第三話 少女の願い
第三話 少女の願い
俺がいじめっ子達を倒してから一週間程が経った。
俺が、いじめっ子達を倒したことは学校中に広まっていた。俺が廊下を歩くと、女子からは「友達になってよ。」男子からは「お前、強かったんだな。」などと声をかけられる。普通なら嬉しい言葉だが、相手は俺が無能力者だからと関わりを持とうとしなかった人達だ。声をかけられても、あまりいい気はしない。
教室にて俺がのんびりとしていると、一人の女子に話しかけられた。その女子は、金色の髪に水色の瞳、綺麗な白い肌の誰もが認めるであろう美少女だった。見た目は中学生くらいだが、うちの高校の制服を着ているので俺と同じ高校生なのだろう。
「あの、君だれ?」
俺は素朴な疑問を口にする。突然、知らない人に声をかけられたら誰だって聞くことだろう。
「わ、私の名前は
と、恵美という少女は言った。
「恵美か…。それで、俺に頼みってのはなんだ?」
「えっと、あなたに私を鍛えてほしいの。」
「・・・え?」
俺の予想していなかった答えに対して俺は素頓狂な声が出た。
「鍛えるって、あの鍛える?」
俺の質問に対して恵美はブンブンと首を縦に振る。
「えーと、ごめん。即答はできない。」
その言葉を聞いた瞬間、恵美はすごく落ち込んだ。
「だから放課後、俺に付いてきてくれ。もしかしたら鍛えてやれるかもしれない。」
俺が言うと、さっきまで泣きそうだった顔は満面の笑みに変わった。
「本当?」
とキラキラした目で聞いてくるので、俺は頷いた。
〜放課後〜
学校を出た後、俺は恵美を連れて岩本さんの所へ行った。
「その子は?」
玄関まで出迎えてくれた岩本さんが、そんな当たり前の反応をする。
「──というわけで、連れてきました。」
俺は岩本さんに、恵美の名前とここまでの経緯を話した。
「恵美を一緒に鍛えてもらえますか?」
「う〜ん。俺だけの判断では決定できんから、とりあえず天に聞いてみる。」
それから、岩本さんはせっかくだからと恵美を家に上げお茶とお茶菓子を出してくれた。
「そういえば、恵美ちゃんの能力ってなに?」
岩本さんが質問した。すると、恵美は
「えっと、私の能力は特殊で、晴れの時は熱、雨の時は水、雷の時は電気、雪の時は氷を操れて、曇の時は雲のように宙に浮かぶことができます。」
と自分の能力について説明した。
俺は、その能力が凄く強いと思った。なので
「聞いた感じだと、お前の能力は凄く強いし鍛えなくてもいいんじゃないのか?」
と言った。しかし、恵美は首を振って否定した。
「そうでもないの。確かに聞くだけじゃ、少しややこしいだけの強い能力だと思うかもしれないけど実際は使うのが難しい能力なんだよね。だから、能力を使わないでも身を守れるように鍛えてほしいんだ。」
「身を守るって、お前誰かに狙われてたりしてんのか?」
俺が聞くと
「そ、そんなことないよ。もしもなにかあった時に大丈夫なように…」
と、恵美はまるで何かを誤魔化すような笑みを浮かべながら言った。
それから俺達は少し雑談をして、解散することになった。
まぁ、俺はここに残って特訓だけど…
〜次の日〜
「おはよー」
と恵美の声が教室に響く。
俺はこの前までいじめられていたので、挨拶されるということに感動を覚えた。
久し振りの挨拶に、どう返事をすればいいかわからなくなり俺は「お、おう…」としか言えなかった。
彼女は、俺の席まで歩いてきた。
「どうした?お前のクラスは隣だろ。」
「え?友達と話したいから来ただけだよ。」
俺が質問すると、彼女は首をかしげながら答えた。
「そうか、変なこと聞いて悪いな。じゃあ、友達のところへ行ってきな。」
友達というワードに少しダメージを受けながら俺がそう言うと、
「え?だから、神崎くんと話しに来たんだって。」
と俺が予想もしなかった答えが返ってきた。
俺は、相手に友達と思われていたことに嬉しさを覚えた。
「どうしたの?涙なんか流して?!?!」
「え?あ、友達って思ってもらえてたことが嬉しくて…」
「なにそれ。」
俺の返しが面白かったのか、彼女は微笑んだ。俺はその笑顔を見て、少しドキッとした。
「あ、そろそろ戻らないと。」
と彼女が言った。時計を見ると、もうすぐホームルームが始まる時間を示していた。
「ばいばい。」
「おう、またな。」
と俺達は挨拶を交わし、彼女は自分のクラスへ帰っていった。
それからは、いつも通り授業を受けた。ただ、俺はいじめられなくなったことから今までより授業に集中することができる様になった。教師達には暴力を振ったことで怒られたが、あの時対処して良かったと最近は授業を受けるたびに思う。
それから特に何事もなく今日の授業が終わる。そして
「神崎くーん。一緒に帰ろ!」
と満面の笑みを浮かべた恵美が俺のもとへ来た。
最近、恵美と話していると周りからの視線が集まって恥ずかしい。まぁ、最近話題の男と美少女が一緒にいれば、誰だって気になるだろう。
「ちょっとこっちに来い」
俺が手招きをしながら小声でそう言うと、恵美は首を傾げてこちらに歩いて来た。
「どうしたの?」
とポカンとした表情で聞いてくる彼女に
「周りからめっちゃ見られるから、もう少し控えめにしてもらえるか?」
と言うと、彼女はあからさまにしょんぼりした。
「おい、見ろよ。神崎のやつ、女の子いじめてるぜ。」
「うわー。」
すると周りの連中が小声で言ってくる。
恵美は今にも泣きそうな顔をしている。そんな表情を少しかわいいと思いながら、俺は解決策を考えるのであった。
そして俺は今、恵美と一緒に帰宅している。なぜかって?
それは、俺が教室から抜け出すために「一緒に帰るぞ!」と言ったからだ。
別に俺は、かわいい子と一緒にいるのが嫌と言うわけではない。むしろ嬉しい。だが、恵美といると周りから視線を集めてしまう。だから、あまり乗り気になれない。
俺がそんなことを考えていると、
「そういえば、特訓の話ってどうなった?」
と恵美に聞かれる。
「まだ、答えが返ってきてないんだ。もう少し待っててくれるか?」
俺が答えると、彼女は一瞬不安な表情を見せた。だが、すぐに笑顔をつくり
「わかった。返事が来たら教えてね。」
と答えた。
それから少し歩いたあと、俺達は家に帰るため別れた。俺が恵美と別れる瞬間に人影が見えた気がするが多分気のせいだろう。
その後、俺は特訓のために岩本さんの家に来ていた。
「お、壱か。さっき天が恵美ちゃんの特訓の件についてOKだと言っていたぞ。「壱は体術を教えて、恵美ちゃんには前に由美とやったようなことを手伝ってもらえばいいよ」と言っていた。」
「わかりました。恵美に伝えときます。」
俺は岩本さんの言葉に頷き、恵美に連絡をしようとスマホを手に取る。
すると、プルルルと俺のスマホに着信が来た。画面を見ると恵美からだった。
「ちょうどよかった。特訓の件、OKだっ…」
「た…すけ…て。」
俺が言い終わる前に彼女が言った。
『助けて』それは、俺に助けを求める声だ。
「今どこにいる?」
俺が聞くと
「神崎くんと別れたあの道の近く。」
と答えた。つまりあの時、俺が気のせいだと思っていたのは 気のせいではなかったということだ。
俺は場所を聞いた瞬間に走り出していた。岩本さんがなにか言っていた気がするが、今の俺にはそれを聞く余裕なんてなかった。
「どこだ?」
俺はさっき恵美と別れた場所まで到着し、辺りを見渡した。
「神崎くん!」
上空から叫び声が聞こえた。とっさに上を見ると宙に浮いている男とそいつに抱えられている恵美がいた。男はこちらに手をかざしている。俺は本能的にそれが危険だと感じ、後ろへ下った。
ヒュン!と俺の目の前を見えない何かが通る。俺が先程いた場所を見ると、硬いはずのコンクリートに無数の傷ができていた。
「あ、危ねぇ。」
俺が安堵していると
「ち、感のいいガキだ…」
男は言い放ち、また俺に手をかざす。次の瞬間、彼の手が少し歪んで見えた。俺はこの感じを知っている。俺の昔の知り合いに風を操るやつがいた。そいつの能力を見せてもらった時も風の周辺が歪んで見えた。
「お前、風を操る能力か?」
俺は男に問うが、男はそれを無視しそれを放つ。だが、回避は俺の得意分野だ。俺はそれを難なく躱した。すると
「舐めんじゃねぇ!」
男はそう言って何度も俺に攻撃を放つ。だが、俺はそれを全て躱す。男は自棄になり、恵美を抱えていた手を離し、両手を使って俺に攻撃を放つ。俺はそれを躱し、落下している恵美を拾い上る。
「大丈夫か?」
俺が問うと恵美は頬を赤くしながら
「う、うん…」
と答えた。
それから俺は恵美をそっと腕から降ろし、男の方を見る。すると男は地に足をつけ、俺にある提案をする。
「そこの女を俺に渡せば、お前を見逃してやる。俺はお前を殺したいわけではない。あくまでも、そこの女に用があるんだ。」
「俺がそんな提案を飲むと思うのか?逆に聞く。なぜお前は恵美を狙う。」
俺が聞くと
「お前には関係ない。それで、お前はそこの女を渡さないってことでいいんだな?」
と男は言い、また俺に攻撃を放つ。その攻撃を避けることは簡単だ。だが、その攻撃は俺が避けると恵美に当たってしまう。なので俺は避けることができず、その攻撃を喰らう。
「ゔ…」
俺は声にならない声を出し、その場に倒れる。俺が動かないことを遠目で確認をした男は、こっちに近づいてくる。恵美は、今の現状に絶望している。
「さぁ、こっちへ来い。」
男は、俺の…いや恵美のすぐそばに来て言った。
「い、いや…」
恵美は顔を真っ青にして言った。だが、男は恵美の言葉を無視し手を伸ばす。
「おい、テメェ。なに俺を倒した気になってんだよ。」
俺は男が恵美を掴む前に、男の足を掴んでいた。
すると男は、恵美に向かって伸ばしていた手を引っ込めて俺のことを見る。そして、とても不機嫌そうに
「あ?邪魔だ。手を離せ。」
と言い放ち、掴まれていない方の足で俺を蹴る。だが、俺は諦めずに掴み続ける。そんな俺に男は蹴りを入れ続ける。
「しつこいぞ!」
男は、俺を蹴りながら言った。そして男は面倒になったのか俺に向けて手をかざし、能力を発動しようとする。
「グハッ!」
だが男の攻撃が俺に当たることはなく、逆に男が誰かの攻撃によってダメージを負っていた。
「大丈夫か?」
絶望的だった状況に響いた声は、とても心強いものだった。
「岩本さん…大丈夫に見えますか?」
俺は、何とか笑みを浮かべて冗談を言う。
「はは、それもそうか。」
岩本さんも笑いなが返す。そして岩本さんは表情を険しくし、男を睨む。
それからは、一方的な暴力だった。岩本さんがとても速い動きで男をボコボコにしていた。もちろん男は能力を使い抵抗しようとする。だが、風と思われる塊を作り終える前に攻撃を喰らい反撃ができていなかった。
「さて、こんなもんか。」
男を倒し終わった岩本さんが、こちらへ戻ってくる。
その後、俺は岩本さんに怪我を治してもらい岩本さんの家に皆で戻るのであった。
次回へ続く
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