第12話 来訪者
『うむ! これは、中々美味じゃの!』
茶色のペルシャ猫が元僕の部屋で皿にのったおやつをぺろぺろ、とおいしそうに食べている。ちなみに、おやつは、僕が先ほど近所の薬局で買ってきた。というか、買いに行かされた。
「で、君は、どこから来たんだい……? 名前は……? 僕を待っていたって何……?」
僕がそう尋ねると、ペルシャ猫は、おやつを食べるのをやめ、顔を上げた。
『まあまあ。そう焦るでない』
ペルシャ猫は、呑気に毛づくろいをし始めた。
「いや、焦るんですが」
『全く……。せっかちな男は嫌われるぞ』
そう言って、ペルシャ猫は毛づくろいを続ける。それは、とても優雅な仕草だった。そして、とても、とても、待たされた。
待つこと五分――。
ペルシャ猫はようやく僕の質問に答え始めてくれるようだ。
『えーっと。それでなんじゃったっけ……?』
「まず、名前を教えてください」
ここで、「名前はまだない」とか言ったらどうしよう。聞いてみて、僕はそんなことを心配していた。
『わらわの名前はココアじゃ』
ペルシャ猫の名前は、毛の色にベストマッチ過ぎる名前だった。少し安直な気もするが、まあ、可愛らしいしいいだろう。オシャレだと思う。
閑話休題。
質問に戻ろう。
「はい、ココアさん。それで、ココアさん、あなたはどこのお家から来たのでしょうか……?」
『こことは別の世界からじゃ。あの神社がこの世界と別世界を繋ぐゲートになっておる』
うん。なんか、ものすごいことが聞こえたような気がする。まあ、猫と会話している時点で、ものすごいのだけれど。
「それで?」
とりあえず、話を聞こう。
『お主らの様子を見てくるようにと、ボスに言われてだな』
うーん……。よくわからない。
お主らって、まさかだけど、僕と渋谷さんのこと……?
「えっと、僕と渋谷さんの様子をですか……?」
『そうじゃ!
「わざわざ、ありがとうございます」
とりあえず、手間を取らせているみたいなので、感謝しておいた。
『いやあ……ほんと、感謝してほしいのじゃ。今日なんて、朝、様子を見た限り、お主が元気そうだったから、まあ、いいかって元の世界に戻ったら、ボスにめちゃくちゃ怒られて……』
とほほ……と、ココアは俯く。
ああ、あの朝のドヤ顔みたいなのは、任務完了! 的なやつだったのか。
僕は、独り納得した。
「そんなこんなで、行き場を失ってここに来ることにしたと」
『ものわかりが早くて助かるのじゃ!』
なぜか、偉そうに胸を張ってココアが言う。
正直、まだ、色々と困惑しているが、とりあえず話を合わせよう。なんだか、最近、とりあえず話を合わせてばかりな気がする。
それは、そうとして。
僕は、こほん、と咳払いをした。
「ちなみにだけど、元の世界に帰る気は……?」
『絶対に帰らん……!』
わかっていたけど、気が重くなった。
「それは、なぜ……?」
『そんなの、決まっとるじゃろ! ボスがカンカンに怒っていて、今は帰るどころの話じゃないのじゃ!』
ココアが僕に涙を流しながら、じゃれついてきた。
「そうっすか……」
よくわからないけど、かわいそうなので、頭を撫でておいた。頭を撫でると、ココアが『よいぞ、よいぞ、もっと撫でろ』と目を瞑りながら言った。毛ざわりは、昔、一斗と行った猫カフェにいたペルシャ猫とさほど大差なかった。
『ってことで、これからよろしく頼む』
そう言って、ココアは、窓際にあくびをしながら向かい、横たわった。どうやら、もう寝るつもりらしい。
「はあ……」
何を言っても、もう絶対に帰らなさそうであるため、僕は諦めた。
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