第17話 SFは間に合っています(その2)


 僕は、渋谷さんと仲直りできたら渡すプレゼントをどうにか選んで、帰路についていた。あたりは、すっかり暗い。


 プレゼントの入った紙製の手提げ袋ががさがさ、と音を立て、団らんの声があちこちから聞こえてくる住宅街に対抗する。


 スマホで時刻を確認したところ、午後八時を過ぎていた。


 今更ながら、学校が終わってからプレゼント選びに時間をかけすぎてしまった。


 何せ女子にプレゼントなんてしたことがないもので……。勢いで飛び出したはいいものの、あんなに悩むことになるとは、思わず、苦戦してしまった。


 まあ、無事に選べたからいいのだけれども。


 と、思ったところで、重大なことを思い出した。


「ココアのおやつ……!」


 プレゼント選びに必死になっていて、完全に忘れていた。


 ――幸い、駅の近くにある大き目のスーパーの閉店時刻は、夜十時。まだまだ、余裕がある。


 今から引き返すのが、面倒な気持ちがないわけではないが、ココアには、少なからず助けてもらっている。そのため、このくらいの面倒は別に苦ではない。


 僕は、来た道を引き返そうと、身体をUターンさせた。


 と、そこで、自分がココアと出会った神社の前にいることに気がついた。


 出会った日にココアが見せたドヤ顔を思い出し、思わず吹き出しそうになって、慌てて口元を抑える。


 そのときだった――。


 ひゅおおお、と風が吹いた。


 と、同時に人の気配を隣に感じ、後方に僕は、飛びのく。


 そして、飛びのいて下がった視線を上げて、僕の隣に現れた人の姿を確認する。


 僕の隣に突如風と共に現れたのは、六歳、七歳くらいに見える少女だった――。


 ――いや、少女にも見えるし少年にも見える。


 要するに中性的な顔立ちをしている。


 髪が長いため僕には、少女に見えた。


 もしかしたら、少女なのか少年なのか判別に困るようにあえてそのような見た目をしているのかもしれない――。


「何か面白いことでもありましたか……?」


 ……。


 僕は、デジャヴを感じて黙りこくってしまった。


 何せ、少女(僕にとっては)が着ているのは、巫女服のような服。加えて、この世のものとは思えない美しく長い銀髪を少女は、持っていた。


 それに何よりも気になるのは、頭の上についている耳。猫耳。


 コスプレだろうか……?


 場所的に嫌な予感がしているが、とりあえず、希望的観測を持っておいた。


「何を驚いているのですか……? あ、もしかして、わたくしが美しすぎて言葉を失っちゃいましたか……?」


 体をくねらせ、頬を両手で押さえながらはにかむ少女。


 ……。


「それは、仕方のないことです! 何せ、わたくしですから! ええ、わたくしは、超絶美人ですから!」


 どこか舌足らずな口調で少女は、言う。


 自分のことをわたくし、と称しているあたりから、やはり僕の思った通り女の子らしい。


 というか、この子なんか渋谷さんに似ている気がする。


 見た目は全然違うけど、キャラというか、話し方が似ている。


 うーん。とりあえず、話はしておいた方が良さそう。


 そう判断し、僕は、この銀髪の少女と話をすることにした。


 SFは、もう勘弁願いたいけど、多分この子さ……。


「えっと、君、お家は……?」


「お家……? 家なら目の前ですが?」


 銀髪の少女は、境内の方を一瞥した後、首をかしげた。


 うわあ……。これ、絶対あれじゃん。


「その猫耳と巫女服? は、コスプレかな?」


「いえ、正装ですが。後、耳は本物です。触りますか……?」


 少女が頭を下げて触りやすくしてくれたので、僕は、遠慮なく、と少女の猫耳をふにふにしてみた。


 ――しっかり温度がある。


 ただし、ひんやりとしていた。


 不思議に思って、手も触れてみたが、手もひんやりとしていて絹みたいにスベスベだった。


 どうやら、この女の子は、体温が氷のように低いらしい。


 ……。


「君は、一体……?」


 おおよその正体の推測がついてはいるが、希望的観測は捨てずに訊いてみた。


「挨拶が遅れて申し訳ございません」


 少女は、ふぁさ、と巫女服らしき衣装の袖を揺らし、一回転。そして、銀髪を前に垂らし、お辞儀をした。


「わたくし、セツナと申します。わたくしの部下――ココアがお世話になっております。以後、お見知りおきを」


 少女もとい、セツナが顔を上げ、にこり、と微笑んできた。


 ココアが、某有名アニメに登場するキャラクターのように後天的に人間の言葉を覚えたのではないか、とか考えていた矢先にこれだ。


 また、このセリフを言うことになるとは、思っていなかった。


 が、とりあえず、自分の身の上に起きている不可解なできごとを受け入れるための儀式ってことで。


 はい、行きます。


 ――SFは、間に合っていますのでご勘弁を。


 パート2です。

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