第2話

 樹決の入試には、実技試験と筆記試験の2つの項目があった。そこからまず実技試験80%筆記試験20%の割合で上位に入った30名を合格とし、その後彼らを除いて筆記試験80%実技試験20%で上位に入った30名を合格、最後に実技と筆記50%ずつで上位に入った60名を合格とした。少々ややこしい選抜方法だが、要は筆記と実技どちらかが秀でていれば合格になる可能性は十分にあるというものだ。

 久留米はというと、完全に筆記試験のみで入ったようなものだった。久留米自身、実技試験で何をしたか覚えていなかった。彼は生まれながらにして自身が極度の運動音痴であることを自覚していた。だから運動で努力することを全くの無駄だと思っていたし、そのことに劣等感を感じることも既に辞めていた。

 しかしこれは、彼は前線に立つことになんら希望を抱いていないことには何も関係していない。彼には愛国心がないのだ。国のために自らを危険に晒すことを馬鹿げているとすら思っていた。彼が樹決に入った理由は、就職に有利そうだからというだけだ。

 だから彼は、樹決に入っても仲間や友達を作るつもりはなかった。そんなことをしては、雰囲気に流されて危険なことになる気がしていたからだ。彼には愛国心や道徳心がそれほどなかったが、仲の良い人間関係を無視できるほど合理的でもないことを、彼自身よく分かっていた。

 そんなことを座り心地の悪い椅子に座って頬杖をつきながら考えていると、前方の扉を開けて担任らしい人が入ってきた。短髪の黒髪に黒縁の眼鏡をかけていて、高校にいた教師らとあまり変わりはなかった。

「皆さん、おはようございます。僕がこれから皆さんA組を三年間担当します、柊です。よろしくお願いします。」

「これまでの歴史については、これから授業で習うでしょうから長々とお話する必要もないでしょう。世界樹は、今も多くの植物魔を生み出しています。皆さんはこれを打ち倒す可能性を見出された輝かしい才能です。」

「とはいえ、当然ながら植物魔の対策が国にとって皆さん頼りなわけではありません。他にも様々な方達が日夜頑張っておいでです。ですから、皆さんもあまり重圧を感じずに、日々少しずつ世界が良くなるように頑張っていきましょう」

 久留米は、やはり樹決は自分の居場所ではないと思った。ここは自らの才能をひとの為に使うことを厭わないことを前提に作られている。先生の言葉とは裏腹に、自分は自分が生きる為に能力を使うと、彼は姿勢を改めて固めた。

「では、簡単な自己紹介をしてもらいましょうか。これから三年間、この30人一緒に励んでいくわけですから。」

 先生がそういうと席の前の方から皆自己紹介を始めた。久留米はぼうっとして、ほとんど聞いていなかった。正直、彼は早々に皆を見下していた。自分はあまりやる気を出さず、半ばどうでもいいと思いながら受けた試験に、人生をかけて努力してきたのだろう、滑稽だなと思っていた。

 そう思っていた彼だが、ある一つの音でその考えは全くどこかに行ってしまった。それはすごく透明で、葉と葉の擦れるような爽やかな女性の声だった。

「浦和南無です。高校は石川県なので、東京にはこの春初めて来ました。私は世界樹の元に行きたくて、この学校に来ました。」

 大きく冷たい印象の目に、すらっと伸びた高い鼻、控えめな印象を与える口元。肩には届かないほどの黒髪で、すらっとしていて背丈はよくわからない。

 久留米は彼女の自己紹介を賛美する拍手が耳障りに感じるほど、彼女に夢中になってしまった。一瞬で、自分は彼女に会うべくこの学校に来たのだと、確信した。

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対世界樹決戦用人員教育機関学級日誌 あq @etoooooe

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