第五話 黒の帰還
第五話 黒の帰還
おばさんと別れた俺達は、岩本さんの家へ来ていた。
そして、岩本さんの家の玄関前には龍宮さんがいた。
「よぉ、健に壱!元気にしてたか?」
龍宮さんは相変わらずの全身黒服で、知らない人が見れば空き巣に入ろうとする不審者だ。
「天か…用事は済んだのか?」
「あぁ、壱のトレーニングありがとな。」
岩本さんが面倒くさいと言わんばかりの表情で言うが、龍宮さんはお構いなしに肩を組む。
「君が恵美ちゃんだね。俺の名前は龍宮天だ。よろしく!」
岩本さんと肩を組んだまま、龍宮さんは自己紹介する。
「はい。よろしくお願いします。」
恵美は、龍宮さんにお辞儀をする。
そんなやり取りをしていると、岩本さんが「そろそろ離せ!」と龍宮さんの腕を捻り上げる。
「いてててて。ギブキブ!」
涙を浮かべながら叫ぶ彼の姿は滑稽としか言いようがなく、俺と恵美はクスクスと笑った。
「ところで、一応俺が帰ってきたわけだけど、健はこれからどうする?これからも、壱達のトレーニングを監督するか?」
龍宮さんは、襟を直しながら問う。それに対し岩本さんは
「それでもいいんだが、俺も仕事があるからな…今回はお前の頼みだから無理を言って長期休暇を貰ったが、ずっと休むわけにはいかない。」
と返事をする。
それから俺、恵美、岩本さん、龍宮さんの4人は少し話した後、岩本さんの家に上がり今後の方針について話し合っていた。
「俺が戻ったから、とりあえず俺が壱の面倒を見るけど、恵美ちゃんはどうする?一緒に特訓する?」
龍宮さんが尋ねると
「お願いします。」
と恵美は答える。
「じゃあ、まず恵美ちゃんの能力を教えてもらえる?」
「おっと、それは俺が答える。」
龍宮さんが聞くと、彼の隣に座る岩本さんが口を開く。
「恵美ちゃんの能力は『自然を集める能力』なんだが、能力変化後で能力が使えないんだ。」
「へー。じゃあ、能力を伸ばすよりも基本的な体の動かし方を教えたほうがいいってことだね。」
龍宮さんは岩本さんの言葉に頷く。
「そうだ。能力で思い出したが、壱が無能力者だって俺に黙ってたよな?俺に隠し事してただで済むと思うなよ?」
「おっと怖い怖い!」
岩本さんの発言に対して、笑いながら立ち上がる龍宮さん。だが、立ったと思った瞬間、そこに龍宮さんの姿はなかった。
「壱、助けてくれ。頼む!」
俺が目を見開いていると、背後から声がした。龍宮さんが能力を使い超スピードで来たことを理解するまでに少し時間がかかった。
龍宮さんは腕の身体強化を得意とするらしいのだが、これを見る限り脚の強化も可能らしい。
「ちょ、こんなことで能力って使うもんなんですか?てか、あなたの方が強いですよね?俺に頼らないでください。」
俺が、こちらに歩み寄ってくる岩本さんにビビりながら言うと、「そこをなんとか!」と頼まれる。
「い、岩本さん。落ち着いてください。龍宮さんだって、おばさんに口止めされてたんですよ。ですよね?」
俺が龍宮さんに問うと、頭をポリポリ掻きながら
「いやー。説明するの忘れてた。さっせん!」
とウィンクして言った。
イラッとした俺は、龍宮さんから少し離れて
「岩本さん、やっちゃってください。」
と言う。
「おい、裏切り者!」
そんな意味の分からないことを叫ぶ龍宮さんを無視して、俺は岩本さんの隣に並ぶ。
俺と岩本さんが、ゆっくり龍宮さんに近づいていると
「あはははは。」
と笑い声が響く。
声のしたに振り返ると、恵美がお腹を抱えながら笑っていた。
その笑い声につられ、みんなが笑う。
だが、岩本さんはしっかりと龍宮さんを殴っていた。
「まぁ、とりあえず明日からは俺が鍛えるからよろしく。健もありがとな。」
笑顔で言う龍宮さんに
「おう。」
「はい。」
「よろしくお願いします。」
とみんなで返す。
その後は、明日からは龍宮さんが学校まで迎えに来て、そのまま特訓をすることや、特訓内容を伝えられたり、自己紹介を再びしたりして解散した。
〜次の日〜
俺がぼっちで朝の教室にいると、元気よく恵美が教室に駆け込んできた。
「おはよう、神崎くん。」
元気に挨拶する恵美に
「あぁ、おはよう。」
と返し、ため息をつく。
「お前、昨日あんなことがあったのに元気だな…」
俺が言うと
「だって終わったことじゃん。落ち込んでたって仕方ないし、元気が一番だよ!」
と返事を返される。
このポジティブさは羨ましい限りである。
「そういえば神崎くんが無能力者ってこと秘密って仁美さんが言ってたけど、学校で普通にバレてない?」
俺がボーっとしていると、いきなり恵美が質問してくる。
「あぁ、それは俺がおばさんにバレたことを伝えたら、おばさんの知り合いが学校に圧をかけてくれて公になってないんだ。だから、学校の外には俺が無能力者だと知る人はほとんどいないよ。」
俺が答えると、
「色々苦労してるねー。」
と他人事のように言われる。まぁ、他人事なんだけど…
「てか、恵美は先生に能力のこと伝えたのか?」
俺が問うと
「うん。でも、私が言っても信じてもらえないかもしれないから、お母さんに電話で伝えてもらったんだ。」
と返事が返ってきた。
「まぁ、確かに子供の言うことを信じてもらえるかって聞かれると微妙だもんな。」
「だねー。」
俺達が話しているとクラスメイトの一人が近づいてきて
「神崎くんって、天野さんと付き合ってんの?」
と尋ねてくる。
恵美は顔を赤くしてるが顔をブンブンと横に振る。
「いや、俺達は付き合ってないが…てか、恵美もそこまで全力で否定するな。傷つくだろ…」
俺が言うとそいつは
「そっか、変なこと聞いてごめんな。」
と謝り、別の場所へ行ってしまった。
「私達ってそんなに仲良く見えるのかな?」
恵美が聞いてくるので
「一昨日知り合ったにしては、仲がいいほうだと思うぞ」
と返す。
そんな感じで話していると時間はあっという間に過ぎていき、ホームルームの時間が近づいてくる。
「そろそろ教室に戻らないと…じゃあね。」
恵美は言うと、すぐに教室へ戻り俺はホームルームまでボーっとするのであった。
ホームルームが終わり、授業が始まる。
今日最初の授業は『普通体育』だ。体育には『普通体育』と『能力体育』がある。普通体育が能力を使用せずに行う体育で、能力体育が能力を使用する体育だ。
能力体育は、戦闘系能力者とサポート系能力者がコンビを組んで、戦闘用ロボットを戦闘不能にするという内容だ。
ちなみに俺は、見学してもいいと言われているが単位がほしいので戦闘系能力者として出席している。
今日の普通体育の内容はサッカーだ。
「今日はサッカーを行う。まずはチームを発表する。」
俺は体育教師に発表されたチームに分かれた。
「頑張ろうな!」
「あぁ。」
チームメイトの一人が声を掛けてきた。
俺は普通体育が好きだ。無能力者の俺が他の人と同じ土俵で戦うことができるからだ。
(そういえば、普通体育で俺が活躍してから嫌がらせがいじめに変わったな。)
俺がそんなことを考えていると
「早くこっち来てビブス着ろよー。」
先程のチームメイトが手招きしてくる。
「おぉ。少し待ってろ。」
流石に今までぞんざいな扱いをしてきたやつと友達にはなりたくないが、クラスメイトとの最低限のコミュニケイションは取っている。
そして俺がビブスを着てから少し経ち
「始め!」
と教師の合図とともにサッカーが始まる。
最初は俺のチームのボールだ。
俺は開始と同時にゴール前まで走る。
「こっちパス!」
俺が言うと、ボールが飛んでくる。
だが少しだけボールが高い。俺は足に力を込めて跳び上がる。胸でボールを受け止めて、膝に落としてからゴールに向けてボールを蹴る。
ピーとホイッスルがなり得点が入った。
「神崎ナイス!」
それからも俺の運動神経や、仲間のサポートのお陰で試合に勝った。
俺は身体強化系と誤魔化せる様に小さい頃から体を鍛えていた。だから腹筋は割れてるし、岩本さんの特訓メニューにもついていけた。
ちなみに俺は陸上競技が1番好きだ。
「神崎って運動神経エグいよな。本当に能力ねぇのかよ…」
相手チームの一人が声を掛けてきた。
「能力がないからこその運動神経だよ。」
俺はそいつの言葉に軽く返し、水を口に含む。
俺が無能力者だということは基本言ってはだめなのだが、クラスメイト達はあまり気にしていない。
まぁ、気を使われすぎるのも居心地が悪いから、このままで問題ないんだが…
そんなこんなで、授業が終わり俺は教室にて自分の机に突っ伏していた。
理由は次の授業にある。次の授業は英語だ。
英語は授業でなぜやるのかがわからない。今の時代は頭脳系能力者が高性能の翻訳機を発明している。それを使えば俺が日本語しかわからなくても、外国人と会話ができる。
しかも、話によると学校で習う英語と本場で使う英語は異なるらしく、そうなると学校で英語を学ぶ理由がわからなくなる。
俺がぐだくだしているうちにも時間は進み、チャイムとともに授業が始まる。
「今日の授業では、近いうちに行う予定の英語演説にむけて、英語で原稿を書いてもらう。」
先生の話す授業内容は、いつも俺を苦しめる。
『hello! I'm Kanzaki. I talk about…』
俺の英語力は低い。多分、英会話スクールに通う小学生の方が英語力が高い。そのくらい俺の英語力は低い。
授業中はスマホを使うことができないので、翻訳アプリを使うことができない。もちろん先生に聞くこともできるが、俺は英語の先生…いや、ほとんどの先生が嫌いだ。
理由は、俺がいじめられていることに感づいているくせに、見ないふりをしていたからだ。
ただし、体育教師の『熱井先生』と、国語教師の『愛浦先生』は好きだ。二人は、俺の悩みを真剣に聞いてくれたり、いじめの現場を見たら止めに入ったりしてくれた。
クラスメイトに教えてもらったり、簡単な表現を用いることにより、なんとか原稿を書き終えると授業終了のチャイムがなる。
それから、数学、理科、音楽、歴史と授業を終わらせ、ついに下校の時間となっていた。
号令とともに、俺は隣の教室へと向かっていた。
龍宮さんの所で結局会うのだが、なんとなく俺は恵美を呼びに来ていた。
「めぐみー。早く行くぞー。」
恵美のクラスの号令が終わるのを確認した俺は、恵美に声を掛ける。
「どうしたの?神崎くんから来るなんて…」
「俺のイメージどんなだよ…」
「冷静そうだけど、どこか抜けてる。でも強い人。」
「どこか抜けてるってどーゆーことだよ!」
そんなくだらない会話をしながら俺達は校舎を出て、校門へ向かう。
校門前には龍宮さんがいる。当然、全身黒なので怪しさしかない。
「龍宮さん、学校終わりました。」
俺が声を書けると
「おぉ、やっと来たか。」
と龍宮さんが反応する。
「龍宮さん…その格好で先生になんか言われませんでした?」
俺は、見た目完全不審者の龍宮さんに問う。
「全然平気。だって壱が無能力ってことを口外しないように圧をかけたの俺だし、警察だもん。」
龍宮さんは、当たり前のように口にする。
俺と恵美は口をポカンと開けている。
「えっと、色々初耳で驚いてるんですけど、圧をかけたのって龍宮さんだったんですか?」
俺が聞くと
「うん。校長に直接あって、口外しないって約束させたよ。ちなみに警察手帳見せたら、すんなり聞き入れてくれた。」
と龍宮さんは笑顔で答えた。
「その、警察ってのは?」
「俺の仕事。警察戦闘科っていう能力使って暴れてるやつを力で捻じ伏せる仕事だよ。」
龍宮さんは、えっへんと胸を張って答えた。
それから俺達は、そろそろ定番になるんじゃないかと思うその場所に来ていた。そう、広い草原だ。
ここに来たということは、実力を測るために龍宮さんと戦うということだ。
「壱は何するか予想できてると思うけど、恵美ちゃんのために説明するね。」
龍宮さんは恵美の目を見ながら
「今から俺と戦ってもらう。それによって恵美ちゃんの実力を測る。俺は能力を使わないから安心して。」
と俺の時と同じように説明する。
そしてお手本として俺が最初に龍宮さんと戦うことになった。
「壱、あの時からどのくらい成長したか見せてみろ。」
龍宮さんはそう言って、どこからか取り出した石を指で弾く。それが落ちたら開始ということだろう。
俺は石に神経を集中させる。
そして石が落ちたとき、俺は走り出す。
対する龍宮さんは構えてはいるが動かない。カウンターを狙っているのだろう。
俺がカウンターを警戒しながら拳を放つと、龍宮さんはバックステップで躱す。
「動きは良くなってるけど、まだまだ動きが単調だね。」
龍宮さんはそう言いながら動きを変える。
龍宮さんは体を屈めて拳を握る。
俺は少し距離を取って龍宮さんの動きを観察する。
能力を使用していないので昨日の様に気づいたら背後ということはない。
それでも油断をすると懐に入られてしまうので、一瞬たりとも気を抜けない。
「警戒するのもいいけど、攻撃しないと始まらないよ。」
龍宮さんはそう言って俺に急接近する。
以前は焦って攻撃を急いだことにより、難なく受け止められてしまったが今回は少し余裕がある。
ものすごい速さで迫ってくる龍宮さんに俺はあえて近づく。予想外の行動だったのか彼は目を見開く。
「勝負ありです。」
俺は体を屈め懐に忍び込んだ後に、拳を放つ。
拳が何かに当たった。だが拳を見ると、そこには彼に掴まれた俺の拳があった。
直後、額に衝撃が奔る。
「いってぇ…」
でこピンされたと瞬時に理解した。
「惜しかったな。あそこで突っ込んでくるとは思わなかったぞ。成長したな。」
龍宮さんはそう言って頭を撫でる。
それから龍宮さんは恵美の方向へ振り返り
「まぁ、こんな感じだ。恵美ちゃんの本気をぶつけてくれ。」
と言う。
その言葉に恵美は
「はい!」
と強く返事をするのであった。
次回に続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます