第2話

 これを恋と呼ぶのなら、恋ってなんて素晴らしいのだろう。


 秋風と出会う前の私の人生は灰色、とまではいかないまでも、つまらないものだった。


 朝起きて、学校に行って、家に帰ってだらだらして、寝る。これの繰り返し。友達はいたけど、頻繁に遊ぶ程でもない。

 退屈な毎日を惰性で生きていた。


 秋風と出会ってそんな退屈な毎日に変化が起きた。といっても、私の生活が劇的に変化したわけではない。

 退屈な毎日に秋風が入り込んできた。ただそれだけで、退屈は退屈ではなくなった。


 私と秋風の出会いは去年の春。高校の入学式の日だ。



「そこ、私の席なんだけど」


 教室に入ると、何故か私の席に秋風が座っていた。


「え? あ、ほんとだ。ごめんごめん」


 秋風の席は窓際最前列。私の席は廊下側から二列目の最後列。未だになんであの時秋風が席を間違えていたのか分からない。


「私は秋風紅葉。よろしく!」

「はいよろしくー」

「おい! 私が名乗ったんだからお前も名乗れよ!」

「初対面でお前呼ばわりしてくる奴に名乗る名はない」


 初対面の印象は、うるさいチビだなー、くらいだった。

 この頃は退屈な毎日を変えようともせず、ただ無関心に生きていた。


「あはは、お前面白いな! えーっと、星乃かえでか。おお! 紅葉と楓! なんかシナジーありそうな名前だな!」

「楓って名前嫌いだから、呼ばないで」


 楓は大嫌いな父がつけた名前だ。だから、私はこの名前が嫌いだ。

 これを言うと大抵は、かわいい名前なのに勿体ない、とか言ってくる。それが嫌だった。けど、秋風は違った。


「そうか、悪かったな。なら、私の事も秋風と呼んでくれ、星乃」


 そんな返しをされたのは初めてだった。だから、少しだけ秋風に興味を持った。


 秋風はすぐにクラスの中心になり、友達もたくさんできた。一方で、教室の隅で仏頂面をしている私に声をかけてくるクラスメイトはいなかった。秋風を除いて。


「星乃、昼ご飯一緒に食べよう」


「眉間にしわ寄せてどうした? お腹痛いのか? 背中さすってやろうか?」


「ほ~し~の~、勉強教えてくれ~」


 秋風は、遠慮も躊躇もなく私の世界に入り込んできた。

 退屈に辟易しながら、退屈な世界に閉じこもっていた私にとって、秋風は救世主だった。


 たぶん、この時にはもう秋風の事を好きになっていた。

 その事を認めたくなくて、私は渋々秋風に付き合ってやっている、という態度を全面に出していたけど、それが照れ隠しという事は秋風にはバレていただろう。いや、どうだろう?


 ともかく、そんなこんなで、私の退屈な世界は秋風のおかげで一変した。

 

 私にとって秋風が救世主であるように、秋風にとっても私が何かであればいいのに。

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