしいの。」

とそんな訳のわからない返事が返ってきた。まぁ、体育館裏に連れてこられた時点で考えてはいたが、俺には異性から見て魅力的に感じる点がないので、その考えをすぐに振り払っていた。

「なんで?だって俺、君みたいな学校中の人気者に好かれるようなことしてないんだけど。」

 俺が再び尋ねると

「え?昨日のこと覚えてないの?」

とまたしても、意味のわからない返事が返ってきた。

「昨日なんかしたっけ?」


〜昨日〜

「はぁ…邦生と話してたら学校出るの遅くなっちゃったな。早く帰らないと。」

 俺は今、ゲームの新しく追加されたガチャをするために急いで家に帰っていた。そのゲームはスマホでやるのだが、なにせ外でやると重いのなんの。俺が走りながら帰路をたどっていると、

「なぁなぁ、いいじゃん。お茶しようよ。」

「ごめんなさい。用事があるので…」

「まぁ、そんなこと言うなって。」

とナンパのテンプレ的会話が繰り広げられていた。

 普段なら無視をしているが、生憎とナンパが行われている場所は家への最短ルート。この道から別ルートへ移ると20分以上のタイムロスだ。

「ちょっと失礼。ナンパ中にごめんな!」

 俺がその二人の間を突っ切って行こうとすると

「うわっ!」

 俺はナンパ男に襟を掴まれ後ろへ引き止められる。

「人様にぶつかっといて、それはねぇよな。」

 そいつは俺を近くの路地裏まで連れ込み、ようやく俺を掴んでいた手を離した。。

「礼儀知らずのガキには、お仕置きだな!」

 そいつはそんなアニメでも聞かなくなった古いセリフを言いながら拳を放つ。

「うるさい。こちとら急いでんだよ!」

 俺は放たれた拳を軽く捻り上げ、腹に膝蹴りを放つ。

 俺の膝蹴りは見事に命中し、男は悶絶する。

 ナンパを受けていた女の人は、俺と男がやり取りしてる間にどこかへ行ったらしい。俺が路地裏から出ると女の人はいなくなっていた。


「あ、あの時ナンパされてたの君だったんだ。」

 俺が手の平を叩きながら言うと

「そうよ。あなたが危ないと思って警察を呼びに行ってたんだけど、路地裏に行ったら悶絶したナンパ男しかいなくて。」

と言った。

「あぁ、そーゆーこと。俺と付き合えばナンパされても守ってもらえると思ってるのな。残念だが、俺は自分のためにあのナンパ野郎をぶっ飛ばしただけだ。だから、君とは付き合わない。」

 俺はできるだけ冷たく簡潔に言い放ち、その場を去ろうとした。

「待って。私は助けてもらったことに感謝してるの。だから、私はあなたと…」

 それを引き止め次々と言葉を発する彼女に

「あと、俺には心に決めた女がいるんだ。だからお前とは付き合えない。」

と俺は言った。

(これでいいんだ。俺が人に愛されていいはずがない。)

 俺は心中で呟きながら体育館裏から去る。

「絶対に、諦めないから!」

 俺がいなくなったあと、体育館裏に響いた声は誰にも届かずに消えていった。


 体育館裏から校舎に戻ると、邦生がこちらに歩み寄ってくる。

「お、おい。拓夫!どんな要件だったんだ?」

 顔を近づけ息を荒らげながら聞いてくる邦生に俺は

「とりあえず離れろ。」

と言ったあと、告白された事とそれを断った事を伝えた。

「えー!お前断ったのか?頭大丈夫か?」

「声がでけぇよ。それに、お前なら断った理由はわかるだろ。」

 俺は大声で騒ぐ邦生を落着かせながら言った。

 そう邦生は俺の幼馴染。俺の過去を知る彼ならば、俺がなぜ告白を断ったか言わないでもわかるのだ。

「そうだな。まぁ、元気だせよ。おっと、もうこんな時間だ!教室戻るか。」

 スマホの時計で時刻を確認すると、もうすぐで昼休憩が終わる時間を示していた。

「そうだな。戻ろう。」

 俺と邦生はゆっくりと教室に戻り、チャイムと同時に午後の授業に励むのであった。


「ふー。今日は疲れたな…」

 帰路にて俺こと虹野拓夫は言葉を零していた。

「早く帰って『ヒマワリちゃん』を育成しないとな。」

 ヒマワリちゃんとは、俺の推しだ。ここでヒマワリちゃんの良さを語ってもよいが、それはまた別の機会にしておこう。

 俺はいつも通り少し早足で帰っていた。だが、帰路にはいつもと違う光景があった。

「あいつ何してんだ?」

 そこには10人ほどの男と、そいつらに口説かれてる河井日花里がいた。

 俺がその道を避けて通ろうとすると

「あ、虹野くん!」

 彼女に声をかけられてしまった。

 他人の振りをして無視しようかと思ったが、あちらは手を振りながら歩み寄ってくる。

「なんのよう?今急いでるんだけど。」

 俺の目の前まで来た彼女に、俺は冷たく言う。

「そんな露骨に嫌そうにしなくてもいいじゃない。別にまた告白しようとかじゃないわよ。」

 そんなことを言う彼女に「それで何の用?」と聞く。

「あなたには、私と友達になってほしいの。」

 すると、彼女は俺の予想していなかった言葉を吐く。

「え?」

 俺の口から零れたのはそんな間抜けな声だった。

「友達ってどうして?てか、告って振られた後なのに気まずくないの?」

 俺がすぐに問い直すと

「多少気まずいけど、友達として関わって私のことを知ってもらえれば、もしかした虹野くんから告白してくる可能性があるでしょ。私はあなたにナンパ除けを頼むために告白したわけではないの。本気であなたが好きだから告白したのよ。だから、少しの不満はあるけど、そばにいられるだけで私は嬉しいよ。」

と彼女は少し頬を赤らめながら答えた。

 その様子に俺は少し萌えてしまった。例えるなら、ツンデレ妹が急にデレてくれた時みたいな感じだ。

「わかった。好きにしろ。」

 俺のその言葉に少し目を輝かせた彼女に「ただし」と付け加えた。

「一緒に登下校だとか、好きあらば俺の所に来るとか、変な噂が立つようなことは止めてくれよ。わかったな?」

「うん!もちろんだよ。」

 俺の条件に対して彼女から、元気のいい返事が返ってきた。

 この瞬間から俺の平穏な暮らしはハチャメチャな暮らしへと変わるのであった。


次回に続く

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