第七話 変わらぬ性格

第七話 変わらぬ性格

「龍宮さん、そういえばなんで俺って鍛えられてるんでしたっけ?」

 ある日の朝、俺は龍宮さんに尋ねていた。

「うん?俺は知らないぞ。仁美さんに頼まれたから、やってるけど、どういう理由で鍛えてるんだろうな。」

 俺の質問に対して龍宮さんは答える。

「まぁ、そんなことはどうでもいい。今日も特訓がんばるぞー!」

「おー!」

 俺と龍宮さんが右手を突き上げて、ふざけていると

「ちょっとシリアスな雰囲気だったのに、台無しだよ!」

と恵美からつっこみが飛んできた。


「あぁ、1限目から英語かー…」

 俺は学校にて言葉を零す。

「どんまい。」

 すると背後から声が聞こえた。

「いや、なんで当たり前のようにこのクラスにいんの?お前のクラス隣じゃん。」

「え、暇だから?」

 俺が声の正体、天野恵美に問いかけると間髪入れずに返答がくる。

「クラスに友達いないんか?」

 俺がため息を吐きつつ言うと

「と、友達くらいいるし…ただ、他の人に見えないだけで…」

と悲しい返事が返ってくる。

 この世界において『透明人間』は能力によっては存在しないこともないが、恵美の言い方から空想の友達だとわかる。

「なんか悪いな…話相手になってやるから落ち込むな。」

「ほ、本当にいるんだけど、仕方ないから話してあげる。」

 俺の言葉に腕を組んで目を逸らしながら言う恵美に、俺は優しく微笑んで

「じゃあ、話相手になってもらおうかな。」

と言うのだった。

 それから特に何もなく授業をこなしていたら、時刻はお昼過ぎ。授業は5限目となっていた。

「次は能力体育か…放課後の特訓あるから、体力は使いたくないのになぁ。」

 俺が愚痴を零していると

「な、なぁ…おち、神崎。今回の体育なんだけど、一緒にペアを組んでくれないか?」

と少し前まで俺をいじめていたリーダーの男に話しかけられていた。

「え?なんで?」

 俺は無表情を貫きながら、冷たく言い放つ。

「えっと、いや、その…」

 目の前の男は、若干怯えた様子で言葉を紡ぐ。

「あの日、俺達が神崎にボコられた日。あの日以来、俺達は周りから避けられるようになったんだ。まぁ、いじめをしてたんだ、当然の報いとわかっている…」

 その後も彼の説明は続く。

 内容を簡単にまとめると、俺がいじめっ子達に仕返しをした日を境に彼らは学校中で避けられる様になった。授業などでペアを組むときも例外でなく、いじめっ子達でペアを組んだり、先生と組んだりしていたらしい。

 そして、リーダーであったこの男へはいじめっ子達の中でも避けられていた。

 今回、どういう思考のまとめ方をしたらこうなるのか理解できないが、この男は俺と仲直りするために俺を誘ったらしい。

「事情は理解した。でも、それって俺が許す理由にもならないし、たとえ俺が許しても行為そのものがなかったことにもならないんだよ?あと、俺と真城しんじょうくんとじゃ相性が悪いから、そもそもペアを組むつもりはないよ。」

 俺は表情を崩さずに言う。

 ちなみに真城くんとは、いじめっ子のリーダーの名前だ。

「は?何言ってんだ?」

 俺が断ると、真城くんは表情を一変させて俺を睨む。

 俺は知っている。人間はそうそう変わらないと。俺が彼の謝罪を聞き入れなかったのは、そのことを理解しているからだ。

 これは小さい頃からおばさんに言われてきたことだ。

 おばさんは「心が汚れた人は何をしても変わらない。壱はそんな人にはならないでね。そして、そんな人の言うことは信じちゃだめよ。」と俺に言っていた。

「俺が下手したてに出てれば調子に乗りやがって!」

 真城くんは能力を発動させ、青色のオーラを纏う。

 これは下半身の強化だ。

「1回俺達に勝った程度で調子に乗んじゃねぇ!」

 彼はそう言って床を蹴る。

 彼はすごい速さで迫ってくる。が、ここは教室。俺は近くの机を彼との間に移動させる。

 とたん、ドカンと大きな音が教室に響いた。

 廊下にいた生徒の視線が集まる。

「った!…」

 ものすごい勢いで太ももを強打した真城くんは、手で太ももを抑えながら悶える。

「真城くん。すごく痛がってるところ悪いんだけど、このお遊びはいつまで続けるの?」

 俺が周りに聞こえないように声を抑えながら言うと

「んだと!」

と怒鳴る真城くん。

 そんな真城くんに、俺は目で「周りを見ろ」と促す。

「俺的には、ここで問題になってダルいことになるのは避けたいんだけど。真城くんは、まだ続ける?」

 俺は先程と同じ声量で聞く。

「チッ!覚えてろよ…」

 すると彼はそう言って、脚を引きずりながら去って行く。

 俺は、どこまでも昭和な真城くんを見送ったあと、机を元に戻してから体育館へと足を運ぶのだった。


 現在は能力体育の授業中。俺は先生と共に、戦闘用のロボットと軽めの戦闘をしていた。

 戦闘用のロボットは人型で、腕と脚には安全用のクッションが巻いてあって、胸からは遠距離攻撃を再現するためにボールが飛び出るようにもなっている。

「神崎、最近動きが良くなったな。学校生活でも少し明るくなってきたし、先生は嬉しいぞ!」

 体育教師、熱井先生はロボットの攻撃をさばきながら言う。

 ちなみにこの授業、普通はクラスの中で攻撃系能力者とサポート系能力者がペアを組んで行うのだが、すでにクラス内ではグループが完成されており、俺は組む相手がいないので攻撃系能力者の先生と組むことになった。

 熱井先生は身体強化系の能力者で、なんなら真城くんと組んでもよかったのではと思う人もいるだろうが、そういう問題ではないのだ。

「これで終わり!」

 俺はロボットの腹部にある電源ボタンを押して、戦闘を終了させる。

 俺が本気を出せば1人でもロボットの相手をできるが、授業の決まりでツーマンセルだし、龍宮さんにも本気を出すのを禁止されているので実力をセーブしている。

「よっし、神崎の評価はB+っと。じゃあ、次─」

 それから、他の生徒の戦闘も終わり授業が終了した。

 今日は5時間授業なので、その後はホームルームを済ませて俺は教室を出る。

「恵美ー、さっさと行くぞー。」

 俺は隣の教室に寄り恵美を呼んだ後、学校をあとにする。

「神崎くん、さっき喧嘩してたけど大丈夫?」

 帰り道、俺は恵美にそんなことを尋ねられた。さっきとは5限目前のあれだろう。

「あぁ、恵美も見てたのか。見てたらわかると思うけど、俺は全然だいじょう…」

「いや、本気出してないよね?ってこと。」

 俺が答えていると、言葉を遮るように恵美が言う。

「俺を心配してんじゃないのかよ…まぁ、安心しろ。俺はただ、机を相手の進行方向に置いただけだから。俺自身は何も危害を加えてない。あっちが勝手に脚をぶつけただけだ。」

 俺が肩を落としながら言うと

「なんか、相手の人が可哀想に思えてきた…」

恵美が引きながら言う。

 そんな雑談をしていると、俺達は目的地へ着いた。

「龍宮さん、着きましたよ…ってその人どうしたんですか?」

「おぉ、着いたか。こいつは知らん。」

 そして俺が最初に目にした光景は、いつも通り全身黒服で平然と立っている龍宮さんと、その手に首を掴まれたボロボロの男だった。

「え?知らないって…それ、まずい気が…」

 龍宮さんの発言に恵美は言葉を零す。

「大丈夫、大丈夫。こいつから攻撃してきたから殴っただけだしね。能力も使ってないからセーフ!正当防衛、正当防衛。」

 龍宮さんは、男の体をぶらぶらと揺らしながら答える。

 そして龍宮さんは男を拘束し、地面に横たわらせると

「さて、特訓しよっか!」

パンッと手を叩き、何事もなかったかの様に笑顔を向ける。

「はーい。」

 龍宮さんに何を言ってもムダだと理解した俺は、考えることを止めて特訓の支度を始める。

「え?え?」

 そんな中恵美は、龍宮さんと横たわる男を交互に見ながら困惑の声を上げるのだった。


「えいっ!はっ!」

 恵美の拳が俺の目の前を通り過ぎる。

「もっと当てることに集中して。」

 俺は現在、恵美の特訓に付き合っている。

 なぜ龍宮さんがやらないのか。それは、龍宮さんが先程の男を見張るためだ。

 恵美は俺と練習することで成長して、俺は教えることにより自分を振り返り成長できる。そして手が空いた龍宮さんは見張りに集中できる。実に合理的だ。

 龍宮さん、性格は随分とテキトーなのだが、戦闘に関しては確かなモノがある。

「おりゃっ!」

 恵美が大きく腕を振る。

 俺はその攻撃を難なく交わすと、思考を巡らせる。

 俺が龍宮さんに言われた内容は、教えることで自分の改善点を見つけるだけでなく、恵美の一撃に対して10通りの反撃手段を考えることだった。

「もっと的となる相手を見て。」

 俺はアドバイスをしながらも何通りかの反撃手段を模索する。

 それからも俺達の特訓は続き、気づけば日は沈みかけていて空は真っ赤だった。

「はぁ、疲れたぁ…」

 今日の特訓を終えた恵美は、地面に大の字になる。

「2人共、お疲れー。」

 そこに龍宮さんが近づいてきて、労いの言葉をくれた。

 龍宮さんの手には、当然の様に男が掴まれている。

「結局その人どうするんですか?」

 俺が、まだ気絶している男を見ながら言うと

「とりま尋問かな。これでも警察だから、尋問は上手いんだよ。」

龍宮さんは、「どうよ!」と言わんばかりの顔で言葉を返す。

「ん?・・・はっ!」

 俺と龍宮さんが話していると、突然男が目を覚ます。

「おっと、起きたか。それじゃあ、色々と吐いてもらうからねー。」

 龍宮さんは俺にホテルの鍵を渡してから、男と一緒にどこかへ消えた。

「恵美ー。ホテル戻るぞー。」

 そして残された俺と恵美は、特にやることもないのでホテルに戻るのだった。


 ホテルに戻ってから約1時間、時計が7時を指すと龍宮さんは戻ってきた。

 その手に男は掴まれておらず、かわりに彼の背後に怯えた様子の男が立っている。

「はーい、壱。すこーし、お話があるよー。」

 そして、龍宮さんは口を開くと笑顔でそう言った。だが、その笑顔は貼り付けた笑顔に感じられ、俺は唾を呑み込む。

「この人ね、俺を襲ってきた原因が彼の弟の復讐なんだって。なにか心当たりあるよね?」

 正直、心当たりはある。というか、今日も関係ありそうな出来事もあったし…

「えっと、その人のお名前は?」

 俺が確認すると

「真城。」

と龍宮さんが答える。

(うん、確定だわ。)

「心当たりありますね。今日もやらかしましたし…」

 俺が言うと

「壱、いいか?バレなきゃ犯罪じゃないんだ。」

と龍宮さんは警察らしからぬ発言をする。

「やらかしたら、後始末は完璧にするんだ。」

 その表情からは、それが冗談なのか本気なのかはわからない。

「まぁ、つまりだな…俺が言いたいのは、口封じはしっかりしとけってことだ。あとお前、少し前からつけられてたらしいから警戒を身に着けような。」

 龍宮さんはそういうと、後ろの男に視線を向け

「で、一応そっちの企みはバレたわけだけど、まだ何かするか?」

と言う。

「・・・」

 龍宮さんの質問に男が口を閉ざしていると

「壱も、もしこいつが仕掛けてくるなら、自分で対処しろ。これはお前の問題だ。」

 龍宮さんは、俺に視線を戻して言った。

「えっと、そーゆー訳なんですけど…どうします?」

 俺は後頭部を掻きながら真城兄に問う。

「・・・━━━━━」

次回に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る