第六話 戦いの火蓋

第六話 戦いの火蓋

 俺と龍宮さんの戦闘が終わり、現在は恵美と龍宮さんが戦闘態勢に入っていた。

 龍宮さんは先程俺と戦ったというのに、全く疲労を見せていない。

「恵美ちゃん。準備ができたら好きなタイミングで来てね。」

 龍宮さんは余裕の表情を浮かべながら言った。

「めぐみー、がんばれー!」

 俺はとりあえず恵美を応援する。

 そして少しの間静寂が辺りを包み、それから恵美の走り始める足音によって戦いの火蓋が切られる。

 まずは恵美の蹴りが放たれる。

 だがそれは空を切り、龍宮さんが隙を見て恵美の背後へ移動する。

「恵美ちゃん、むやみに攻撃してても当たらないよ。」

 恵美は背後の龍宮さん目掛けて拳を振るが当たらず、一旦距離を取った龍宮さんはそう言った。

 能力者が能力を使わないで戦闘するのはとても珍しい。

 龍宮さんは戦い慣れている様子だが、素人の恵美がいい動きをできるわけない。

 プロの格闘家でも能力を使わないと、戦闘力が大幅に下がるのだ。

 戦闘経験が少ない学生の恵美が能力を使わずに勝てる可能性はほぼ0だろう。

 そんな恵美は現在、龍宮さんの動きを集中して見ている。

「恵美ちゃんが来ないなら俺から行っちゃうよ!」

 そんな彼女の様子を見た龍宮さんは、地を思い切り蹴る。

 その速さに驚いた恵美は、とても焦っていた。おそらく、避けるか反撃するか迷っているのだろう。

 そんな彼女にスピードを落とすことなく龍宮さんは接近する。

「はい。そこまで!」

 そして接近しきった龍宮さんは恵美の肩に手を置き、言葉を放つ。

「恵美ちゃんの実力はだいたい理解した。明日から本格的に特訓を始めるから覚悟してね。」

 龍宮さんは笑顔を俺達に見せ、2人に向けて告げる。

〜次の日〜

 学校を終えた俺達は龍宮さんのもとへ行き、特訓をしていた。

 俺は龍宮さんと体術を、恵美はその様子を見ながら体の動かし方を学んでいる。

「壱、もう少し距離を詰めて攻撃。」

「はい。」

 俺は本気で龍宮さんを攻撃するが、龍宮さんは危ないとき以外は避けるだけだ。

 目標は龍宮さんにガードをさせることなのだが、龍宮さんはガードどころか避けながらアドバイスまでする。

 そんなことを現在、2時間近くやっていた。

 恵美は、それを見てメモを取り自主練をしている。

 そして、練習をしていること3時間。俺達は今日の特訓を終えた。

「恵美、初めての特訓どうだった?」

「難しかった。というか神崎くんの身体能力どうなってんの?あんなに激しい攻撃を何度も打ち続けて、疲れないの?」

 俺は恵美に質問していたはずなのだが、気づけば俺が質問攻めされていた。

「身体能力は子供の時からこんな感じで運動は得意だった。体力は岩本さんとのランニングとか筋トレの方がキツかったから、多少疲れたけど全然平気。」

 俺が答えると

「あの誘拐されそうになった時も思ったんだけど、神崎くんって本当に無能力者?『実は身体強化系能力者でーす』みたいな感じじゃないの?」

 恵美がなぜか、疑いの眼差しを向けてくる。

「まぁ、神様が能力の代わりにくれたんじゃね?知らんけど。」

 そんな恵美に俺は適当に返事を返す。

「おーい。2人とも、そろそろ行くぞー。」

 俺達が話していると、龍宮さんが俺達のもとへ来た。

 ちなみに、これからしばらくはホテルで生活する。

 龍宮さんの家は少し遠くにあり俺達も学校があるので、特訓の効率を考えて近くのホテルに泊まることになったのだ。

 最初は俺の家に泊まってもらうことも考えたのだが、恵美がなぜか少し恥ずかしがっていたので、なしになった。

 それから数十分、俺達はホテルへと歩いた。

 ホテルに着くと、龍宮さんは部屋を2つ取った。

 前々から思っていたのだが、ホテル代はどうやって得ているのだろう。

 俺は疑問に思う。

「龍宮さん。ホテルの代金って龍宮さんが払ってくれてるじゃないですか。」

「うん。そうだね。」

「お金って大丈夫なんですか?」

 俺は抱いた疑問を包み隠さず、直接確認する。

「あぁ、お金なら仕事でたんまりと貰えるから。」

 すると龍宮さんは、さも当然のように答えた。

 確か、龍宮さんの仕事は警察だったはず…

 だが、警察のお給料でこんなに贅沢できるものなのか?

「俺の仕事は、働いて成果を上げた分だけお金が貰えるから。」

 龍宮さんは俺の考えていることを察したのか、説明をしてくれる。

「でも、警察って公務員なんじゃ?」

「普通の警察はね。能力戦闘科は特殊なんだよ。普通の警察よりも命賭けて働いてるから、動けば動くだけ報酬も増えるってわけ。」

 俺の質問に対して、龍宮さんはわかりやすく教えてくれた。

「まぁ、お金のことは気にせずに泊まってくれたまえ。」

 龍宮さんは俺の背中を叩きながら、笑って言う。

 それから、俺達3人はホテルでご飯を食べたあと就寝した。

〜次の日〜

 今日は土曜日。学校は休みだ。

 まぁ、特訓で動きまくるから休めないんだけど…

 ちなみに俺も恵美も帰宅部なので、放課後も休日も特訓に専念できる。

「壱おはよー。」

「おはようございます。」

 ちなみに部屋割りは当たり前だが、俺と龍宮さん、恵美の組み合わせだった。

 龍宮さんが目を覚まし、俺と挨拶を交わす。

「恵美ちゃんを起こして、一緒にご飯食べに行こ!」

 龍宮さんは朝からテンションが高い。

 服は黒なのに、性格が明るすぎる。

 なんか、服のセンスはその人の内面を表すみたいなことを聞いたことあるのだが、この瞬間デマだとわかった。

 パジャマから普段着に着替えた俺は携帯の電源を入れ、恵美に電話をする。

『神崎くんどうしたの?』

 電話をすると、眠そうな恵美の声が聞こえてきた。

「あぁ、朝食食べに行くから知らせに…」

 俺が言うと

『それなら部屋まで来てくれてよかったのに。』

そんな返事が返ってきた。

「は?!?!お、お前。え?」

 俺は突然の話にテンパっていた。

 俺も男子高校生。

 そして、恵美は女子高校生。まぁ、見た目は中学生だが…

 男子高校生が女子高校生のいる部屋に行くのはアウトだろう。

 だが恵美が発した言葉は、その行為を肯定するものだった。

 そして、しばし時間が経ち

『あ、やっぱ今のなし。忘れて。』

と俺と同じく焦った恵美が、そう言ってブツッと電話を切った。

「忙しいやつだな…」

 落ち着いた俺はそう呟きながら食堂まで移動する。

 モーニングはバイキングだった。

 俺は朝食を取らない派だったのだが、岩本さんのトレーニングメニューに朝食という項目が含まれており気づけば朝食を取るのが普通になっていた。

 俺はバイキングを心ゆくまで堪能した。

 食事中、恵美とは多少気まずかったが龍宮さんのサポートもあり、関係が悪くなることはなかった。

「ふー、食った食った。そろそろ特訓し始めるか…」

 食事が終わったあと、龍宮さんは体を伸ばしながら言う。

「今日も昨日と同じメニューですか?」

 俺が聞くと

「それでもいいが、せっかくの土曜日だ。ちょっと特別なメニューにしようと思ってる。」

と返ってくる。

「特別なメニュー?」

 疑問を口にしたのは恵美だ。

「あぁ…俺の知り合いと俺の模擬戦を見て能力者の戦いがどういう物かを知ってもらうつもりだ。格闘技やロボット相手の戦闘とは全然レベルが違うぞ。見てて面白いから、楽しみにしてな。」

 龍宮さんはニッと笑った。

(発言が戦闘狂なんだよなー…)

とは口に出さないものの、恵美の表情から同じことを考えていることが伝わってくる。

 それから、俺達は龍宮さんに連れられて大きな屋敷の前まで来ていた。

 ネームプレートには『炎堂』と彫ってある。

「邪魔するぞー。」

 龍宮さんは木製の門を力まかせで押し、こじ開ける。

 家主の許可なく家に侵入する龍宮さんを、俺と恵美は口をポカンと開けながらただ呆然と見ていた。

「入らないのか?」

 そんな俺達に龍宮さんは首を傾げながら尋ねる。

「え、いや、だって…」

 俺が口をパクパクさせていると

「まぁーた、お前は勝手に…」

と屋敷の扉から赤髪の男が顔を出した。

 服は和服で、体はかなり大きい。袖から出る腕には龍の入れ墨がある。

 見た目はほぼヤクザだ。でも、男は警察である龍宮さんの知り合いなのだ。ヤクザなわけがない…

 俺は自己完結したのだが

「おっと、この子達が訳アリの少年少女か。自己紹介しねぇとな。俺の名前は炎堂えんどうりゅうだ。組長をやっている。」

と彼の自己紹介とともに彼の職業がヤクザだと知らされた。

「龍宮さんって警察ですよね?」

 俺は龍宮さんに確認した。

「うん、そうだよ。」

「ヤクザとこうやって接触していいんですか?」

「普通はダメだね。」

「大丈夫なんですか?」

「頑張れば…」

「何をですか?!?!」

 俺は淡々と述べられる言葉に不安しか覚えなかった。

「まぁ、今は気にせず特訓しよ!」

 パンッと手を叩いた龍宮さんは元気よく言った。

 それから俺、恵美、龍宮さん、炎堂さんの4人は屋敷の庭まで移動し、俺と恵美は縁側に座る。

 龍宮さんと炎堂さんは戦闘態勢に入る。

 二人の雰囲気は先程と打って変わっていた。二人からは殺気が溢れ出ている。戦闘素人の俺でも感じ取れる程の殺気だ。

 庭に植えられた木の葉が風で舞う。

 それが落ちると、戦闘が始まる…わけではなく、二人は

「開始の合図どうするか…」

「そうだなー。」

殺気を引っ込め、そのように話す。

「壱ー。小石投げてー。」

 龍宮さんは俺に小石を投げ渡し、言う。

 俺は言われた通りに小石を投げる。

 石は静かに落ちる。次こそ石が落ちた瞬間、戦闘が始まった。

 戦闘は激しかった。

 炎堂さんの能力は炎系の能力だった。

 龍宮さんが目にも止まらぬ速さで炎堂さんに接近するが、それを炎で壁を作り防ぐ。

 炎堂さんが炎の球を顕現させ、龍宮さんに放つ。それを龍宮さんがシューティングゲームのように躱す。

 そのような激しい攻防が続いていると

「怒れ、燃えよ、喰らい尽くせ!炎竜!」

炎堂さんが、必殺技と思われる名を叫ぶと炎がうねうねと宙を舞う。その様子はまさに炎を纏った竜だった。

「ぶっ!うはははは…」

 それまで殺気をびんびんにして、走り続けていた龍宮さんは笑った。その様子には殺気も覇気も感じられない。それだけではなく、警戒心すらも薄れていた。

 そんな腹を抱えて笑っている龍宮さんを捉えた竜は、勢いよく進む。

 竜が龍宮さんの眼前まで行き、龍宮さんを燃やし尽くす直前、竜は消えた。

 厳密に言えば炎堂さんが消したのだ。

「うっし、勝負ありだ。今回は俺の勝ち。これで842勝900敗だな。」

 炎堂さんは龍宮さんに手を貸しながら言う。

(は?今、とてつもない数字が聞こえたんだけど。この人達どんだけ戦ってんだよ。)

「それはいいとして、龍はアニメの見すぎだ。笑っちまったじゃねぇかよ!」

 龍宮さんはゲラゲラと笑いながら言った。

「まぁ、そんなことより…壱、恵美ちゃん、感想聞かせてー。」

 龍宮さんは息を整えながら、俺達に尋ねた。

「とってもすごかったです!」

 すると恵美が目を輝かせながら言った。

「特にえんりゅ…ふふ、炎竜とかすごかったですね。」

 俺は恵美に続いて感想を言う。

 だが、笑いを堪えきれず吹いてしまった。

「おいおい、笑ったら可哀想だろ。ふふ…」

 龍宮さんが笑いながら言う。

「お、お前ら…」

 その光景を見た炎堂さんは怒りか羞恥心かわからないが、顔を真赤にさせ

「燃え尽きろ!!」

とバスケットボールくらいの大きさの炎を、俺達に飛ばした。

「「あっぶね!」」

 その炎を横に飛ぶことにより躱す。

 さすがヤクザと言ったところか、人に能力を放つことに躊躇がない。

「ちっ!天はともかく、壱だったか?お前まで避けるとはな…」

 一瞬、名前をなんで知ってるのか疑問に思ったが、事前に龍宮さんから知らされているのだと理解した。

「おう。すげーんだよ、俺の壱は。たったの1日で能力の回避をマスターしたんだぜ。」

 龍宮さんは自分のことのように言う。

 色々と言いたいことはあるが、まぁ褒められているので嫌な気分じゃない。

「は?ガチで?1日ってヤバ…」

 炎堂さんが目を大きく開き驚く。

「俺なんて能力ぶつけて相殺するので精一杯で避けるなんてムリだぞ。」

 俺や龍宮さんは短期間で習得していたので感じていなかったが、そうとうすごいらしい。

「そうだ!いい機会だし、壱も龍と模擬戦してみてら?大丈夫、死にはしないから。」

 龍宮さんは「名案だ!」と言って提案する。

「お、それいいな。さっき笑ったこと後悔させてやる、」

 そして、炎堂さんは乗り気だ。

「え、えぇ…ムリですって。」

 俺は断るが

「いいじゃねぇかよ。組長相手に命の保証ありで戦えるなんて、そうそうないぞ。」

 炎堂さんが俺の肩に手を置いて言う。

 だが、その目は笑っていない。どうやら笑ったことを、そうとう根に持っているらしい。

「は、はぁ…じゃあ、やらせてもらいます。」

 断ってもムダだと察した俺は、ムダな抵抗を辞め模擬戦に挑戦するのだった。

 一通り模擬戦のルールを教えてもらった俺は戦闘態勢に入っていた。

 ちなみにルールは、『殺さない』『開始の合図があるまで攻撃をしない』という単純なものだった。龍宮さん曰く、骨の1本2本は覚悟したほうがいいらしい。

 そんなこんなで、俺と炎堂さんは互いに見つめ合い、龍宮さんの放った小石の着地とともに模擬戦が開始された。

 先手必勝、俺は出せる力を脚に集中させ地を思い切り蹴る。

 だが、俺の進行ルートに炎堂さんの放つ火球が飛ぶ。

 かかとを使って後ろに飛ぶことにより、俺はそれを躱す。

「マジか、これも避けれるのかよ…」

 炎堂さんが言葉を零す。

「へへ、もう少し速くてもいけますよ。」

「ほほぉ、ならやってみるか!」

 炎堂さんは両方を俺にかざし

「吹き飛ばせ、ファイアーマシンガン!」

と技名を叫び炎を高速で何発も撃つ。

「「ぶっ!」」

 それを聞いて、俺と龍宮さんが吹き出した。

 だが、俺は笑いながらもファイアーマシンガンを躱す。

「笑うな!」

 炎堂さんは叫びながらファイアーマシンガンを止め、大きな炎を作り出す。

 その姿は鳥そのものだ。

不死鳥フェニックス!」

 その炎はあまりの熱で中心が時々青くなる。

 さすがにそれは、かっこよかったので笑えなかった。

 代わりに俺は、全力でそれを回避するために走り回る。

 そして、なんとか不死鳥を躱すことに成功した俺は目を見張った。

 俺の目の前に拳を固めた炎堂さんがいたのだ。炎堂さんはその拳を俺の腹部に叩き込む。

 不意の攻撃をもろに喰らった俺は倒れ、模擬戦に決着がついた。

「安心しろ、みね打ちだ!」

 炎堂さんが「決まった」と言わんばかりに決め顔をした。

「龍…1日にどんだけアニメ観てるんだよ。てか、パンチに峰もクソもねぇよ」

 珍しく龍宮さんがツッコミを入れていると

「神崎くん大丈夫?」

と恵美が手を貸してくれる。

 しばらく影が薄かった恵美に俺は

(天使かよ…)

と心中で呟く。

「なんか今、貶された気がする…でも褒められた気もしなくもない…複雑だなー。」

 恵美が言う。

(え?恵美の能力って実はエスパー?)

 俺は内心ドキドキしつつ、立ち上がり

「ありがとな。」

と恵美に感謝を述べる。

 すると、恵美がなぜか顔を逸した。

「?まぁ、いいや。」

 俺は特に気にせずに龍宮さん達のもとへ行く。

「龍と戦ってみて学んだことはあるか?」

 着くと、龍宮さんに尋ねられる。

「えぇ。回避だけに意識を向けると不意の攻撃に反応できないので、そっちにも意識向けなければならないとわかりました。」

 俺が答えると

「おい天。壱ってなにもんだ?1回の戦いでここまで学習するなら、いつか俺もお前も越されるかもしんねぇぞ。」

お褒めの言葉を頂いた。

 その後は炎堂さんがお昼ごはんをごちそうしてくれた。

 ヤクザはタイとかそこら辺の和食を中心に食べていると思っていたが、そんなことはなく洋食のステーキが出てきた。

 それから昼食を終えた俺達は、炎堂さんの家を出てホテルに戻り、いつもの日常に戻るのであった。

 ちなみに炎堂さんと交換した連絡先のアイコンがかわいい女キャラクターで名前が『闇の炎』だったことは別のお話である。

次回に続く

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