第四話 過去と現在と能力と
第四話 過去と
謎の男から恵美を助けた俺と岩本さんは、恵美にある質問をした。
「それで、恵美。なんで、お前は襲われたんだ?」
すると恵美は俯きながら
「もう、隠してもムダみたいだね。」
と言い真実を語り始める。
「まず、私があの男に狙われていた理由を説明するには、私の過去を知ってもらう必要があるね。私は、少し前まで能力についての研究をしていたの。」
「少し前?」
「うん。私が小学生くらいの時かな?もちろん、私だけじゃなくて家族とだよ。そして、研究の結果ある薬ができたの。その薬の効果は『能力の性能を向上させる』…」
「おいおい、能力の性能を上げる?そんなの聞いたことないぞ。」
隣で話を聞いていた岩本さんの言葉に、恵美は一回頷いて
「それはそのはず。薬の実験体になった私が能力を暴走させて、その薬は使用も製造も禁止になり、薬の存在を知っているのは私の家族と一部の政治家だけだから。」
「そんな重要なこと、俺達が聞いてもいいのか?」
俺が問うと
「いいよ。この問題に巻き込んでしまったのであれば、知ってもらわないといけないから。」
と申し訳なさそうな表情で恵美は答えた。
「そして、私を襲ったあの男。あの人はどこからか情報を得ていた。たぶんあの人は大人達を狙うより、子供の私を狙った方がいいと判断したんだと思う。これが、私の襲われた理由。」
恵美は話し終えると、「巻き込んで、ごめん…」と深々と頭を下げた。
「いや、大丈夫だから頭を上げて。」
俺が優しく声をかけると、恵美は「ありがとう。」と微笑んだ。
「だが、情報が漏れていたとなると、これからも恵美は狙われる可能性があるな…」
俺の横で、岩本さんが眉間にシワを寄せて言った。
「じゃあ、恵美に護身術を教えてあげればいいんじゃないですか?」
俺の質問に岩本さんは首を横に振る。
「確かに護身術があれば素人に襲われて負けることはないだろう。だが、リスクを負ってまで恵美を狙うということは自分の実力に自信があるということだ。そんなやつに身体強化系能力者以外の護身術は意味がないだろう。」
恵美には悪いが、俺は岩本さんの言葉に納得してしまった。
「あのー。私の能力を、身を守れる様に最低限でいいので鍛えてもらえないですか?」
恵美は小さな声でお願いする。それに対して岩本さんは
「それは難しいな。自分と近い能力や、体の動かし方でどうにかなる身体強化系以外は感覚が全然違うから、教えられることがないんだ。すまん…」
と申し訳なさそうに言った。
「そういえば、恵美の能力は使うのが難しいって言ってたけど、どんな感じで難しいんだ?」
岩本さんの言葉を最後に少しの沈黙があった。だが、そんな俺のふとした疑問によってその沈黙は破られた。
「えっと、それは…」
俺の質問に恵美は言葉を詰まらせたあと、少しして口を開く。
「まず、私の能力は天気によって効果が変わることは知ってるよね。それだけだったら能力を使うことに関しては何も問題ないんだ。昔は結構能力を使って遊んでたし。でも、問題はその後起きた能力の暴走にあるの。」
恵美はここまで語ると、少し眉をひそめる。時間にして3秒ほど恵美は黙り、それから真実を語った。
「私の能力は暴走が収まった後から、使おうとすると何故かリミッターがかかって能力が不発もしくは、すごく弱い力での発動になってしまうの。だから、私の能力は使うのが難しいと伝えたんだ。」
恵美の答えに俺はなんと返せばいいかわからなかった。
能力自体の扱いが難しいなら他の人のアドバイスでなんとか解決できたかもしれない。だが、恵美は能力に何らかの不具合が生じていて、その結果が能力を使えない。おそらく恵美の症状は前代未聞の出来事だろう。
「
俺が考え込んでいると、岩本さんが腕を組みながら言った。
「仁美?誰ですか?その人。」
俺が尋ねると、岩本さんは首を傾げながら
「仁美さんはお前のおばさんだぞ。知らなかったのか?」
と言う。
「いや、小さい頃から『おばさん』としか呼んでいなかったので…周りの人も『神崎さん』としか言ってなかったし…」
「お、おう。そうか…」
俺の返答に面食らった岩本さんは、そんな言葉を零した。
「それで、その仁美さんならどうにかできると言うのはどういうことですか?」
「あぁ、それは…」
恵美の質問で、我に返った岩本さんは理由を説明する。
それから、俺達3人は俺の家━おばさんの居場所に移り、事情を話した。
「なるほどねー。状況は半分くらい理解したわ!」
すると、おばさんはポンッという効果音がなりそうなポーズでそう言った。
「本当に理解してますか?」
岩本さんはヤレヤレといった様子で問うと
「も、もちろんよ。」
と目を泳がせながら言う。
「つまり、私の『能力を知る能力』で恵美ちゃんの能力の詳細まで調べて、能力を使いこなせるようにアドバイスすればいいのよね。」
「えぇ、ちゃんと理解してくれてて助かりまた。」
「いやぁ、それにしても健ちゃんが私を頼ってくれて嬉しいよ。最近会ってなかったけど由美とは仲良くやってんの?」
「えっと、まぁ…」
それからしばらく岩本さんとおばさんは話に花を咲かせて
「本題に戻りますが、そろそろ恵美の能力の詳細を見てくれませんか。」
と岩本さんが咳払いをして話を戻した。
「あ、そうだった。忘れてたわ。てへへ…」
そろそろ恵美も理解してきただろうが、俺のおばさんは結構軽い感じの人だ。見た目も20代前半くらいで、だいぶ若く見える。実年齢は30代後半くらいのはずなのだがな…
「じゃあ、恵美ちゃん。こっち来て手を貸してくれる?じゃないと詳細までは見れないから。」
「はい。これでいいですか?」
恵美は、おばさんの指示に従って右手を差し出す。その手にそっと触れたおばさんは能力を発動して
「なるほどね。結構厄介だわ…」
と言葉を零した。
俺が「なぜ?」と聞く前におばさんは説明し始めた。
「まず、恵美ちゃんの能力は彼女の言っていた通り、『天気を司る能力』だった。でも、何らかの出来事、おそらく能力の暴走ね。それで能力が別の物に変わってしまった。」
能力について説明しているおばさんの表情はとても険しかった。
「そして、恵美ちゃんの今の能力。それは『自然を集める能力』。」
その言葉を聞いた瞬間、俺と恵美は首を傾げた。
だが、岩本さんは腕を組み、難しい顔をした。
「確かに厄介だ。結果的な効果は同じでも過程が全然違う。恵美ちゃんは、能力を使えるようになると思います?」
岩本さんの質問におばさんは
「うーん。恵美ちゃんの才能にもよると思うけど、元の能力よりは劣ると思う。でも、一回でも感覚を掴めればある程度は使えるようになると思うよ。」
と答える。
そして全員が少しの間黙り込み、その後恵美が口を開いた。
「えっと、能力って変わったりするんですか?」
それは俺も抱いていた疑問だった。
おばさんはしばし考えた後
「変わる人はいるわ。結構な確率だけど。」
と答えた。そして付け加えるように説明する。
「まず、前提知識として能力とはその人の体に見合った強さの物が生まれたときに宿るの。で、能力が変わる状況は2つあって、1つは体が急激に強くなった時。そしてもう1つが恵美ちゃんの様に限界を超える強さの能力を発動させた時。」
能力を持たない俺にはよくわからないが、とりあえず能力が変化することは珍しいけど、ありえないことではないとわかった。
「まず最初の方はそもそもの体と能力自体が弱い場合に、器となる体の成長と共に精度や強度が増す感じ。次の方は火事場の馬鹿力みたいな感じで普段では出せない力を出したことによって能力が破壊され、その体に適した新しい能力が宿るという感じ。でも、どちらの事例も結構珍しいわ。」
それからまたしても、おばさんは俺のわからないことを解説していった。
だがまぁ、簡単にまとめると、能力は体の成長とともに強くなる場合と、能力の限界を超えることによって別の物に変化する場合があるということだろう。
「あのさ、恵美の能力が変わったことは理解できたんだけど、なんで能力が変わると能力が使えなくなるの?効果が違うとはいえ同じ能力でしょ?」
俺は、頭に浮かんだ疑問をそのまま言葉にする。
「そうね。壱には能力がないからわからないと思うけど、能力は手足を動かすのと同じで感覚で使ってるの。動物の尻尾とかと同じ感覚なのかしら?能力が変わるのは自分の脚が鉄になるのと同じ様なもの。」
するとおばさんは、俺にわかりやすいように例えを使って説明してくれる。そして
「でも、その鉄の脚も使いこなせば金属を蹴り感覚で使える。だから、慣れれば恵美ちゃんも能力を使えるようになるわよ。」
と、おばさんは恵美に笑顔を向けながら付け加える。
「え?あ、はい!」
突然自分に話題が振られた恵美は一瞬驚くが、すぐに笑顔を浮かべ元気よく頷いた。
「そういえば、壱。お前、能力がないってどういうことだ?初耳っていうか、能力がないやつがいるのか?」
岩本さんがそんな質問をしてくる。
その質問に対して俺がどう説明しようか迷っていると、おばさんが岩本さんに俺の過去と、俺が無能力者だったと判明したときのことを話してくれた。
「な、なるほど。にわかには信じられないが、仁美さんが言うなら本当なんですね。」
少し驚いた顔をした岩本さんが言葉を零す。
「そういえば、このことは天や由美は知ってるのか?」
そして、岩本さんは表情を変えずに聞いてきた。
「えっと、龍宮さんは知っていて水野さんは知らないはずです。多分水野さんには身体強化系能力だと伝わってると思います。」
岩本さんの問いに答えると、岩本さんは「わかった」と頷いた。
「あ、そうだ。健ちゃん、このことは他言しないでね。無能力者は前代未聞の出来事で、公になると面倒だから。」
岩本さんがブツブツと独り言を言っていると、おばさんが岩本さんに口止めした。
岩本さんは、その言葉にも二つ返事で承諾し、俺達3人は家を後にするのだった。
次回へ続く
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